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僕の婚約者は人生2回目なのかもしれない。  作者: 織子


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2/9

第二話ー知るはずのない婚約


「皇室図書館とはこれまた。ここで待ちますので、お帰りの際には声をかけてください」



御者と別れ、図書館へ向かう。

図書館に来るのも初めてだ。調べたいものも初めて出来た。

皇室図書館を使用出来る者は限られているため、人はまばらだ。



(回帰‥‥回帰。あった)


分厚い聖書をめくり、目当ての単語を見つけた。


《――回帰。女神による恩恵。人生を繰り返すこと。数千年に一度、女神により気まぐれで起こる事がある》


聖書は一通り読んで記憶している。にも関わらず、どうしてもう一度確かめたくなったのか、僕にも分からない。


「‥‥‥面白いな」



図書館から馬車へ向かう足取りは軽かったように思う。初めての感覚だ。途中で皇太子殿下と遭遇した。声をかけられたので、いつもより明るく返事をしたら、少し話が弾んで友人になった。殿下もなかなか面白い人だ。


次の日も皇太子殿下に呼ばれて皇城へ行った。退屈だった日常が少しだけ変わった。



オリヴィエが言った『回帰』とは、どういう意味だったのかは分からない。ただ、その日からオリヴィエがメロディに辛く当たることはなくなった。周りへのキツい態度も鳴りを潜め、人が変わったように大人しくなったそうだ。




◇◇



1年後、ルカディウス8歳。


オリヴィエの9歳の誕生日パーティー。この日も僕は木の上に居た。しばらくするとオリヴィエが木の下にやってきて、その場にストンと座った。今日は泣いてはいないようだ。


「‥‥はぁ。全然駄目だわ。この1年、悪評が変わらなかった‥‥このままだと、前みたいに皇太子殿下の婚約者になってしまう」


(婚約者?確かに殿下と年の近い高位貴族の令嬢は多くない。オリヴィエ嬢に打診が行ってもおかしくはないが‥‥)


下を見ると、去年より髪の伸びたオリヴィエが見えた。前の様に目に涙は浮かべていないが、何かを諦めたような、深い空色の瞳に吸い込まれそうになった。


オリヴィエはしばらく木の下でぼーっと佇むと、またどこかへ行ってしまった。


◇◇


オリヴィエがいなくなり、ルカディウスも会場へ戻った。去年の様にさぼってばかりではいられない。


「ルカ!どこへ行ってたんだ」

会場に戻ったルカディウスに声をかけたのは、皇太子アルフォンス・ヴァレンティン。皇族特有の燃えるような赤い髪をしている。

昨年図書館の帰りに出会って以来、頻繁に皇城へ呼ぶものだから、すっかり気心の知れた友人になった。


「ちょっと散歩だ。カッサンドラ侯爵邸は久しぶりだから」


ジロリと近くにいた父の視線を感じた。アルフォンスとの会話は、二人だと砕けた話し方をするが、ここは公の場。弁えなければ。


「殿下、オリヴィエ嬢とはお会いになりましたか?」


丁寧な口調に一瞬ぎょっとしたものの、アルフォンスは答えた。


「最初に挨拶はされたが、それきりだな。そういえば主役なはずなのにどこへ行ったのだろう」


会場を見渡すと、主役の様に着飾ったメロディの姿が見える。


(オリヴィエ嬢のドレスは一瞬しか見てないが、だいぶ落ち着いた色味だったな)


確かブラウンのドレスだった。9歳の令嬢が着るような華やかな色ではない。ましてや自分が主役のパーティーの日に。

くわえてカッサンドラの誰もが、いないオリヴィエの事を気にしていない。


「どうした?眉間に皺がよってるぞ」


アルフォンスの指摘に、驚いて顔を上げる。確かに何かが癇に触る。しかし何に自分がイラついているのかは分からない。


「何でもありません」


そう言って表情を繕う。


一つだけ明確に気になっていることがあり、アルフォンスの耳元で聞いた。


「アル、オリヴィエ嬢との婚約の話があるのか?」


アルフォンスは目を見開いた。


「出ているが、驚いたな。何故知っている?まだ一部の者しか知らない事を」


(ふむ‥‥と言うことは、オリヴィエ嬢にはまだ伝わっていないはずの情報か)


思案していると、アルフォンスがにやにやと言った。


「なんだ?ルカ。お前がイラついている理由はそれか?」

「違う。変な思い違いをしないでくれないか」

「照れるなよ。パーティーに来たかいがあったな。珍しいものが見れた」


にやにやの収まらないアルフォンスに、無性に腹が立ち、父に見えないように足で脛を小突いた。



その年、オリヴィエとアルフォンスの婚約は正式には結ばれなかった。オリヴィエが皇室主催のパーティーで問題を起こしたからだ。オリヴィエは婚約者候補のまま、高位貴族から他にも候補が増えた。


問題と言っても、パーティーで他の令嬢と揉めたくらいだ。その後の新聞がその出来事を派手に煽ったので、オリヴィエは数日の自宅謹慎になり、皇太子との婚約は延期となった。


それからしばらく、オリヴィエの悪評が皇都で話題に上がった。




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