第六話ー急な訪問
「‥‥‥‥‥」
ルカディウスは頭を抱えた。
(あの規模だ。土砂崩れが起こった時間を鑑みても、間違いなく死んでいた)
エステルギア公爵邸は騒然としていた。領地に残っている家族は無事か。被害状況の確認や救援物資の手配。十二歳のルカディウスに出来る事は限られているが、炊き出しの手伝いや負傷者への慰労など出来る限り尽力した。
――そうして三ヶ月経ち、ようやく落ち着いて来た頃、ルカディウスはカッサンドラ侯爵邸の前にいた。
一ヶ月前から、オリヴィエに会うためにカッサンドラ侯爵邸に文を出したり、侯爵に直接願い出たりしているが、一向に会える気配がない。痺れを切らして直接来てしまった次第だ。
(約束を取り付けようにも取り合ってもらえないのだから仕方がない)
いきなりの訪問は無作法だが、ルカディウスはまだ十二歳の子供だ。許されるだろう。
(あれだけの助言を受けたんだ。もはや命の恩人だ。直接お礼が言いたい)
ルカディウスは馬車から降りた。エステルギア公爵家の家紋のある馬車だ。侯爵邸の家令が慌てて駆け寄って来た。
「エステルギア公子様、本日はどのような……」
「連絡もなしにすまない。オリヴィエ嬢に会いたいのだが、いらっしゃるだろうか」
「オリヴィエ様ですか?いらっしゃいますが‥‥あ、いえ‥‥しかし‥‥とりあえず中へお入りください」
家令は明らかに動揺している。
(何をそんなに慌てる事がある?)
カッサンドラ侯爵家は上流貴族だ。仮にもその邸宅の使用人が。
急な訪問とはいえ、エステルギア公爵邸の使用人がこのような対応をすれば、公爵に即解雇されるだろうな。とルカディウスは胸中で想像する。
応接間に通され、柄にもなく緊張していたルカディウスは深呼吸した。
(何を言えば良いだろうか。とりあえずお礼から言わないとな)
通されてから、少し時間が経った。
(ずいぶんかかるな)
いつもならイライラするはずなのに、特に苛立ちは湧いてこない。オリヴィエを待つこの時間を、苦に感じない。
「お待たせいたしました」
しばらくすると声がし、使用人が扉を開いた。振り向くと、待ち人ではない金髪が目に入った。
ルカディウスは思わず眉をしかめた。
「メロディ嬢?何故ここに?」
これからパーティーにでも行くのだろうか?着飾った姿のメロディが俯き加減に近付いて来る。
「お久しぶりです。ルカディウス様」
「……お久しぶりです。オリヴィエ嬢はどこでしょうか?僕は彼女に会いに来たのですが?」
ルカディウスは苛立ちを隠さずに言った。どうもこのカッサンドラの次女は苦手だ。癇に触る。
メロディは大きく首を傾げた。
「あら?お姉様にご用でしたの?わたくしとお姉様を間違えたのかと思いました。お姉様に来客など珍しいので‥‥」
メロディは使用人にちらりと視線を送る。
使用人が頷いた。
「も、申し訳ありません」
ルカディウスは冷やかな視線を送った。
(侯爵家に仕える使用人が間違えたと?仕える主人の名を?)
ルカディウスは無言で立ち上がり、応接室を出た。
使用人が慌てて追いかけてくる。
「公子様、お待ちください」
「埒が明かない。オリヴィエ嬢の部屋はどこだ?」
「あ、しかし‥‥」
再び口籠る使用人に、ルカディウスは冷ややかに言った。
「何だ?名前を間違えただけでなく、部屋まで忘れたとでも言うのか?」
声変わりもしていないルカディウスの声に重みはない。それでも公爵家の令息だ。そこら辺の貴族とは違う。使用人に拒否権などなかった。
「オリヴィエお嬢様は、別棟にいらっしゃいます」
「何だって?」
(別邸でもなく、別棟?使用人棟という事じゃないか)
そこまで冷遇を受けているとは。
(……だとしたらこのまま行くべきではない)
ルカディウスは思案して小さく息を吐いた。
「では呼んできてくれ。僕は中庭で待つ」
使用人は一礼して下がった。
◇◇
別棟の庭にある、ガゼボで待っているとオリヴィエが息を切らしてやって来た。
粗末ではないが、侯爵令嬢とは思えない身なりだ。
(年に一度会うくらいだったから分からなかった。彼女にとってここの暮らしは良いものではなさそうだ)
メロディと姿が重なる。念入りに着飾り身支度を済ませ、優雅に出て来た彼女とは違い、ルカディウスが来ていると知り、最低限の身支度をして急いで来てくれたのだろう。オリヴィエは息を整えてカーテシーをとった。
「お待たせ致しました。ルカディウス様。本日はどのようなご要件でしょう」
深い藍色の髪がさらりと流れ、長い睫毛に隠れていた空色の瞳がこちらを見据える。ルカディウスはいつもこの瞳を見ると吸い込まれそうになってしまう。
使用人の様なワンピースを着ているからか、オリヴィエ本人の流麗な美しさが際立った。
「オリヴィエ嬢、先日の僕への助言を覚えているか?」
挨拶も返さず、不躾な物言いになってしまった。オリヴィエの表情が強張る。
(これでは恐がらせてしまうだけだな)
女性への接し方を学んでいるはずなのに、オリヴィエを前にすると全く活かせない。
「あ、ええと‥‥問い詰めるつもりはないんだ。ただ、お礼がしたくて」
オリヴィエの表情が少し和らいだ。
「い、いえ、私は何も‥‥天候が悪くなると耳にしたものですから。はっきりとした事も分からず、きちんと伝える事も出来ませんでしたし‥」
「とりあえず、座って話さないか?」
「え、ええ」
ルカディウスは聞きたい事を飲み込んで、どうしたら長くオリヴィエと話せるか思案した。
読んでいただきありがとうございます。
いいね、ブクマ、☆☆☆☆☆など応援いただけると励みになります(^^)




