【SS】プリンは食後か食前か
* 二十四話の後でお読みください *
「長旅で疲れただろう。 しっかり食事をとって明日に備えてくれ」
お城に着いたその日の夜のこと。
シェムエール様が私を大広間で開かれる晩餐に呼んでくれた。
フカルクのお城は体の大きい獣人族が住んでいるので、ランタッベルのお城よりも広くて天井が高い造りになってる。
だからイスはもちろんテーブルもとっても大きい。
人間でまだ子どもの私からしたら、隣に座ってるカイにも手が届かなくて遠くに感じる。
そう、まるで一人で食べてるみたいに。
一応お母さまから一通りの所作は習っている。
でも私は一度も王様やお兄さま達と食べたことがないから緊張して胸がいっぱいだ。
とりあえず私はカトラリーを手にとった。
大きなお皿みたいに大きな魚は、白いクリームがかかっててすごく美味しそう。
お肉なんか厚みもあってすごく大きいしいい匂いがする。
でも、食べられる気がしなかった。
お城で住んでいた時でも食事はいつも質素だったし、お母さまが亡くなってからは固くなったパンとかを一人で隠れるように食べていた。
だからこんな豪華なの、ホントに私が食べていいのかわからなくて苦しくなる。
「ランタッベルで食べていたものとは違うかもしれんが遠慮しないで食べてくれ」
シェムエール様の声に思わずビクリと肩が上がった。
どうしよう、嫌なことなんて一つも言われてないのに、カトラリーを持つ手が震えてしまう。
「どうした?」
せっかく準備してくれたのに、どうしよう。
ますます食べられなくなってきた。
「クライブ、すぐにティルダの部屋へ軽食を持ってきてくれ」
「は、はい。 承知致しました」
カイの声に顔をあげると、カイはナプキンをイスに置いて私のところへやってきた。
「行こう、ティルダ」
カイは私の返事も待たずに手を優しく引いた。
そして大広間から出ようとした時、カイは振り返ってシェムエール様を見た。
「シェム兄、こわい顔になってる。 ティルダが怖がるからもうちょっと笑ってよ」
「……」
「そんな事ないよ! ただ緊張して食べられないだけで……」
「うん。 だから部屋で食べよう」
そういってカイは固まってしまったシェムエール様を置いて、私を客間へと連れていってくれた。
客間に着くとすぐにクライブさんがやってきた。
持っていたトレーには四角に小さく切ったサンドイッチがのってる。
それもゆで卵をつぶして作ったたまごサンドだ。
それはお母さまと一緒に食べた事がある。
「これなら食べられるか?」
ソファに座っている私に、カイがクライブさんから受け取ったサンドイッチのお皿を見せてくれた。
真っ白のお皿に四切れ、ちょこんとのったかわいいサイズ。
私はホッとして小さく頷いた。
「カイ、ごめんね」
「何であやまるんだよ」
「一応王女だけど、あんなに豪華なもの食べたことがないの。 カイも遠くにいるし、どうしたらいいのかわからなくて苦しくなっちゃったの」
「なんだ、顔色悪かったからシェム兄の強面で食べられないのかと思った」
「そんなんじゃないよ!」
シェムエール様はちゃんと私を気遣ってくれてた。
食べられない私が悪い。
「カーサさん達と食べてた時とは雰囲気が全然ちがうもんな。 ……そうだ!」
するとカイは突然立ち上がって、クライブさんにコソコソと内緒話をはじめた。
そしたらクライブさんはすっごく嬉しそうにうなずいて、部屋を出ていってしまった。
そしてカイも嬉しそうな顔でまた私の隣にすわった。
「どうしたの?」
「いいから、楽しみにしてろ」
何があるんだろう。
とりあえず私は小さな口で少しずつサンドイッチを食べていった。
何とか一切れを食べ終わった頃、扉をノックしてクライブさんが入ってきた。
「お待たせしました」
その手に見えたのは、涼やかな透明ガラスの器に入ったペールイエローの小さなお山だった。
クライブさんが私のところに持ってきてくれる間、それはずっとプルプルとふるえていた。
「それなぁに?」
「プリンだよ、知らないのか?」
私はコクリとうなづいた。
表面はツヤツヤで、頭にはまるで茶色い帽子をかぶってるみたい。
ゼリーとは違うのかな。
「プリンは甘いしのどごしもいいから食べられるんじゃないか?」
カイからスプーンを受け取って、私は恐る恐るそのプルプルの食べ物をすくった。
うわぁ、スプーンの上でもプルプルしてる。
すごい、どんな味だろう。
私はドキドキしながら口に運んだ。
「……っおいしい!!」
その食べ物は私の口の中でチュルンとすべって喉を通っていった。
甘くていい香りがして、たまらなく幸せな気持ちになる。
「ここと一緒に食べるとまたおいしいんだぞ?」
そう言ってカイは私のスプーンで茶色い帽子のところとペールイエローのプルプルとを一緒にすくって口元に差し出した。
カイがそういうんだからきっとまちがいない。
私はドキドキしながら口を開くと、カイはニヤニヤしながらスプーンを私の口に入れた。
「んんっ! んん〜〜っ!!」
ふわぁぁぁっ!
ちょっと苦みもあったけどすぐに甘さが追いついて、さっきとはちがった美味しさだ!
むしろこっちの方がすきかも!
「すごいすごい! もっと食べたい!!」
「やっとだな」
「え?」
「初めて野宿した時のお前。 キノコを食べた時とおんなじ顔してる。 安心した」
ちょっと頬をあかくして、ニヤッと白くとがった歯を見せるカイを見て胸がいっぱいになる。
私の事、見ててくれてたんだって分かってすごく幸せな気持ちになった。
「本当に仲がよろしいのですね」
そばで見ていたクライブさんも笑顔だ。
「そんなんじゃねぇよ。 ほら、もう部屋から出てっていいぞ」
「カイ様冷たいっ!!」
クライブさんは泣きながら訴えるけど、カイはおかまいなしでグイグイ押して部屋から追い出した。
ちょっとかわいそうかも。
「ほら、お前はしっかり食べろ」
カイはボスン!と私の隣に座って、またプリンをすくって私の口に運んだ。
何で食べさせてくれるカイがうれしそうなんだろ。
もしかしてカイもプリンが好きで食べたいのかな。
「カイもはい、あーん」
私もカイの真似をしてプリンをすくってカイの口元に持っていくと、カイは真っ赤になってボン!とシッポをふくらませた。
え、何で?
「ば、バカやろ、そんなのいらねぇよ! し、しかも、か、間接キ……」
「え? なぁに?」
「何でもない! オレの事はいいからさっさと食べろ!!」
何でだろ、同じ事しようとしただけなのに怒られちゃった。
おいしいものは一緒に食べたらよりおいしくなると思うんだけど。
「カイ、これまた食べたい。 今度はカイも一緒に!」
「……しゃーねぇな……」
足に肘をついてそっぽ向いてるけど、シッポがゆらゆらしてる。
私はこの瞬間が大好きだ。
プリンのおかげで残っていたサンドイッチも全部食べきる事が出来て、お腹も心もホッとした。




