↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『貢いで貢いで貢いだ先に何がありますか? ~エリザが再起を遂げるまで~』  作者: 蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/44

24. まずは人材集めましょう。(3)

困ったことになった。


面接開始の少し前。

エリザが新しい工房へ向かうと、すでに大勢の女性が並んでいた。

五十人近くはいる。


(うそ……こんなに?)

エリザは慌てて工房へ入った。


列には赤ちゃんを背負った女性もいれば、子どもの手を繋いだ女性もいる。

若い女性から、中年の女性まで様々だった。


(そうだわ……)

エリザは実技試験用に用意していた布を取り出すと、次々とハンカチほどの大きさに切っていった。

それから紙に日時を書き込んでいく。

準備を終えると、列の前に立った。


「皆さん、本日は来ていただき、ありがとうございます」

一斉に視線が集まる。


「お待ちいただくのも大変ですし、子どもたちも飽きてしまうと思いますので、今日は経歴を書いた紙と、この布を交換させていただきます」

エリザは布を一枚掲げた。


「これをハンカチに仕立てて、刺繍を一つ入れてきてください。図柄は何でも構いません」

女性たちがざわめいた。


「紙に書かれた日時にもう一度来てください。その時に作品を見せていただいて、一人ずつお話をさせていただきます。よろしくお願いします」


エリザは列の先頭から経歴書を受け取り、代わりに布と日時を書いた紙を渡していった。


受け取った女性たちは、順番に帰っていく。

あれほど長かった列は、思ったより早くなくなった。


工房で、マーサとエリザはお茶を飲んでいた。

「マーサ、凄い数の方が来てくださったわね」

「私も驚いたよ。まさか、あんなに来るとはね」


エリザは集まった経歴書を一枚ずつ見ていった。

有名な服飾店の工房で働いていた者。

商品の図案を描いていた者。

現場を任されていた者までいる。


「マーサ、凄いわ」

エリザは経歴書をぺらぺらとめくった。

「皆さん、十六歳くらいから奉公に出たり、下働きから始めたりしてる。一人前になった頃に子どもが生まれて、仕事を辞めた方が多いみたい」

「そうだろうね」


マーサは少し寂しそうな目をした。

「信頼が大切な世界だからね。子どもが熱を出しただの、急に休むだのが続けば、店の方も仕事を任せにくくなる」

「育児を終えたのに、再び働く場所が見つからなかった方も十人くらいいるわ」


エリザは少し考えた。

「まずは、その方たちに多めに工房へ来てもらえばいいんじゃないかしら。慣れてきたら、子育て中のお母さんたちにも少しずつ仕事をお願いするの」


マーサが眉を上げた。

「エリザ、お前さん……全員雇う気かい?」

「ええ」

エリザは不思議そうにマーサを見た。


「だって、そのうち人が足りなくなるでしょう?」

さらりと言うエリザを、マーサは黙って見つめた。


五十人。


マーサには多すぎるように思えた。

けれどエリザには、そうではないらしい。

(この子には、もうその先が見えてるんだね)

マーサは優しい目でエリザを見つめた。


明日から、一人ずつ面接が始まる。


✥✥✥✥


持参されたハンカチは、どれも縫製がしっかりしていた。

端の始末も綺麗で、刺繍も申し分ない。


アシュベリー商会の名で募集したからか、腕に覚えのある者ばかりが集まったらしい。

(これなら、教える手間も少なくて済みそうね)

エリザは安堵した。


「子どもがいても、本当に働けますか?」

面接に来た女性が、不安そうに尋ねた。

「納期に間に合わないこともあるかもしれません。急に熱を出したりすると、どうしても……」

不思議なことに、子育て中の女性は皆、同じことを聞いた。


(それだけ納期の厳しい世界だったのね)

エリザは経歴書へ目を落とした。

十六歳頃から奉公に出て、下働きから技術を身につけた者ばかりだ。


きっと皆、自分の仕事に誇りを持っていたのだろう。

「大丈夫です。納期は目安だと思ってください」

「でも、間に合わなかったら……」

「出来上がった時に持ってきてください。検品に合格したものは、その場でお支払いします」


女性は驚いた顔をした。

「何も言わずに遅れてしまっても、ですか?」

「ええ。子どもが病気の時に、わざわざ工房まで知らせに来るのも大変でしょう?」

エリザは当然のように答えた。


今回、五十人近くの職人が集まっている。

一人に多くの仕事を任せる必要はない。

大勢に少しずつ頼めば、誰かが遅れても、他の者が作った商品が届く。

必要なのは、一人一人が決められた日に持ってくることではない。

全体で、必要な数の商品が揃うことだった。


「ですから、お子さんに何かあった時は、そばにいてあげてください。仕事は、出来る時にしていただければ大丈夫です」

女性の目に、じわりと涙が浮かんだ。

「……ありがとうございます」


その後に面接した女性も、同じだった。

ほっとしたように笑う者。

何度も頭を下げる者。

黙って涙を拭う者までいた。


エリザは少し戸惑った。

子どもが熱を出すのは、その人のせいではない。

それなのに、こんなに腕のある人たちが、子どもを育てるために仕事を諦めてきたのだろうか。

エリザは少しだけ胸が痛んだ。


そして、また一人。

小さな子どもの手を引いた女性が、工房へ入ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。