第四話ー久しぶりの再会
その後ルカディウスはオリヴィエと会うことは出来なかった。オリヴィエが家に籠もっている為もあるが、デビュタントもまだなので、パーティーで会うこともない。
◇◇
ルカディウスが10歳になり、オリヴィエが11歳になる年。とうとうオリヴィエの誕生日パーティーも開かれなかった。
昨年、オリヴィエを襲った男は単独だった。2年前に皇室主催のパーティーで、オリヴィエと揉めた令嬢の父だった。皇都に住む子爵であったが、公の場で恥をかき、辺境に左遷された。子供同士の諍いだったにも関わらず、オリヴィエを恨んでいたらしい。
「そういえば、この間オリヴィエ嬢に会ったよ」
「なんだと?どこで?」
ルカディウスは皇城で、アルフォンスの補佐として教育を一緒に受けるようになっていた。
この日は皇室騎士団の演武場で、剣術の稽古をしていた。
アルフォンスが笑みを称えて剣を構える。
「温室でお茶をしたんだ。オリヴィエ嬢は一応婚約者候補だからね」
そう言うと、アルフォンスは剣を振り下ろした。ルカディウスは剣を横に薙ぎ、アルフォンスの剣を弾く。
「どんな様子だった?」
「元気そうだったよ。口数は少なかったけど。彼女、ほんとに昔と変わったよね」
「‥‥‥‥」
会話をしながら、一撃、二撃と剣を振り、防いで相手を弾き飛ばす。ルカディウスもアルフォンスも、2年前から共に騎士団長に稽古を受けている。ルカディウスの才も稀なものだったが、アルフォンスも負けてはいなかった。
周りの騎士達も感心しながら二人の稽古を眺めている。
「そういえば、オリヴィエ嬢がルカの事を気にしていたぞ」
「え」
思わぬ言葉に、アルフォンスの一振りでルカディウスの剣が飛んで行った。そのままアルフォンスは剣先をルカディウスの喉元に向けた。
「今日は私の勝ちだな」
ルカディウスはアルフォンスをジトリと睨む。
「――はぁ。仕方ないな」
ため息を吐き、剣を拾いに行く。
「ん?聞かないのかい?オリヴィエ嬢が何て言ってたのか」
「なに?本当なのか?」
嘘だと思っていた。
「心外だな。私が君に勝つために嘘を付いたとでも?」
「何て言ってたんだ」
前のめりに聞いてくるルカディウスに、アルフォンスは一歩下がった。
「お礼を伝えてほしいと言ってたな」
ルカディウスは思わず項垂れた。そんな事はこの1年何度も言われた。カッサンドラ侯爵にも、オリヴィエ嬢も手紙もくれたじゃないか。
(何故がっかりしてるんだ僕は)
期待外れの答えにルカディウスがしょんぼりしていると、アルフォンスがひと言付け加えた。
「あと、私とオリヴィエ嬢の婚約は進んでいないぞ」
思わずルカディウスはアルフォンスを見あげた。
「そ、そうか」
表情を隠そうとそっぽを向くルカディウスを、アルフォンスが肘で突く。
「そんなに気になるなら交際でも申し込んだらどうだい」
「は、はぁ?アルこそ、婚約する気がないならはっきり伝えればいいだろう」
「皇族の婚姻だ。私にはまだ発言権がない」
「皇太子の婚約者候補を僕がなんとか出来る訳ないだろ」
アルフォンスは微笑い、ルカディウスはため息を吐いた。
「貴族ってのは面倒だな」
「仕方ないさ」
二人は剣を収めた。今日の稽古はおしまいだ。アルフォンスはこれから王太子教育があるらしい。名残惜しそうに言った。
「ルカ、次はいつ来れる?」
「ああ、僕はもう少ししたら領地に行くから、しばらく来れなくなる」
ルカディウスは思い出してアルフォンスに伝えた。
「何故?」
「母方の従兄弟が来るらしいんだ。少し会わないといけない」
「そうか。母方と言うと、隣国からわざわざ?」
「ああ。また手紙を書くよ」
◇◇
アルフォンスと別れた帰り道、皇城の庭を通った。薔薇の咲き誇る今の時期、内門から外門まで明け放たれ皇城の薔薇園が見学出来るようになっている。
中央の噴水を通り過ぎた時、聞き覚えのある声にルカディウスは振り向いた。聞き間違えようがない。
少女は噴水のレンガに腰掛け、視線を落として噴水を眺めている。
「オリヴィエ嬢?」
ルカディウスが声をかけると、オリヴィエはパッと前を向いた。
「ルカディウス様」
そしてルカディウスを見るなり嬉しそうに微笑んだ。
「‥‥っ?!」
ルカディウスの頬が熱を持つ。
「あ、えっと。いきなりすみません。ルカディウス様を探していました」
オリヴィエは慌てて言ったが、ルカディウスはどこかぼんやり聞いていた。
ルカディウスの中でも、オリヴィエの幼少期の面影はまだ強い。幼い頃の我儘で傲慢な振る舞いは影もなく、辿々しく大人しい印象になっていた。
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