26. 開店までの準備(2)
エリザは、黒板に次の商品を書いた。
『鍋掴み』
「二枚の布の間に綿を挟んで、手袋の形にします。ただし、指は分けません」
エリザは簡単な絵を描いた。
「最初は指をつけようと思ったんですが、嵌めるのに時間がかかるのでやめました。指がなくても鍋は持てたので、これでいいかなって」
随分、あっさりしている。
「毎回、鍋を掴むために布巾を畳むのが面倒だったんです。それなら、最初から鍋を掴むものを作ればいいと思って」
また、皆は黙った。
鍋を掴むたびに布巾を用意する。
面倒だと思ったことなら、自分たちにもあった。
けれど、それで終わっていた。
「こちらは簡単に模倣されないよう、アシュベリー商会に守ってもらいます」
エリザは皆を見回した。
「何か質問や意見はありますか?」
誰からも手は上がらなかった。
エリザは首を傾げた。
「では、次にいきますね」
(まだ、あるの……?)
エリザが次に書いたのは、
『ティーポットカバー』
「これは、先ほどの鍋掴みと同じように綿を挟んだ布を使います。ティーポットに被せて、お茶を冷めにくくするものです」
エリザが平民になって、一番気になったのが薪代だった。
温かいお茶を飲めるのは、食後くらい。
寝る前には、すっかり冷めていた。
「これなら、薪を使わなくても温かいお茶を長く楽しめます」
そこでエリザは、少し考えた。
「貴族にも使ってもらえると思っています」
今度は何だと、皆がエリザを見る。
「お茶を注いでもらうためだけに、使用人にずっと部屋にいてもらう必要がなくなるでしょう? これを掛けて置いてもらえば、好きな時に温かいお茶が飲めます」
平民には、薪の節約。
貴族には、気兼ねなく一人で過ごす時間。
同じ商品でも、使う人によって価値が違う。
「貴族向けのティーポットカバーは、刺繍やデザインにもこだわりたいと思っています。ミラさん、中心になってお願いできますか?」
「……はい」
ミラは少し驚きながら答えた。
エリザは三人を皆に紹介した。
「検品責任者をハンナさん。商品開発責任者をミラさん。現場責任者をカノさんにお願いします」
三人が軽く会釈する。
「もちろん、これで役職が埋まったわけではありません」
皆が顔を上げた。
「働き次第で、皆さんにも役職をお願いします。事業が大きくなれば、もっと責任者が必要になりますから」
さっきまでとは、空気が変わった。
自分の工房。
自分のデザイン。
自分のブランド。
一度は夢を見て、諦めた。
エリザの才能を目の前にして、悔しくもなった。
けれど――
ここなら、まだ上を目指せる。
女たちの目が、少しだけ輝いた。




