19. ブランド立ち上げ致しましょう。
「エリザさん、私に投資をさせて頂きませんか?」
オスカーは優しく言うが、目がギラギラしている。
「えっと……よく分からないんですけど」
「失礼……つい興奮して……」
「まず、商品の説明をして貰えますか?」
元貴族の顔が現れる。 エリザは堂々とした姿勢で答えた。
「今回は、キッチンセットを考えました。私が家事をして、不便を感じたことを改善しています」
ほぅ……。マーサが目を細めた。
「まず、エプロンにポケットを付けました。家の中でも、ちょっとしたものを入れられて便利です。それに、財布を入れておけば、そのまま手ぶらで買い物に出かけられます。手提げ袋より、盗まれる心配も少ないと思います」
「素晴らしい。続けて下さい」
オスカーは続きを促した。
「次は、鍋を掴む時、布を折って鍋を掴むのは難しかったので、掴む手袋を考えました」
「こちらも素晴らしい。続けて下さい」
「後は、ティーポットカバーを考えました。薪代の節約で、一日一回のお茶でしたが、ティーポットカバーを掛ければ、寝る前にもお茶を飲めるかなと思いまして」
「素晴らしい」
「母さん、商会がアイデアを買い取って、販路を広げれば、あっという間に広がりますよ」
オスカーが世界を描きだしていた。
「オスカー、何を言ってるんだい。エリザが自分でビジネスするんだ……」
マーサはニヤリとした。
「この子は、あの青バラのハンカチを流行らせたんだよ」
「あのハンカチを作ったのがエリザ嬢ですか。我が商会も手掛けたかったですね」
オスカーがマーサをチラリと見た。
「何を言っているんだい。エリザだからここまで売れたんだ。驕るのもいい加減におし」
ピシャリと言い放つ。
エリザの頬がピンクに染まった。まさかマーサが評価してくれていたとは思わず、照れた。
「ただ、今回はハンカチのビジネスの規模じゃないからね。エリザだけでやるには、すぐに模倣される恐れがある」
マーサはオスカーを見た。
「だから、アシュベリー商会の新しいブランドとして立ち上げる。エリザがそれを大きくするんだよ」
エリザは、まだ理解が追いついていない。
「マーサ、ごめんなさい。まだよく分からないんだけど」
「金と名前は貸してやる。エリザが商売するってことだい。分かったね?」
「えぇ、分かったけど……私にできるかしら?」
「できる、できないじゃない。やるんだよ」
マーサはニヤリと笑った。
「やるんなら、風呂付きの家に引っ越せるよ」
(お風呂に毎日入れるようになるの。)
エリザは、すぐに頷いた。
「決まったね。すぐに引っ越しするよ。 今日からエリザは侯爵邸に住むんだ」
「私、平民よ。そんなの無理よ」
「何を言ってるんだい。エリザは居候だよ。 アイデアを盗まれないようにするのと、これからもっと仕事が忙しくなるから、その対応策だ。 今まで通り、家賃も払って貰うからね」
エリザは少しだけ期待してしまった。 お金を心配せずにすむ生活を。
マーサはマーサだった。 世の中、そんなに甘くない。
家賃は、風呂代だ食事代だ薪代だなんだと、合わせて月銀貨20枚も取られる。
もちろん、支払いが一日でも遅れれば追い出される。
お風呂につられてホイホイ付いてきてしまった自分を、エリザは恨むのだった。




