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僕の婚約者は人生2回目なのかもしれない。  作者: 織子


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第五話ーオリヴィエのお願い



「ルカディウス様?」


オリヴィエが首を傾けると、ルカディウスは我に返った。


「あ、ごめん。僕を探してたって?何故」


少し冷たい言い方になってしまった。慌て過ぎて、平静を装おうとして、無表情になってしまう。


「えっと。誕生日パーティーの日のお礼と‥‥」

「それはもう何度も聞いたからいいよ」


自分でも驚くほど冷たい言い方だ。ルカディウスは口を縫い付けたい衝動に駆られた。オリヴィエの声がどんどん小さくなる。


「そ、それとですね‥‥あの、変に思われるかもしれないのですが‥‥えっと‥しばらく皇都を出ずにいてほしくて‥‥」


どんどん小さくなっていく声は、普通ならば聞こえない程だ。しかしルカディウスにははっきりと聞こえた。


「‥‥‥何故?」


オリヴィエ自身も、最後まで聞こえていたとは思わなかったのか、ルカディウスの問いに慌てた様子を見せた。ぱくぱくと声なき声で言い、口を噤む。ルカディウスが辛抱強く待つと、口を開いた。


「あの‥‥‥道が、危険なのです‥‥」

「道?領地までの道か?」

「あ、えっと雨が‥‥」


ぼそぼそと呟くオリヴィエをルカディウスは見つめた。


(道?雨?どういうことだ。僕が皇都を出るのをしっている?)


ルカディウスが凝視している事に気付くと、オリヴィエは更に青い顔になり俯いてしまった。

震えるオリヴィエにこれ以上問い詰める訳にはいかない。


(僕はもう少し女性との接し方を学んだほうがいいな)


ルカディウスは小さく息を吐いた。


「オリヴィエ嬢、今日は1人で来たの?」

「えっ、はい」

「そうか。用事が済んだのなら送っていくよ」

「いえ、お気になさらず‥‥」


普通はここで引くものだ。やんわりと断られているのだ、ルカディウスとて分かっている。

迷ったが、引いてはいけない気がして、額に手を当てて、絞り出すように言った。


「あ〜‥‥‥つまり、ぼ、僕も君に謝りたかったんだ。あの時は声を荒げて申し訳なかった」


オリヴィエが空色の瞳を見開く。


「だから、謝罪も兼ねて送らせてくれないか?」


茫然と見つめるオリヴィエに、ルカディウスは恐る恐る手を差し出した。


味わった事はないが、その間は死刑判決を待つような気分だった。オリヴィエが差し出した手を取ってくれて、ルカディウスは心底安堵した。



◇◇


安堵したのも束の間、ルカディウスは沈黙の続く馬車の中で冷や汗を流していた。


(何か会話をするべきなんだが、何を話せばいいんだ‥‥)


オリヴィエはぼんやり外を眺めている。空色の瞳を、ルカディウスはつい眺めてしまう。


「あの‥」


ふいにこちらを向いたオリヴィエに、ルカディウスは慌てた。


「なっ、なんだ!?」


声を荒げた事を謝ったばかりなのに、また声が大きくなってしまった。



「ルカディウス様は、エステルギア公爵家を継がないのですか?」


(‥‥?どういう意味だ?)


ルカディウスが次男であることは、オリヴィエも知っているだろうに。突拍子もない質問だが、オリヴィエは真っすぐルカディウスを見据えている。


「カッサンドラはアレスター殿が継ぐのか?」


不思議に思い、ルカディウスはオリヴィエの二番目の兄の名前を出した。オリヴィエは首を振る。


「‥‥?ならば僕も次男だ。兄上が元気でいる以上、僕がエステルギアを継ぐことはないだろう」

「そうですか‥‥」


オリヴィエの表情が曇った。ルカディウスは会話の意図が分からず、話題を変えた。


「あー‥‥先程の件だけど、オリヴィエ嬢は僕が皇都を出る事を知っていたのか?」

「ええ」


エステルギア公爵とカッサンドラ侯爵は皇城でもよく顔を会わせるそうだ。話す機会もあったのかもしれない。


「明後日発つ予定だったけど、日にちをずらす事にする」


オリヴィエはパッと顔を輝かせた。


「本当ですか?良かった‥‥!」


ルカディウスは機嫌のよくなったオリヴィエを見て我知らず微笑んだ。


オリヴィエが意外そうに言う。


「あら‥‥ルカディウス様も微笑うのですね」

「なに?」

「すいません、不躾でした」


慌てて頭を下げるオリヴィエに、ルカディウスは軽く首を振った。


「かまわない。よく言われる。子供らしくないと」

「ルカディウス様もですか!私もよく言われます!」


しょんぼりしていたかと思うと、またパッと華やかな顔をする。


(オリヴィエ・カッサンドラ。こんな人だったのか)




馬車はカッサンドラ邸の別邸の前に着けた。


「本当にここでいいのか?本邸まで少し距離があるじゃないか」

「大丈夫です。乳母に内緒で出てきたのでこっそり戻りたいのです」

「そうか‥‥」


先程しつこく引き留めた手前、ここでは潔く手を引かねば。ルカディウスは別邸の前にオリヴィエを降ろして馬車を出した。



(次はいつ会えるだろうか)




三日後、エステルギア領地が豪雨に見舞われた。大規模な崖崩れが起き、ルカディウスが通る予定だった山道が土砂に埋まったと報告があった。






読んでいただきありがとうございます。


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