手伝ってあげる
「ティルダ!!」
オレは気を失ってるティルダを抱き上げ必死に呼びかける。
首に痛々しい痣が残っていて、ぶつけどころのない怒りに駆られる。
「カイ、心配ないよ。 精霊達がティルダの体内でがんばってるから」
「……はい」
ロウハさんの大きな手に頭をワシワシ撫でられても払う気にもなれない。
ティルダの冷えた体を温めようとギュッと抱き寄せるとトク、トクと弱々しい鼓動が聞こえて泣きそうになった。
「……ロウハさん、アイツは本当に加護も何も無くなったの?」
「うん。 仮に魔力が戻ったとしても二度と魔法は使えない。 エフェリーネが言ってた通り、魔法は精霊の力があってこそだから」
「……じゃあランタッベルに戻っても……」
「国王にはなれないと思うよ。 まぁ、今のランタッベル政権は一度リセットした方が良さそうだけどね」
死んだように眠ってしまったラインハルト元王子を眺めながら、ロウハさんは顎に手を添えてうーんと眉を寄せた。
腰まで伸びた髪はそのままで金糸で縁取られた白のフロックコートを着てるとそれらしく見える。
なんていうか、まぶしい。
ロウハさんが普通の人間じゃないとは思ってたけど、まさか伝説の創造神だとは考えもしなかった。
だってサスペンダー姿であのテンションじゃ分かるわけないだろ。
もしかしたらそれも計算の内だったのかもしれないけど。
正体を明かされた時は正直どう接したらいいのか迷ったけど、正座してバイエノールさんに延々と説教されてる姿をみたら、今までと同じでいいかと思い至った。
因みにここにくるまでに時間がいったのは、バイエノールさんからの入国許可が中々おりなかったからだ。
『う……』
声が聞こえてオレは慌ててティルダの顔をみた。
ティルダは薄っすらと目を開けたが、すぐに眉を寄せた。
『……苦しい』
「あ! ごめん!!」
オレはあわてて腕の力を緩めると、ティルダはむぅっと頬を膨らませてオレの胸元を軽く押した。
そうだ、今は別の人間だった。
「エフェリーネ、久しぶりだね」
『おとーさま!』
ティルダ、いやエフェリーネは目を輝かせてロウハさんの胸に一直線で飛び込んだ。
ロウハさんもエフェリーネをうれしそうに抱き上げて頬を寄せた。
そう、バイエノールさんとロウハさんが夫婦ということは、精霊の愛し仔は二人の子どもという事になる。
でも何で『創造神の子ども』という部分が抜け落ちたのか。
それは国境ができて創造神信仰と精霊信仰と分かれたことで、精霊の愛し仔という響きがフカルク側にのみ受け入れられたからなんだろう。
どちらにせよ、オレがお願いしなくてもそうなる運命だったみたいだ。
『ねぇおとーさま、あの人だれなの?』
「カイだよ。 君の中で眠ってるティルダちゃんの王子様だよ」
「なっ! へんな紹介するなよ!!」
「えー? でもフカルクの王子様っていうのは間違ってないだろう?」
『カイって、フカルクの王子様……なの?』
「……カイ・アウス=フカルクだ」
『ふーん……』
「まぁまぁ二人ともそんなこわい顔しないで。 とにかく世界を分けてた結界が壊れちゃったから早く姿を隠さないとだな。 とりあえずここはフカルクの王達に任せて僕達は場所を移そう」
そう言ってロウハさんは指をパチンと鳴らす。
すると一瞬でオレたちはフカルク国境手前の森へとやってきた。
夜の森だけど、まるで待っていたかのように精霊たちが集まっていてとても明るかった。
「カイ! まさかその気配はエフェリーネ?!」
『かーさま!』
エフェリーネはロウハさんの腕からピョンと飛び降りてバイエノールさんの元に駆けていく。
「三百年ぶりかしら。 まさかまた会えるとは思わなかったわ」
『私も!』
ケタ違いの再会に目を剥いた。
「三百年?!」
「精霊の愛し仔は中立の立場で歴史を監視する役目の為にいるんだ。 だから普通の人間よりも魂が転生するのに時間がかかるんだよ。 因みにエフェリーネはティルダちゃんの一つ前の生まれ変わりだよ」
「へ、へぇ……」
なんかスケールがすごすぎてホントにおとぎ話を聞いてるみたいだ。
そんな中に自分がいるってのがまた信じられない。
『……』
……何だ、チクチクと視線が痛い。
視線が飛んでくる方を見ると、エフェリーネがジッとオレをにらんでいた。
さっき抱きしめてたから警戒されてるのか?
っていうか、ホントに別の人間なんだな。
見た目がティルダだからか、忘れられてるって結構キツイ。
オレはグッと拳を握りしめ、胸の痛みを握り潰す。
「エフェリーネ、ティルダはどこにいる?」
『「ティルダ?」 この体の持ち主の子?』
「そうだ、ティルダは無事なのか?」
『……この中にいる。 でもずっと泣いてる』
「泣いてる……? 何でだよ」
『「かなしい」「こわい」「さみしい」。 色んなことがありすぎてずっと泣いてる』
「何だと?! 早く代わってやれよ!」
エフェリーナは少し口を尖らせてオレから目をそらした。
『……今はムリだよ』
「何だと……?」
『無理やり意識の中に落とされたからどこにいるのかは分からない』
「?!」
『さっきの人に催眠薬を飲まされたから、この体を維持するために私がでてきたの。 ……ごめんね』
「そんな……」
フッと目の前が真っ暗になった。
じゃあもうティルダに会えないのか?
せっかく幸せにしてやれると思ったのに、こんなのってないだろう?!
『……カイは泣くほどこのコが大事なんだね』
「え……」
エフェリーネに頬をなでられて、自分が泣いてることに気づいた。
頬にふれる手は温かいのに、そこにティルダがいないことに胸が張り裂けそうだった。
オレはすがるようにエフェリーネの手を取った。
「……大事だよ。 アイツは怖がりなんだ。 これ以上一人にする訳にはいかないんだよ!」
『……そっか』
初めて見たエフェリーネの笑顔はやっぱりティルダとはちがうけど、それでも胸にあいた穴を埋めてくれるようだった。
しばらくして、エフェリーネが泣き続けるオレの頬を両手でやさしく包んだ。
『私も手伝ってあげるからもう泣かないで』
「え……?」
『かなり時間がかかっちゃうけどそれでもいい?』
「いい! たのむ!!」
『この方法だと私は動けなくなるから貴方に手伝ってもらわないといけない。 それもかなり大変だよ?』
「かまわない。 やらせてくれ」
『即答なんだ』とはにかむエフェリーネ。
そこにはもう疑いの眼差しはなかった。




