25. 開店までの準備
エリザは、特にキラリと光った三人を選んだ。
一人目は、ハンナ。
エリザが以前作った青いバラ。その刺繍を、寸分違わず刺してきた。
技術も高く、たくさん働きたいとのことだったので、検品の責任者になってもらった。
二人目は、元デザイナーのミラ。
刺繍のデザインも素晴らしく、技術も非常に高い。さすが、有名服飾店の工房にいただけのことはある。
今後、デザインや商品開発の中心になってもらうつもりだ。
三人目は、なんとカノネェさん。
面接にカノネェさんが混ざっていた時は、本当に驚いた。
家がすぐ隣なので、まだ子どもは小さいが都合がつきやすいらしい。
カノネェさんには、現場責任者になってもらった。
技術だけでは、人はまとまらない。カノネェさんの人柄なら、みんなを引っ張っていってくれると思った。
三人には責任を持ってもらう分、役職手当をつけた。
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「本日は、お集まりいただきありがとうございます」
育児が終わり、比較的長く働ける十人の開店メンバーが集まった。
「工房主のエリザでございます」
エリザは一度、全員を見回した。
「皆さん、先ほどは契約書にサインいただき、ありがとうございます。これからお話しすることは、絶対に口外しないでください」
まだ発売前の商品だ。
ここで漏れれば、すべてが台無しになる。
ベッドをずらし、そこに長机を置いた。
十人が座れば、ぎゅうぎゅうだ。
壁の片側には、大きな黒板を掛けてある。
「では、まず商品説明をします。質問や意見があれば、その都度おっしゃってください」
エリザは黒板にサーッと文字を書いた。
『巻きスカート』
その下に、簡単な絵を描いていく。
「丈は膝下です。一枚の布を腰に巻いて、二つの紐の輪を、二つ一組になったボタンに引っ掛けます」
ボタンは四つ。
二つずつ、留める位置を変えられるようになっている。
「一枚で穿く時と、服の上から穿く時で位置を変えます。最後に腰紐をきゅっと結べば終わりです」
作り方は、驚くほど簡単だった。
「私、洗濯のたびにスカートをまくり上げるのが嫌だったんです。これなら、その必要がないでしょう?」
汚れれば脱いで洗えばいい。
一枚布なので、乾くのも早い。
両脇には、大きめのポケットもついている。
「ここに財布を入れておけば、買い物にも手ぶらで行けます。鞄を置き忘れたり、盗まれたりする心配も減ります」
最後に、エリザは裾を指差した。
そこには、小さな四つ葉の刺繍が入っている。
「それに、可愛いです」
エリザは、そこが一番大切だと言わんばかりに胸を張った。
誰も何も言わなかった。
本気だったからこそ、一度は夢を見る。
自分の工房を持ちたい。
自分のデザインを世に出したい。
自分のブランドを持ちたい。
けれど、それを叶えられる者はほんの一握りだ。
子どもがいたから。
家庭があったから。
だから諦めたのだと、どこかで思っていた。
けれど、目の前の少女を見て思う。
――才能の差だったのかもしれない。
好きだったからこそ、悔しかった。
目の前にいる少女は、自分たちが何年も夢見ていた場所に立とうとしている。
しかも、自分たちが思いつきもしなかった商品を持って。
「あの……」
沈黙を破ったのはハンナだった。
「こんなに簡単なデザインだと、すぐに真似されませんか?」
エリザは頷いた。
「ええ。真似されると思います」
あまりにもあっさり答えたので、ハンナは目を瞬いた。
「だから、真似されても、こちらを選んでもらえるようにします」
エリザは黒板の四つ葉を指差した。
「ファッション性を高めて、ブランドにします。私はこのブランドを着ているんだぞって、ちょっと自慢したくなるようなものにしたいんです」
腰紐をリボンにする。
色を変える。
刺繍も変える。
けれど、一目見れば同じブランドだと分かるようにする。
「便利だから買う。でも、可愛いからこれを選ぶ。そんな商品にしたいんです」
また、誰も何も言わなくなった。
長く服を作ってきた。
美しく見せることも考えた。
流行も追ってきた。
けれど、洗濯を楽にするために服を作ろうとは考えなかった。
そして、簡単に真似される商品なら、真似されても選ばれるものにすればいい。
自分たちより、ずっと若い少女。
それでも今、この場所では。
エリザが、自分たちの工房主なのだ。




