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彼が最強と呼ばれる所以!!  作者: 犬ちゃん
第一章 森の民達
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メイドの過去話 『謎』

メイドの過去話を2015/02/11に大幅改稿します。恐らく一番最初がかなり変化しているかもしれません。

 

 ヒューゼは木々の合間を縫うように目にも留まらぬ早さで疾駆する。森の木々の間隙を抜け、枝から枝へとその体の身軽さを利用し飛び移る。

 そして、そのように移動し、黒いローブの男三人組の背後へと陣取った。黒いローブの男たちを間近で観察してみる。今すぐにでも同胞の復讐をしたかったが、黒いローブの男たちの顔を見て気が変わった。


 彼らは確か、自国民至上主義を未だに崇拝している、貴族たちではないか。レイルド王国が森の各部族のコミュニケーションを図ろうとして、懇談会を開催した時に見かけた。

 彼は悪い意味で名を馳せている貴族で、亜人嫌いでは専ら有名だった。

 そんな男が何故、こんな場所にいるのだろうか。それもレベトリア怪盗団と一緒に。ヒューゼは数瞬だけ、推測を巡らせ、一つの結論を導き出した。


 レベトリア怪盗団は、ただのならず者共の集合体ではなく、彼らのスポンサーがいるのだ。恐らく、あの亜人差別の貴族もその一人なのだろう。

 それは、今こうやってレベトリア怪盗団と同行しているのが何よりも大事な証拠だ。


 ヒューゼはプランを変更し、男たちを観察することに決めた。

 

 意識を思考の渦から目の前の状況へと切り替えると、黒いローブの男たちは大柄の男へと駆け寄り、何かしら大声で叫びだしている途中だった。その叫んだ声の断片から推測するに、何かしらを抗議していることは明らかだった。

 ヒューゼは聞き耳を立てる。


 「……おい、レベトリア!! 我らを守れ!!」

 

 黒いローブのうち、一人がそのようなことを言って、大柄の男の膝へとしがみつく。どうやら男は、先ほどのヒューゼの攻撃で腰を抜かしてしまったようだ。

 しかし、ヒューゼはそのことよりも、黒いローブが言った言葉の方へと意識が無いた。


 レベトリア? それは、レベトリア怪盗団の団長である『レベトリア』なのではないか?


 ヒューゼがそのように思考をした。けれど、今は会話の内容を聞いている方がが得策であると判断し、ヒューゼは意識を5人へと移す。

 レベトリアと呼ばれた男は無表情ながらに、足に縋り付いてきた黒いローブを見下す。その表情はヒューゼでも少しだけ肝が冷えてしまいそうな冷徹さだ。


 レベトリアは、そのまま、男を暫く何も口に出さずに、見下し続けていた。レベトリアの足に縋り付いている男は、自らが見下されていることに対して屈辱を感じたのか、怒鳴り出した。


 「盗賊団風情が……盗賊団風情が我らを見下すな!!」


 縋り付きながら汚く唾を飛ばし、怒鳴る男。しかし、様々な罵倒にさえレベトリアは反応しない。それどころか、男から別の場所へと向かしてしまった。その行為に更に激昂する男であったが、そんな様子さえレベトリアは全く反応しない。


 そのように5人の様子を観察をしていると、ふといつもとは違う違和感を抱いた。それは直感的に、誰かが自分に視線を向けている違和感であると気がつく。ヒューゼは周囲を見回した。

 

 まず最初に、レベトリアを見たが、レベトリアは足に縋り付いている黒いローブを見下しているし、他の黒いローブの男も、狼狽しきっている。


 残りは、と思いヒューゼが少女の方へと視線を向けると……。


 ――視線が合った。


 一瞬それは、何かしらの間違いなのではないかと思った。少女がただ偶然視線を向けている場所に、自分が居ただけで、少女が自分の存在に気が付いてはいないと、そう思ったのだ。

 けれども、ヒューゼはそれを思い直す。

 あの真っ直ぐで無機質な視線は、確実に自分のことを捉えている。


 居場所を知らされてはマズイ、そう思ったけれども、その思考を打ち消す。ヒューゼの姿を意図も容易く見破る少女のことだ。何処へ移動しても、自分の動きを全て捉えてくるのかもしれない。


 そう思い、ヒューゼはそのまま息を殺して身を潜める。

 無機質な視線は依然とヒューゼに向けられたままだが、その視線をヒューゼは徹底的に無視を決め込む。すると、無機質な視線が自分から外れたような気がして、少女の方へと視線を向けると、確かに視線がヒューゼから外されていた。


 そして、ヒューゼに向けられていた視線は、黒いローブの男たち三人組にへと向いていた。


 「な、なんだお前は!! 」


 少女の視線に気が付いたのか、先程までレベトリアに向かって怒鳴っていた男は、少女に向かいそう怒鳴った。怒りの矛先が安定していないのか、狼狽えている黒いローブの二人組に対しても怒鳴りつける。

 その醜態にヒューゼは思わず顔を顰める。人間、死の恐怖に怯えるとここまで醜いものなのか、と。


 「殺れ」


 レベトリアが少女に向かってそう言い放つ。

 

 「や、殺れとは、殺れとはレベトリア」


 一瞬呆けた男であったけれども、言葉の意味を理解した瞬間に、恐怖が支配したのか、声を震わせた。そんな口から出た言葉は、文章として成立していない。


 少女は静かに首肯する。それを見て、男は恐怖が理性を上回ったのか、背中を向けて逃げ出そうとする。しかし、腰が抜けているおかげで、逃げようとしても無様に這いずることしかできない。

