第十八章 暴かれたランキング
卒業試験、最終日を迎えた。
すべての試験科目が終了し、いよいよ閉会式の時間がやってくる。
これまでの三日間の結果を集計した、外部審査による最終順位が発表される瞬間だった。
大講堂には、生徒、保護者、教師、そして各界から招かれた来賓たちが、一堂に会していた。
壇上に立った審査委員長が、静かに結果を読み上げていく。
一位 リリアーナ
その名が呼ばれた瞬間、会場中から大きな拍手が沸き起こった。
これまでの理不尽な評価を知る者たちにとって、この結果は、ようやく訪れた正当な評価の証だった。
続く順位も、次々と読み上げられていく。
二位 クラウス
四位 ノア
三十八位 セレフィナ
その数字が読み上げられた瞬間、会場が大きくざわめいた。
外部審査だけで構成されたこの結果は、これまで学園内で維持されてきた序列とは、あまりにもかけ離れたものだった。
けれど、この日起きたのは、それだけではなかった。
閉会式の途中、壇上に見慣れない一団が現れた。
王国監査局の職員たちだった。
その先頭に立つ監査局長が、マイクの前に進み出る。
「本学園のランキングについて、重大な報告があります」
その一言に、講堂内は水を打ったように静まり返った。
監査局長の説明が始まった。
これまでノアが密かに準備を進めていた資料提出の申請を受け、監査局が独自に調査を進めていたのだという。
ノアが壇上へと呼ばれ、これまで集めてきたすべての証拠を提出した。
歴代の採点表、外部試験の結果、そして教師たちの評価記録。
一つ一つが、丁寧に整理された状態で、監査局の職員へと手渡されていく。
同時に、教頭であるイザベラ先生も、自身が独自に進めていた調査結果を報告した。
彼女は静かな、けれど確かな怒りを滲ませながら、口を開いた。
「教師数名が、毎週、品格・協調性の項目において、不自然な採点を繰り返していたことが確認されました」
会場が再びざわめきに包まれる中、監査局の職員に促されるように、当該の教師たちが壇上へと進み出た。
その中には、私の担任であるマグナス・ロイド先生の姿もあった。
しばらくの沈黙の後、一人の教師が、絞り出すような声で口を開いた。
「セレフィナは、王国に必要だと思った」
その言葉に、会場中の視線が、彼らへと集中する。
教師は、震える声で続けた。
「はっきり言う、リリアーナ嬢では、人気が出ない」
「だから、評価を調整した」
その告白に、講堂内は再び静まり返った。
けれど、その内容は、私が予想していたものとは、少し違っていた。
金銭のやり取りがあったわけではない。
明確な指示系統があったわけでもない。
教師たちはただ、自分たちの判断で、「国民に愛される王妃像」を作り上げようとしていた。
能力ではなく、人気を基準に据えるという、善意にも似た歪んだ信念のもとに。
その様子を見ていた監査局長が、静かに、けれど鋭くこう告げた。
「あなた方は、こう主張するのですか。改ざんはしていない、と」
教師の一人が、震えながら頷いた。
「評価基準に、確かに沿っていたつもりです。私たちは、セレフィナの人柄を、心から評価していました」
その言葉に、会場全体が困惑した空気に包まれる。
不正の意図を否定する教師たちの主張は、ある意味では、真実だったのかもしれない。
そこで、これまで静かに事態を見守っていたイザベラ先生が、一歩前へと進み出た。
彼女の声は、決して大きくはなかった。
けれど、講堂の隅々にまで、はっきりと届く強さを持っていた。
「評価とは事実を書くものです」
一拍置いて、彼女は続けた。
「印象を書くものではありません」
その一言に、壇上に立つ教師たちの顔が、一様に青ざめていった。
彼らは、悪意を持って不正を働いたわけではないのかもしれない。
けれど、事実に基づいて評価するという、教師としての最も基本的な職務を、彼らは放棄していたのだ。
不正ではなく、職務放棄。
その言葉が、これまでのすべての矛盾を、静かに説明していた。
実技の点数はそのまま。
けれど、主観で判断できる項目だけが、印象によって塗り替えられ続けていた。
私は壇上の教師たちを見つめながら、複雑な感情に包まれていた。
明確な悪意による陰謀を暴いたという達成感よりも、もっと根深い、人間の弱さのようなものを、目の当たりにした気がしていた。
けれど、この日暴かれたのは、それだけではなかった。
セレフィナが証言のために壇上へと呼ばれる。
彼女は、これまでと変わらぬ、涙を浮かべた表情でこう訴えた。
「私は知りません!」
その声は、これまでの査問会と同じように、周囲の同情を誘うものだった。
けれど、今回は違った。
ノアが、静かに一枚の資料を取り出す。
それは、旧図書館の閉架書庫から発見された、古い通信用の魔道具の記録だった。
「これは、教師との通信記録だ」
ノアはそう言いながら、記録の内容を読み上げていく。
そこに残されていたのは、セレフィナ自身の声で記録された、こんな言葉だった。
「品格を下げてください」
その一言が読み上げられた瞬間、講堂中が凍りついたように静まり返った。
これまで、涙を武器に、自分は何も知らないと訴え続けてきたセレフィナ。
けれど、動かしようのない記録の前では、その主張はもはや通用しなかった。
彼女の表情から、これまでの儚げな微笑みが、音を立てて崩れ落ちていく。
その決定的な瞬間を、私は静かに、けれど確かな眼差しで見つめ続けていた。
長い戦いが、ようやく終わりを迎えようとしている。
その予感を胸に抱きながら、私はまだ、この場に立ち続けていた。




