メイドの過去話 『終結』 1/2
2015/02/14 大幅改稿
ルイを玄関から台所へと招き、そこで一緒に昼食を食した。バスケットの中に入っていたのは白身魚と野菜を特性ソースを掛けたものを、白く柔らかいパンで挟んだサンドイッチなるものだった。
ここ最近、レイルド王国の文化輸入が激しい中、新しい食文化の代表とも言える料理だ。
ヒューゼもこのサンドイッチという料理は好きだった。中々に美味で、様々な世間話をしながらヒューぜとルイは昼食を共にした。
どうやらルイは早めに仕事が終了してしまったらしい。ルイが所属している部署は確か事務関係が主だった筈だ。ということは、早めに終わらせてしまったのだろうか等と思ったが、それとは違うようだ。
ルイはここ二日間、ヒューゼと同じく忙殺されていた。それで、疲労困憊の様子のルイを心配して、早退させたようだ。随分と優しい上司だなとヒューゼは思いながら、美味しいサンドイッチに舌鼓を打っていた。
昼食を食べ終わり、用が済んだルイは帰宅するかと思ったけれども、仕事を手伝うとルイはヒューゼに申し出てきた。どうやら、昼食を共にするというのは仕事を手伝うという目的のついでだったようだ。
断る理由もなく、それに正直に言ってしまえばその申し出は嬉しかったので、了承した。
ルイには資料の整理を頼み、ヒューゼは先ほど一旦放置した報告書に取り掛かった。
「……結局、何がなんだか私には理解できません」
ヒューゼの書斎で、暫く資料の整理をしていたルイはそう呆然と呟いた。
突然何を言い出したのかと考え、先日の事件のことかと思い至るまでの間は数秒もかからない。
結界破壊騒動という名前が付けられたその事件は、複雑怪奇に入り組んでいる。その全貌を知るものは、恐らくまだ少ないだろう。真しやかな風に、様々な憶測が飛び交っているが、その憶測も憶測の域を出ない。
「まぁ、ほとんどの人たちがそうだろうね」
手元に置かれた書類に、羽ペンを動かしながらヒューゼは言う。
ただでさえ、入り組んでいる上に、結界破壊騒動は余り進展がない。理由は様々あるけれども、一番の要因が、レイルド王国が結界破壊騒動やレベトリア怪盗団の真意を調査する暇が無いほど、混迷を極めているせいだ。
レイルド王国の貴族が多く死に、その死んだ貴族がレベトリア盗賊団に資金提供をしていた証拠物品まで出てきている。証拠の確認と、各家の処罰、それに加えて空席埋め等、事件に余力を割くことが出来ない。
「それにしても、あの女の子、どうなるんでしょうか?」
ルイはふと視線を窓の外に向けて言う。
「……さぁ」
ヒューゼも窓に視線を向けてみると、既に日が沈む寸前であった。レイルド王国から輸入した置き時計が机の上にある。短針は五時を指していた。
そんなことを考えながら、ヒューゼもあの少女のことを考える。
様々な情報がヒューゼの下へと回ってくるが、何故かあの少女の情報だけはヒューゼの下に回ってこない。レイルド王国に引き渡さなかったことは把握しているから、この森のどこかに監禁されていることは確かだが、それ以上の情報は回ってこなかった。
けれど、幾ら情報が回ってこないからと言え、かなり確率で死刑は免れないだろうことは理解できた。
それぐらいのことをレベトリア盗賊団はやってきた。あの少女も、かなりのかずおおき罪なき人間を斬ってきた、ということだった。
「……こんな曖昧な状況じゃあ、死んだ人たちに顔向け出来ませんね」
悲壮な表情を浮かべるルイはそう言って、背凭れに凭れかかった。橙色の光がルイの顔に深い影を作り出す。
死亡した調査隊の隊員の中には、彼女の知人がいたらしい。レベトリアが死んで、調査隊が派遣されてから数時間後、死体の身分の照合が開始された。その時のヒューゼと言えば、死体の照合にルイと一緒に立ち会っていた。
そして、結果、ルイの知人であるエルフが死体となって見つかった。救いを見出すとすれば、他の死体と比較して死体の破損が少ないということだろうか。
