二人の答え②
クライブさんはムクムクといっしょに部屋の外で待っててくれるらしいので、私は一人でカイの部屋に入った。
中を見ると、床には洋服や簡易の食料、包帯やロープ、短剣まで置いてある。
クライブさんが言ってた通り、旅にでる支度をしてたんだ。
でもそれはきっと馬車でいくような安全な旅じゃない。
だって私を探しに来た時に見せてもらった荷物とほとんど同じだったから。
「足元散らかってるし、そっちに座れよ」
それでもカイは何事もない様な顔で、窓際に置いてる大きなソファをすすめた。
そしてそのまま私の事を気にする事なく準備をすすめていく。
私はモヤモヤした気持ちでそれを見ていた。
「カイ……、ランタッベルに行くってホント?」
私の質問にカイはピクリと耳だけを動かした。
「あぁ」
「どうして?」
「ロウハさんに会いに行くんだ」
「ロウハさんに? なら私も行きたい!」
「ダメだ」
「何で?!」
「お前まで行ったら遅くなるし危険過ぎる」
「危険、なの……?」
するとカイはやっと私の方を向いてくれた。
「今朝聞いたんだ。 ラインハルト王太子がフカルクに入国しようとしてるって」
「え……っ!」
「ムクムクがいなくなったから昨日入国規制が解除されたんだ。 このタイミングで訪問要請が来たから、国境前で足止め食らってた可能性がある。 理由までは分からないけど」
お兄さまの名前を聞いて全身から血の気が引いていくのがわかった。
「だから今お前を連れていけばややこしくなる。 大人しくディオ兄たちといっしょにいろ」
「……」
「なんならこのタイミングで『ディオ兄と婚約します』って言ってもいいんじゃないか? 帰国するつもりもないからこのままフカルクで住みますって事にしたら……」
「絶対にイヤ!!」
私は大きな声でカイの話をさえぎった。
カイの口から聞きたくなかった。
全身がかぁっと熱くなってくる。
「ディオン様とは結婚しない。 絶対にしない!」
「何でだよ! ディオ兄と結婚すれば後ろ盾もできてランタッベルに帰らなくて済むだろ!」
「ヤダ! 私はカイのお嫁さんになりたいの!」
まわりの空気がピンと張り詰めたのが分かった。
今まで言えなかった気持ちを口にした途端、どっと涙があふれてきた。
目の前がぼやけてカイがどこにいるかもわからない。
「ディオン様と結婚するのがいいってわかってるよ。 でもそうしたらカイは他の人と結婚するでしょ? そんなの見たくない!」
「落ち着けよ。 そんなのどうせ今だけだって。 ディオ兄はやさしいし、お前だって少し経ったらオレへの執着もなくなるって!」
「何で? 何でそんな事いうの……?」
守られる立ち場にある私にワガママをいう権利はない。
でもカイが好きだって気持ちまで勝手に消さないでよ。
カイがいてくれて本当にうれしかったんだよ。
幸せだったんだよ。
悲しい気持ちと涙がどんどんあふれて止まらない。
「……いい加減泣きやめよ、ほら」
そしたらカイが泣き続ける私を見かねてハンカチを差し出してくれた。
でも私は『いらない!』といって顔をそむけた。
「……しゃーねぇな」
するとカイはため息をついて私の両腕をガシッとつかんだ。
何かと思ったら突然ペロッと私の頬をなめた。
「な、何?! くすぐったいよ!」
「ハンカチ受け取らないお前が悪い」
「ヤダ! はなして!」
「だったらさっさと泣きやめ」
「うぅぅ〜〜〜〜!」
涙が落ちるたびにカイがペロッと舌で涙をすくう。
こんな止め方聞いたことないよ!
そういえば初めてカイと会った時もそうだった。
私がわんわん泣いてた時もこうやって涙を拭ってくれたんだった。
「ひでー顔」
少しずつ涙が止まり始めた頃、カイは私の顔をみてフハッと笑った。
「カイのせいだよ! バカ!」
「……だな。 ごめん」
するとカイはコツン、と私の額と自分の額とくっつけた。
腕を掴んでた手も、今度は私の両手をやさしくにぎってくれる。
(カイの手、あったかい……)
昨日の夜からほしかったカイの温もりがすぐそばにある。
やっぱり安心する。
「カイ……、大好き」
「ん、オレも」
それは私だけに聞こえるような小さな声。
「え……、ホント?」
「……こんなはずかしいウソつくかよ」
くっついてた額をはがして顔をあげると、目の前にいるカイが真っ赤な顔をしてそっぽ向いていた。
でもそのうしろでシッポがブンブンとゆれてる。
それをみた途端、ブワァっとキラキラで胸がいっぱいになってきた。
私は前のめりになってカイに近づいた。
「カイ、大好き!! も一回言って!!」
「バカヤロ! 一回しか言わねぇよ!!」
「やだやだ! もう一回聞きたい!」
「じゃあ帰ってきてからな!」
にぎってた手にギュッと力がはいり、私は息を呑んでその意味を考えた。
「……やっぱり一人でいくの?」
「さっきも言っただろ。 危ないって」
「じゃあせめて理由を聞かせて?」
私はもう一度じっとカイの目を見つめた。
するとカイは観念したように小さくため息をついた。
「バイエノールさんに手紙を渡したから、あの約束をかなえてもらおうと思って」
「約束?」
「『助けが必要になったら自分たちの足で戻っておいで』ってロウハさんが言ってただろ。 だから今から押しかけて教えてもらってくる。 オレたちがいっしょに幸せになる方法を」
「『いっしょに、幸せになれる方法』……? それをロウハさんが知ってるの?」
「だってあの人あやしくないか? 奥さんが精霊女王なんだぞ。 何かすごい力とか持ってそうじゃねぇか?」
「『精霊の愛し仔』とか……?」
「だとしたらティルダの事も何とかしてくれるんじゃないかって思うんだ。 だから聞いてくる」
じゃあランタッベルに行くのって私のためなんだ……。
ホッとして小さく息をはいたら、カイはシッポをゆらしながらククッと小さく笑った。
「ちゃんと待ってろ。 なるべく早く戻るから、結婚の話も勝手にすすめるなよ?」
「分かった、ちゃんと待ってる。 だから……早く帰ってきてね?」
「あぁ。 約束だ」
そういってカイはつないでた手に指を絡めてコツン、とまた額と額をくっつけた。
私はカイのぬくもりを忘れないよう、心配かけないよう泣くのをぎゅっとガマンした。




