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『貢いで貢いで貢いだ先に何がありますか? ~エリザが再起を遂げるまで~』  作者: 蒼


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12. お客様という概念

「ほら、ついておいで。昼飯を食べたら仕入れだよ」

マーサに連れられ、昨日訪れた食堂へ入った。


今日は、お肉が食べたい。

エリザはポークソテーを注文した。

しばらくすると、熱々のポークソテーが運ばれてくる。

香草と胡椒。

それに、にんにくの香り。

一口食べると、ガツンとした味が口いっぱいに広がった。

(美味しい……!)

向かいを見る。

マーサは、また白いシチューを食べていた。

(本当にシチューが好きなのね)

二人は黙々と食べ進めた。


食事を終え、会計へ向かう。

すると、マーサが伝票をエリザへ差し出した。

「ほら」

「?」

エリザは伝票とマーサを交互に見る。

「何してるんだい。お前さんの分は自分で払うんだよ。銅貨三枚」

「私も払うの?」

「昨日言っただろう。今日から自分で払うんだよ」

「あ……」

そういえば、そんなことを言われた気がする。


エリザは財布を開いた。

(銀貨一枚を渡したら、銅貨七枚がお釣りね)

銀貨一枚を渡す。

返ってきた銅貨七枚を受け取り、財布へしまった。


店を出て、マーサの後を歩く。

なんとなく、財布が軽くなった気がした。


(今、いくら持っているのかしら……)

歩きながら、頭の中で計算を始める。

執事からもらったお金…銀貨ニ枚。

昨日、日用品を買って残ったお金…銀貨三枚と銅貨一枚。

今払った昼食代…銅貨マイナス三枚。

それから、家から持ってきたドレスがあと三枚。

(あのドレスが同じくらいで売れたら、金貨三枚くらいにはなるわよね)

金貨一枚は、銀貨三十枚。

家賃は、一ヶ月銀貨十枚。

(……あれ?)

エリザの足が少し遅くなった。


家賃だけではない。

食事もいる。

薪もいる。

石鹸もいる。

服だって、いつかは買わなければならない。


(もしかして……半年くらいしか暮らせないんじゃない?)

いや。

もっと早くなくなるかもしれない。


エリザは青ざめた。

急に現実が見えてきた。

(あの食堂も、たまにしか来られないわね……)

つい先ほどまで美味しかったポークソテーが、急にとても高いものに思えてきた。


エリザの財布の紐は、一気に固くなった。

一生懸命計算しているうちに、いつの間にか裁縫屋へ着いていた。


カランカラン。


マーサがドアを開ける。

店の中には、色とりどりの生地や糸が並んでいた。

エリザの目が輝く。


「綺麗……」

「お前さん、何色がいいと思う?」

「私は山吹色が好きだわ」

「お前さんの好みは聞いてないよ」

「え?」

「売るハンカチの色さ」

「あ……」

マーサが呆れたようにエリザを見る。


「また渋い色が好きだねぇ。お前さんが好きな色じゃなくて、買う人が欲しがる色を考えるんだよ」

「買う人……」

エリザは店内の布を見回した。

しばらく考える。


「なら、薄いピンクにするわ」


「ほぅ……」

マーサの片眉が上がった。


「なぜだい?」

「最近、令嬢の間では薄いピンクのドレスが流行り始めているの」

「へぇ」

「平民は、貴族の流行を追うことがあるって聞いたわ。だったら、薄いピンクがいいと思う」


マーサがエリザを見る目が変わった。

伊達に、エリザは男に貢いできたわけではない。

ダミアンと何度も服飾店へ通った。

ダミアンが服のデザインを選んでいる間、暇だったエリザは店員とよく話をしていた。


今はどんな色が流行っているのか。

どんな形が人気なのか。

服はどうやって作られるのか。

生地を選び、裁断し、縫い上げる。

一着の服が出来上がるまでの一連の流れも、何度となく聞いていた。


「……もしかしたら、いい拾い物をしたかもしれないね」

マーサが小さく呟いた。


「何か言った?」

「何でもないよ」


マーサはさっさと店の奥へ進んでいく。


「ほら。商売するなら、まずは道具と材料だ」

薄いピンクの布を一巻。

刺繍糸を十五色ほど。

裁ち鋏。

針。

その他、必要な裁縫道具を揃えていく。

会計は――。

銀貨三枚と銅貨七枚。

「…………」


エリザは財布を開いた。

つい先ほど、残りのお金を計算したばかりである。

そこから、さらにお金が消えていく。

(お金を稼ぐために、お金がいるのね……)

エリザは恐る恐る代金を支払った。


手元のお金は、ますます少なくなった。


風前の灯である。

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