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『貢いで貢いで貢いだ先に何がありますか? ~エリザが再起を遂げるまで~』  作者: 蒼


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幕間 ある女のキャリア

私は、有名な服飾店のデザイナーだった。

貴族の方々、一人一人の個性に合わせてドレスのデザインを考えていた。


十三歳の時、服飾店の工房へ奉公に出された。

簡単な読み書きしかできなかった私は、下働きから始まった。


毎日、毎日、掃除に追われた。


針が一本でもなくなれば、見つかるまで探した。

納期が近づけば、工房の空気は張り詰める。

邪魔にならないよう、床に落ちた糸屑を拾い集めた。

寒い日も、冷たい水で糊付けをした。

手があかぎれだらけになっても我慢した。

道具を手入れし、朝から晩まで働いた。


それでも、楽しかった。


いつか自分もドレスを仕立てたい。


先輩たちの手元を盗み見ながら、少しずつ仕事を覚えていった。


やがて、私にも仕事を任せてもらえるようになった。

裁断。

縫製。

刺繍。

フリルを作ることも覚えた。


念願だったドレスやコートも、先輩について作れるようになった。


毎日、毎日、必死だった。

どんな形なら美しく見えるのか。

どんな形なら動きやすいのか。

時間さえあれば考え、紙にデザインを描いた。


その一枚が、女将さんの目に留まった。

私は大抜擢され、デザイナーとして貴族のお客様の前に立つことになった。

奉公人からデザイナーになったのは、私が初めてだったらしい。


本当に楽しかった。


毎日、毎日、絵を描いた。

お客様に似合う服を考えるのが、楽しくて仕方なかった。


けれど、それも長くは続かなかった。

大抜擢された私を快く思わない者もいた。

いつしか工房の空気は、ぎすぎすしたものになっていた。

見かねた女将さんは、私の奉公の年季が明けると夫となる人を紹介してくれた。

私は工房を追い出されるような形で、結婚した。


すぐに子どもが生まれた。


それからは、慌ただしい毎日だった。

やがて子どもたちの手が離れた。


私は、もう一度服飾の仕事をしようと思った。

昔のスケッチブックを抱え、いくつもの工房を訪ねた。

「ごめんなさい。うちの工房には合わないわ」

どこへ行っても、似たような返事だった。


服飾の世界から離れている間に、私は流行を追えなくなっていた。

かつては最先端のデザインを考えていたのに。


それならばと、縫製や刺繍の仕事を頼んだ。

けれど、

「それだけの経歴をお持ちなら、うちでは勿体ないです」

遠回しに断られた。

要するに、使いにくいのだろう。


それでも諦めきれず、小物を作って雑貨屋へ持ち込んだ。

「うちの店とは、少し雰囲気が違いますね」

はっきりと断られた。


私は、筆を折った。

生活のため、食堂で皿を洗った。

誰にでもできる仕事だった。

十三歳から積み重ねてきたものは、何だったのだろう。

そう思うこともあった。


けれど、考えても生活は変わらない。

私はただ、毎日の暮らしに追われた。


そんなある日、近所の人が新聞を持ってきた。

工房経験者募集。

勤務時間は自由。

子ども連れ可。乳児を背負っての作業可。

ブランクのある方も歓迎。

新商品発売後は、持ち帰り仕事も可。

完成品は検品後、その場で出来高を支払います。

――アシュベリー商会


「あなた、昔服を作っていたでしょう?」

そう言って、新聞を渡された。


最後の挑戦にしよう。

そう思った。


面接へ向かうと、若い母親たちが大勢いた。

赤ちゃんを背負った女性もいる。

小さな子どもの手を引いた女性もいる。

私は場違いだったかもしれない。

そう思いながら、小さくなって開始時間を待った。


経歴書と引き換えに、一枚の布を渡された。

ハンカチに仕立て、好きな刺繍を入れてくるように言われた。


私は久しぶりに針を持った。

一針、一針。

十三歳から培ってきた技術を、その小さな布へ埋め込んでいった。


そして、面接の日。

工房主は私のハンカチを見るなり言った。

「素晴らしい技術ですね」

それが最初の言葉だった。

「ですが、私は長く服飾の仕事を離れていました。今の流行も分かりません」


そう伝えると、工房主は困ったような顔をした。

「ごめんなさい。私がお願いしたいのは、そんなに難しいものではないの。それでもいいかしら?」


私は驚いた。

断られるのではない。

向こうが恐縮している。

「もちろん構いません。どんな仕事でもさせていただきます」

「ありがとうございます」

工房主は嬉しそうに笑った。


「契約を結ぶまでは詳しいことを言えないのだけれど……できれば、たくさんお願いしたいの。お願いできるかしら?」

「はい。頑張ります」

これが、私が服飾の世界へ戻る第一歩だった。


その工房は、以前いた場所とはまるで違った。

誰かの子どもが熱を出せば、別の者が仕事を引き受ける。

赤ちゃんが泣けば、手の空いた者があやす。

誰かが困っていれば、誰かが手を貸した。

かつて実力だけを頼りに生きてきた私には、あまりにも生温い工房だった。


正直、最初は苛立つこともあった。

なぜ他人の仕事を手伝うのか。

なぜもっと競わないのか。

そう思っていた。


けれど、いつからだろう。

助け合って働くのも悪くない。

そう思えるようになった。


やがて工房は大きくなった。

扱う商品も増えていった。

そして、とうとうドレスを手掛けることになった。


私にも、もう一度デザインをする機会が与えられた。


十三歳の頃。

冷たい水で赤くなった手を擦りながら、先輩たちが作るドレスを眺めていた。

いつか、自分も作りたい。

そう願っていた。


一度は叶った。

一度は失った。

けれど、もう一度戻ってくることができた。


私は、働ける最後の日まで、この工房で針を持ち続けたいと思っている。

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