第十一章 王国合同魔法大会
王国合同魔法大会は、毎年開催される国内最大の学生大会だ。
王立アストレア学園だけでなく、北方騎士学園、王都魔法学院、神殿学院など、各校の代表選手が一堂に会する。
採点はすべて外部審査員によって行われ、学園の教師は一切口を出すことができない。
代表選手の選出が発表された日、私は自分の名前がその中に含まれていることに驚いた。
本来であれば、ランキング上位者が優先的に選ばれる仕組みになっている。
けれど、上位に名を連ねる生徒の中から、数名が辞退を申し出たのだという。
「学園の代表として、恥をかかせるつもりか」
職員室の前で、そんな声が聞こえてきたこともあった。
教師陣の中には、私の出場に反対する者も少なくなかったようだ。
けれど、辞退者が出た以上、他に選びようがなかったのだろう。
セレフィナもまた、代表の一人として名を連ねていた。
大会当日、会場となる王都中央闘技場には、各校の旗が誇らしげに掲げられていた。
これまでの学園内の行事とは、明らかに空気が違う。
外部の目、それも学園の思惑が一切通用しない、純粋な実力勝負の場だった。
競技が始まると、他校の生徒たちの視線が、次第に私の方へ集まり始めるのが分かった。
最初の種目である魔法理論試験、続く実技試験と、私は一つ一つ丁寧に、けれど確実に結果を積み重ねていった。
「アストレアの銀髪令嬢が一番強い」
そんな噂が、会場のあちこちで囁かれ始める。
これまで学園内で受けてきた評価とは、まるで違う反応だった。
純粋に実力だけを見て、正当に評価してもらえるという感覚を、私は久しぶりに味わっていた。
一方、セレフィナの様子は、これまでとは明らかに違っていた。
彼女が得意とする派手な演出は、他校の審査員たちにはあまり響かなかったようだ。
特に高度な魔法理論を問う筆記試験では、明らかに苦戦している様子が見て取れた。
審査員の一人が、彼女の答案を確認しながら、静かにこう漏らした。
「基礎知識が甘い」
その指摘は、これまで学園内では一度も聞かれたことのないものだった。
外部の、しがらみのない目から見れば、彼女の実力不足は明白だったのだろう。
大会が終わり、個人成績が発表された。
一位 リリアーナ
五位 クラウス
八位 ノア
二十七位 セレフィナ
この結果に、会場のあちこちからどよめきが起こった。
学園内では常に首位を維持してきたセレフィナが、外部の評価では大きく順位を落とす。
その事実が、数字という動かしようのない形で示された瞬間だった。
学園の生徒たちの間にも、この結果は静かに広まっていった。
これまで疑うことすらしなかった生徒たちの間でも、「もしかして」という空気が生まれ始めているのを感じた。
大会を終え、学園へ戻ると、教師陣からはあっさりとした説明があった。
「大会と学園評価は別です」
その一言で、学園内のランキングは何ら変わることなく据え置かれた。
外部の評価と、学園内の評価。
それぞれが独立した基準であるという建前は、確かに理解できないわけではない。
けれど、これほど極端な差が生まれる理由を、その一言だけで片付けられることに、多くの生徒たちが釈然としない表情を浮かべていた。
「大会では一位だったのに、学園ではまだ三十七位のままなのか」
廊下でそんな声を交わす生徒たちの姿を、私は何度も目にした。
これまで私を「不正令嬢」と呼んでいた者たちの中にも、明らかに戸惑いの色を見せる者が増えていた。
放課後、旧図書館に集まったノアとクラウスも、この結果について静かに話し合っていた。
「外部の目が入った途端、これほど明確な差が出る」
ノアはそう言いながら、大会の成績表を丁寧にファイルへと綴じていった。
「これは、これまで集めてきたどの証拠よりも強い」
クラウスも頷きながら、腕を組んだ。
「学園内の評価が、いかに恣意的なものか。誰の目にも分かりやすい形で示された」
その言葉に、私も静かに同意した。
数字という、誰にも否定できない事実。
それが、これまで曖昧だった違和感を、確かな輪郭へと変えていく。
窓の外に広がる夕焼けを眺めながら、私はふと、これまでの道のりを振り返っていた。
一人で立ち尽くしていたあの始業式の日から、少しずつだが、確実に何かが変わり始めている。
味方となってくれる人が増え、証拠が積み重なっていく。
けれど、まだ肝心な部分――なぜこれほどまでに評価が歪められているのか、その核心には辿り着けていなかった。
「次は、生徒会選挙がある」
ノアがそう切り出した。
「制度そのものを見直す機会になるかもしれない」
その言葉に、私は静かに顔を上げた。
新たな戦いの舞台が、また一つ近づいてきている。
そのことを、確かな緊張感とともに受け止めていた。




