二人の答え①
ディオン様からの申し入れを受けた日の夜、結局カイは一度も会いにきてくれなかった。
探しにいきたかったけどここはお城の中。
立場的にやっちゃいけない気がして、夜は仕方なくムクムクと一緒に眠った。
途中何度も目が覚めて起きるけど、となりにカイはいない。
そばにムクムクがいたから何とか眠れたけど、やっぱりフカフカのカイの温もりが恋しかった。
「カイのバカ……」
ちがう、バカなのは私の方だ。
ちゃんと顔を見なかったから悪かったんだ。
このまま会えなかったらどうしよう。
そんなことばかり考えてしまって、朝になってもベッドからなかなか出られなかった。
「ティルダ様、失礼致します」
コンコン、と小さなノックで入ってきたのはクライブさんだった。
朝食を運んできてくれたんだ。
クライブさんは私の顔を見て眉を下げた。
「そのお顔はあまり眠れなかったみたいですね」
「三日も寝てたもん、それに一人はやっぱりさみしい……」
「そうですね……」
クライブさんはムクムクをひと撫でした後、テーブルに朝食を置いてピッチャーの中に色んなフルーツの入ったお水をコップに注ぐ。
「それ、果実水?」
「はい。 甘くしてあるので如何ですか?」
「ありがとう」
クライブさんからコップを受け取った瞬間、色んなフルーツのいい香りがした。
それを一口飲むと心と体が潤っていく感じがして、重かった体が軽くなるのを感じた。
「すっごくおいしい。 もう一杯のみたい!」
「良かったです。 お気に召したのなら飲み物は暫くこれでいきましょうか」
「うん!」
クライブさんの笑顔にホッとした。
カイ達王族にはランタッベルの王族みたいなギスギスした感じがなくて、使用人の皆さんとも家族みたいに仲がいい。
だからクライブさんも『敬語は要らないです』と言ってくれて、クライブさんはカイの次に話しやすくて安心できた。
「ねぇクライブさん、カイがどこにいるか知ってる?」
するとクライブさんは丸い耳と細長い尻尾をピン!!と勢いよく立てた。
同時にサンドイッチののったお皿がテーブルの上でガチャン!と鳴った。
クライブさんは普段カイの専属従者さん。
だからカイの居場所も知ってると思ったんだけど。
「……クライブさん、何か隠してる?」
「いえ、そのようなことはございません!」
「ホント?」
なんだか怪しい。
私はピョンとベッドから下りてクライブさんにギュッとしがみついた。
「ティ、ティルダ様?!」
「ねぇ教えてよ。 カイは今どこにいるの?」
「だ、ダメです! こんな所を見られたらカイ様に吊るし上げられてしまいますのでお許しくださいぃ!」
私といたら吊るし上げられちゃうの?
どうして?
理由を聞きたかったけど、クライブさんはゴニョゴニョとつぶやきながら顔を赤くしたり青くしたりする。
なんだかかわいそうになってきて、私は渋々手を離した。
「困らせちゃってごめんなさい……」
「いえ! また後で落ち着いたらゆっくりお話しましょう!」
「今忙しいの?」
「はい、この後カイ様の旅の準備を手伝う予定なので……、あっ」
突然クライブさんはバッと両手で口をふさぎ、紫の目をうろつかせる。
「カイ……、旅にでるの? 一人で?」
不安になって聞いたら、クライブさんは下がり気味の目尻を更に下げて私の前に膝をついた。
私と話す時、クライブさんは身長差を気にして時々こうやって目線を合わせてくれる。
……それだけ、大事な話なのかもしれない。
「カイ様は準備が整い次第ランタッベルへと発つおつもりです」
「そんな……!」
なんで何も言わずに行っちゃうの?
やっぱり私のことキライになっちゃったの?
胸が苦しくなって涙があふれてきた。
「ティルダ様……」
「うっ、うぐ……、やっぱりカイは、カイは私のこと……キライになったんだ……っ」
「そんなことありません! カイ様は他の誰よりもティルダ様を大切に思っておいでです」
「でも……、でも……っ!」
グズグズに泣いてると、突然クライブさんが私を抱き上げた。
びっくりしてクライブさんを見たら、クライブさんは困り顔でわらった。
「……私もティルダ様に内緒で行く事には反対しておりました。 こうやって誤解を生んでは元も子もありませんからね」
「……じゃあ、どうしたらいいの……?」
「一緒にカイ様を叱りにいきましょう。 お二人がすれ違ったままでいると、そこを付け込まれてしまう可能性がありますから」
「いいの……? クライブさん、私といてカイに吊るし上げられない?」
「構いませんよ。 ティルダ様の涙を止める事の方が大事です」
「……ありがとう」
クライブさんの優しい声に胸の奥のつっかえが取れてくみたいだ。
私はそのままギュッとクライブさんに頬をよせてしがみついた。
「じゃあクライブさんが吊るし上げられそうになったら、私が守ってあげるね」
するとクライブさんの丸い耳がパタパタ、細長いシッポがピョコピョコと動いた。
「クライブさん?」
「いえ、昔カイ様に同じ事を言われたのを思い出しまして」
そう言ってクライブさんはフニャリと頬をゆるめた。
◇
あれからクライブさんと私はカイのいる部屋へと向かった。
クライブさんが先に新しくなった扉をコンコンと叩く。
「カイ様、クライブです。 今よろしいでしょうか」
出てきてくれるか心配だったけど、今回はすんなりと扉が開いた。
「用は済んだのか? 早く入って準備の手伝いを……」
十センチほど開いた扉の向こうにカイの姿が見えた。
カイはクライブさんのうしろに隠れてた私と目が合うと、水色の目を大きくした。
次の瞬間勢いよく扉を閉めようとした。
……けどそこはクライブさんが一歩早かった。
クライブさんはわずかに開いた扉にガッ!と手をかけ、グググと押し広げていく。
「何のつもりだよ!」
「ティルダ様にその様な態度はさすがに黙認できませんので……」
……クライブさん、おだやかそうに話してるけど唸るような低い声でちょっとこわい。
「お前、誰の味方だ!」
「敵味方などという話ではありません。 この期に及んで一番守らねばならないティルダ様に説明しないという考えが私は許せないのです」
ど、どうしよう。
かなり怒ってるみたいでつかんでいる場所がミシミシと音を立てる。
……扉、またこわれそう。
バキバキィッ!!
「!!」
するとクライブさんがつかんでたところの壁と扉が粉々にくだけたのと、ドアノブがこわれた音とが重なって耳が痛くなるほどの音が鳴った。
や、やっぱりこわれちゃったよ……。
土煙がたつ中、クライブさんは何食わぬ顔で新しい手袋を付け直す。
こわれた扉の向こうにはカイが顔をひきつらせて座り込んでた。
そんなカイにクライブさんは胸に手を当て頭を下げた。
いつものニコニコ顔のクライブさんだ。
「さぁ、ちゃんと話し合いをして下さいね」
「は、はい……」
多分軍配はクライブさんに上がった。




