第二十章 一位の卒業式
卒業式の朝は、これまでにないほど澄んだ青空が広がっていた。
王立アストレア魔法学園の卒業生たちが、正装に身を包み、大講堂へと集まってくる。
私もまた、これまでの三年間を締めくくるこの日を、静かな気持ちで迎えていた。
式が始まる前、正式に訂正されたランキングが、掲示板に張り出された。
一位 リリアーナ
二位 クラウス
三位 ノア
四位 ハインリッヒ
五十二位 セレフィナ
これが、最終的な、そして正当な順位だった。
三年間、積み重ねてきた努力が、ようやく正しい形で認められた瞬間だった。
けれど、その数字を見つめながら、私の胸に去来していたのは、単純な喜びだけではなかった。
長い戦いの果てに辿り着いた結果には、これまでの苦しみや孤独の記憶も、確かに刻み込まれていた。
査問会での顛末を受け、不正に加担した教師たちには、厳しい処分が下された。
彼らは免職となり、王国教育機関からの永久追放が言い渡された。
善意のつもりであったとしても、事実を歪めた責任は、決して軽いものではなかった。
生徒会長を務めていたエドガーもまた、責任を取る形で辞任した。
彼は最後まで規律を重んじる姿勢を崩さず、静かにこう告げていた。
「私は、事実よりも秩序を優先してしまった」
卒業後は、地方行政の現場で、一から学び直す道を選んだのだという。
その決断には、彼なりの誠実さが滲んでいるように感じられた。
ハインリッヒについても、正式な処分が下された。
王位継承権そのものは維持されるものの、王としての資質を改めて学び直すため、数年間にわたる地方視察と政治研修が命じられていた。
式の後、彼は私の前に立ち、深く頭を下げた。
「君の価値を、他人の評価で決めた」
その言葉には、これまでの後悔が、そのまま滲み出ているようだった。
私はしばらく彼を見つめた後、静かに口を開いた。
「その謝罪だけで、十分です」
これ以上、多くを語る必要はなかった。
過去を変えることはできない。
けれど、互いにこれから歩む道の中で、今日の言葉を礎にしていくことはできるはずだ。
セレフィナについては、退学という処分にはならなかった。
卒業そのものは認められている。
けれど、五十二位という順位だけが、これまで積み重ねてきたものの、偽りのない結果として残された。
式典の最中、彼女の周りには、もう誰も近寄ろうとはしなかった。
かつてあれほど多くの人々に囲まれていた彼女が、今は一人、静かに壇上を見つめている。
その光景を目にしながら、私は複雑な感情を抱かずにはいられなかった。
式が終わり、卒業生たちがそれぞれの進路について語り合う中、私のもとにも、いくつかの誘いが届いていた。
魔法庁からは、研究職としての招聘。
騎士団からは、参謀としての打診。
そして王立大学からは、教授候補としての提案。
これまでの努力が、ようやく正当な評価とともに、確かな未来へと繋がっていくのを感じていた。
夕暮れ時、講堂の外に広がる庭園で、私はノアと二人、静かに立っていた。
これまでの長い道のりを、共に歩んできた相手だった。
彼は少し緊張した面持ちで、私の方を向いた。
「君の隣なら、一生退屈しない」
その言葉とともに、彼は正式に、求婚の意を示した。
飾らない、けれど確かな想いの込められた言葉だった。
私は少し照れくささを覚えながら、小さく微笑んだ。
「まずは、研究仲間からお願いします」
その返事に、ノアもまた、珍しく柔らかな笑みを浮かべていた。
すぐにすべてが決まるわけではない。
けれど、これから先の未来を、共に歩んでいく確かな一歩を、私たちはこの日、静かに踏み出していた。




