【SS】やさしい国のシロツメクサ
*三十三話の後にお読みください*
ラインハルトお兄さまがくると聞いて落ち着かない私を見て、クライブさんが王城の庭園へと連れ出してくれた。
石畳の道脇に四角く剪定された植木がずぅっと並んでいて、その後ろで白いお花をつけた少し大きめの植木が顔をのぞかせる。
迷路のような道を歩いていくと、控えめでかわいいピンクのお花のエリアがあったり、緑のアーチをくぐってみたりしてすごく楽しい。
不安だった心の中が、緑のいい香りと次は何があるのかとワクワクした気持ちでいっぱいになってきた。
いつからか私の足はどんどんかるくなっていて、気がついたら広い草原の前まできていた。
「ここもお城のお庭なの?」
「そうですよ。 あのグルリと囲むように生えている木々の向こうに鍛錬場があるんです」
「へぇー……」
お花を食べちゃダメだからムクムクは連れてこなかったけど、こんな場所があるなら連れてきたら良かったな。
緑の絨毯の上には小さな白いお花が心地良い風にゆれてるのが見える。
近づいてみたら丸いポンポンのようなお花が咲いていた。
「これは知ってる。 シロツメクサだよね」
「えぇ。 ちょうど見頃ですね」
ランタッベルのお城でも咲いていて、お母さまと一緒に摘んであそんだ事がある。
「ねぇ、ここのお花摘んでもいい?」
「大丈夫ですけど、何かされるんですか?」
「うん、プレゼントを作りたい」
そうして私とクライブさんは日が落ちるまでここで一緒に過ごした。
お城に戻ってすぐに、私はディオン様を探した。
ディオン様は執務室にいて、夜なのにたくさんの書類に囲まれながらペンを動かしていた。
「どうしたんだい? ……それは?」
「ディオン様にお渡ししたいものがあるんです。 こっちに来てちょっと屈んでください」
「こうかい?」
私の前に来て片膝をついたディオン様の頭に、シロツメクサで作った冠を置いた。
「ディオン様、たくさん良くしてくれてありがとうございます。 これはやさしい国の王さまの冠です」
銀色の髪の上でも緑と白が映えて、いつもカッコいいディオン様が少しかわいく見えた。
ディオン様は少し照れたような顔で冠にやさしく触れた。
「やさしい国の王様、か……。 ではティルダはやさしい国の王女様だね。 いや、女王様かな?」
「私はそんなのえらくないです?」
「いや、充分素質はあるよ」
「フフ、ありがとうございます」
ディオン様のやさしい笑顔に、何だか私がプレゼントを貰ったような気持ちになった。
◇
お城の中を探していたら、五人ぐらいの騎士さま達に囲まれて歩いてくるシェムエールさまと会えた。
話しかけていいのかな、いそがしいかな。
そんな事を考えて立っていたら、シェムエール様が私に気づいて側まできてくれた。
「ティルダ姫、一体どうなさいましたか」
シェムエール様は私のことを思ってか、話す時はいつも視線を合わせるように屈んでくれる。
「今、ちょっとだけいいですか?」
「ティルダ姫のお話が最優先です。 何なりと」
「お渡ししたいものがあるんです。 明日またお兄さまを迎えにお城を発つって聞いたので、おケガがないように」
私はエプロンドレスのポケットから白いハンカチに包んだ四葉を見せた。
「これは私が差し上げたハンカチですか。 そこに四葉とは……」
「やさしい国の騎士さま、どうか気をつけて行ってきてください。 無事の帰還をお待ちしてます」
「やさしい国の、騎士ですか……」
「ごめんなさい、ちょっとしおれちゃって……」
「いいえ、大変名誉な贈り物です」
そう言ってシェムエール様は大きな手でそっと四葉を手にして頬をゆるめた。
同時にザワッと声がした。
「うそ、シェムエール様が……」
「笑ってる……初めて見た……」
「槍が降ってくるかも……」
「お前ら、うるさいぞ」
本物のオオカミさんが唸ってるような低い声に、一緒にいた騎士さま達はビクリと肩を上げた。
でもすぐにやさしい声のシェムエール様にもどった。
「無事任務を遂行し、必ずや貴女の元に帰りましょう」
そう言ってシェムエール様は私の手の甲にそっと額をつけた。
騎士さまのご挨拶、初めて受けちゃった。
シェムエール様、すっごくカッコいい。
どうしよう、うれしいのとはずかしいのとがごちゃまぜでエヘヘと笑うしか出来なかった。
◇
皆にプレゼントをわたせた充実感と一緒に、クライブさんと自室へと向かう。
「無事にプレゼントを渡せてよかったですね」
「うん! クライブさんへのプレゼントはちょっと待っててね?」
「私にもあるのですか?!」
「もちろん、クライブさんはやさしい国の執事さんだもん。 今日は時間がなかったけど、両手に腕輪を作るからね! だからまた明日連れていってもらってもいい?」
「勿論です!」
「ありがとう! じゃあ楽しみにしててね!」
不安な気持ちも落ち着いて、久しぶりにお母さまの事も思い出せて、皆の笑顔が見れて、本当に幸せだ。
やっぱり私、この国にずっといたい。
後で神様にお願いしてみよう。
「そう言えばカイ様には何か考えておられるのですか?」
「カイに……?」
今までの話からいくと、カイはやさしい国の王子さまだ。
王子さま、王子さま、王子さま……。
そしたらボフン!と頭から湯気がでた気がした。
「大丈夫ですか?! お顔が真っ赤ですよ!」
「うん、大丈夫……」
私は熱くなった両頬を両手でかくした。
やさしい国の王子さま、もしも私がこの国の人間になれたら、迎えに来てくれるかな。
そんなことを考えてたら、すごくカイに会いたくなってきた。
「まぁカイ様はティルダ様を一人にさせているのですから、逆にプレゼントを持って帰ってもらわないとですね」
「フフ、だったらうれしいな」
「折角ならシロツメクサで指輪でも作ってもらっては如何です?」
「指輪を?」
「はい、フカルクでは夫婦となって共に生きる誓いの印に指輪を送るんですよ」
「すごい……ロマンチック……」
「でしょう? カイ様が帰ってきたら私がしっかりと作り方を教えますから、それこそ楽しみに待っててください」
「作り方を教えるの? クライブさんは何でもできるんだね!」
「大切な王子と姫君の幸せの為ですから」
紫色の瞳を細めてクライブさんは笑った。
それにつられて私も笑顔になる。
「じゃあシロツメクサの季節じゃ無くなる前に帰ってきてもらわなきゃダメだね」
「そうですね。 がんばってもらいましょう」
益々心と足が軽くなる。
ここは人が笑顔でいられるやさしい国。
私は今、そんな国で暮らしている。