 男の顔は憤怒と恐怖が入り混じった不思議な表情をしており、そんな顔で奇声を上げる。


 けれど、男のそんな悲痛な様子を、少女は気にも留めず男の下へと歩いて行く。


 「させるものか!!」


 すると、立ち尽くしていた二人の内、一人が懐から何かを取り出そうとする。


 ――刹那、少女の体が振れた。


 ヒューゼですら、少女の姿を一瞬だけ見失った。そして、次の瞬間には二人の黒いローブの男たちの背後に立っていた。何が起こったか理解できずにヒューゼは黒いローブの男たち二人と少女を交互に見比べる。

 

 二人の男の顔がズレた。


 「……へ」


 レベトリアの足に縋り付いているはその様子をまじまじと見ている。そして、男二人は膝を折り、そのまま倒れ伏した。倒れる際に、体が前へと傾倒したせいか、切断された顔の上部が、レベトリアに縋り付いている男の目前に落ちた。


 2つの顔の上部は、まるで生きているかのように視線を忙しなく動かせる。その様子は、体を潰した虫が、未だに足を動かしているような不気味さがあった。


 「あ、あぁ」


 男がそう呻いた瞬間に、少女の剣が男の喉元を刺し貫いた。


 「が……ッ、ハァッ」


 そして、そのまま少女は喉元に刺した剣を凪ぐ。すると、大量の血液を噴出させながら、男は地面に倒れる。首もとを押さえながら、体を激しく痙攣させた。押さえている手の指の隙間から、大量に赤黒い血が溢れ、最終的には体中を血で汚し、死んだ。


 「おい、エルフさんよ。もうそろそろ覗きなんてせずに出てきたらどうだ?」


 レベトリアは先程まで縋り付いていた男の生死を確かめるように、足の先で男を突きながら、大きな声でそう言う。暫く、そのまま身を潜めていると、少女がヒューゼのいる場所へとナイフを投擲した。


 「――ッ!!」


 ヒューゼは木々の間を縫うように避け、そのまま遠ざかろうとしたはずだったが、いつの間にかレベトリアと少女の前に対峙していた。

 

 「すげーだろ。こいつの剣の技術」


 レベトリアが顔をニヤけさせながら、そう言った。その言葉を聞いた最初は、3人の男を瞬殺したことを言っているのかと思ったが、直後それが違うことに気がつく。

 ヒューゼは思わず背後を振り返る。すると、何故彼らの前に出てきてしまったのか理解できた。ナイフが刺さっている木々は、ヒューゼが逃げようとした進行方向の全てを塞いでいる。


 つまりは、少女がナイフを投擲することで、ヒューゼを誘導させたのだ。

 

 確かにレベトリアが言うように、少女の剣の扱いは技巧的だと思う。ヒューゼはかなりギリギリでナイフを躱していたはずだ。事実、ヒューゼの体には数回ナイフが掠り、衣服が斬り裂かれている形跡がある。

 その事実に気が付き、ヒューゼは背中が冷えるのを感じる。


 状況が完全に支配されている。


 ヒューゼは自分が焦燥感を感じていることが理解できた。ヒューゼは基本的に魔術を基本とした戦闘スタイルだ。それは彼の魔術が得意だからだ。この世界中を探したとしても、彼ほど魔術を使い熟せる者は中々いないだろう。


 けれど、相手は魔術の原動力と言える魔力を断つ物質を保有している。どういう条件で魔力を断つのか、ヒューゼには理解できない。それでも、魔力を断つという物質を相手方が持っている限り、ヒューゼは圧倒的に不利であることぐらいは、把握できていた。


 この状況に更に、会話の主導権まで握られるのはマズイ。ヒューゼはそう思い、咄嗟に3人の男たちの死体が目に入った。


 「おい、レベトリア……か?」

 「あぁ、そうだ」

 「この3人の男、お前が統率しているところの、資金源なんじゃないのか?」

 「まぁ、そうだな」

 

 あっさりと肯定したことに内申驚きながら、ヒューゼは問い続ける。


 「だったら、ここで殺したのはまずいんじゃないか? それとも、お前たちには殺されても構わないっていう狂信的なファンがいるのか?」


 皮肉を入れながら、ヒューゼは質問を続ける。


 「いないな。他にも複数人のスポンサーがいたが、どうでもいいことだ」


 レベトリアはヒューゼの皮肉など意にも介さず質問に答えた。少しでも感情が乱れて隙でも出来ないものか、そう思って入れた皮肉だったがなんの効果もなさなかった。


 けれども、ふとした言葉で疑問が浮かび上がってくる。ヒューゼは思わずレベトリアの言葉に疑問を抱いた。


 他にも複数人のスポンサーが『いた』とは、なんで過去形なのだろうか。


 「もう、レベトリア怪盗団が存続する理由は無い。目的を遂行しちまったからな」

 「……どういうことだ?」


 レベトリアが言っている意味を理解できずに、ヒューゼは反射的にそう問い掛けたのだが、当の本人であるレベトリアは答えるつもりが無いようで、何処か皮肉げな笑みを浮かべていた。


 「そして、俺が存在する理由も、目的の遂行と同時に、消滅しちまったわけだ」

 

 ヒューゼは更に混乱した。目の前の男が何を言っているのか、理解できないし、レベトリアの本心を見透かす事もできない。

 ヒューゼが目に見えて狼狽していると、レベトリアは隣で佇んでいる少女を優しく撫でる。それは今まで残虐極まりない行動を繰り返した人間とは思えない、穏やかな笑みだった。


 「――ハハッ」


 そう憑き物が取れたかのような、優しげな笑みを浮かべた瞬間。


 ――レベトリアは、少女に心臓を貫かれて死んだ。


 とても幸せそうな笑顔で。


後一話です。我慢して下さい。

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