ルイは書斎の資料を無言で整理をする。
ヒューゼは無言で手元の資料に言葉を書き綴る。
暫し、ヒューゼの書斎は静寂に包まれ、それは仕事が一段落するまで続いた。ヒューゼの方が仕事が早く終わり、一応お願いした立場から言えば、ルイに無理強いは出来ない。だから、「無理せず帰っていいよ」と穏やかな声で話しかけると、首を横に振った後に、一心不乱に資料を整理していた。
仕事熱心だ、そう思いながらヒューゼは台所へと行き、紅茶を淹れる。
「ルイ、紅茶はいかがかな?」
「あ、……ありがとうございます。その、ミルクお願いできますか」
「わかった」
ルイの言われるがままに、ヒューゼは白磁のミルクポッドに入ったミルクを、紅茶の中に注いだ。スプーンでミルクをゆっくりと掻き混ぜて、そしてルイに差し出した。
ルイはそれに息を吹きかけて、少しだけ熱を冷まし、そして口を付ける。すると、暗かった表情は明るいとはいかないまでも、少しだけマシな顔つきとなった。
「やはり、ヒューゼ隊長が注いだ紅茶は美味しいですね。あー、私もこのぐらいのお茶をレイに注いであげられたらなぁ~」
ルイはそのまま、体に強張っていた力が抜けていったのか、いつも通りの雰囲気が戻っていく。そのことにヒューゼは安堵して、ルイと雑談を交える。
「レイ……あぁ、君の娘だったかな」
「はい、そうです。大人しい娘なんですけど、最近は本が欲しく欲しくて堪らないらしいんです。去年の誕生日にプレゼントしたのも、共通語の恋愛小説で」
「……本が好きだなんて珍しいね」
「アハハ、ヒューゼ隊長は本を読むことは悪いと思いますか?」
「うーん、どうだろう。より良く知識を吸収するには、そのための下地が必要だからね。レイちゃんは何をよく読むのかな? 恋愛小説、というやつかな」
「そうですね。でも、最近は本が安くなってきたし、新しく図鑑みたいのも買ってあげようかな?」
「私は勧善懲悪ものが好きなんだけど、女の子にはきっとウケが悪いだろうね」
「……あー、まぁ、そうですねぇ」
そうやって何処か言いにくそうにしているルイに、ヒューゼは苦笑した。そして、ふと気がつく。
先程までの暗澹たる空気は消えていた。なるほど、これは良い空気だ。
外は既に暗くなっており、窓から街を覗けば、人々の灯りが点々と灯っている。既に時は夜半だ。夕飯を買い求める主婦や、屋台で市場が繁盛する時刻。それを証明するかのように、騒々しい声々が聞こえてくる。
「あ、もうこんな時刻になっちゃった」
「そうだね。もうおなかが減る頃だ。君も娘さんにご飯を作ってあげなければいけないんじゃないかい?」
「それでは、私は上がらせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「いいよ。娘さんによろしくね」
「はい。それでは失礼させていただきます」
ルイそう言うと、席を立ち上がり、持ってきた手荷物を手にして帰ろうと扉へと向かう。
しかし、その瞬間、まるでタイミングを図ったかのように、部屋にドアのノックの音が響いた。軽快な音が三回なった後、「よろしいでしょうか」という声が扉越しに聞こえた。ヒューゼは「どうぞ」と言った。
「失礼します」
そう言いながら入室してきたのは、結界破壊騒動にヒューゼを招集されたという旨を伝えた配文隊の青年だった。
「……どうしたのかな」
「はい、僕は資料を配達しに来ただけです」
配文隊の青年はそう言って、手に持った茶封筒を差し出す。ヒューゼはその茶封筒を受け取った。
「あぁ、ありがとう。取り敢えず、君は下がっていいよ」
「了解しました。それでは失礼します」
配文隊の青年はいつも通りの言葉を言って、ヒューゼの書斎から辞去した。それを見送ってから、ヒューゼは茶封筒の封を徐ろに切り始めた。
「あのー、私は出て行ったほうがいいと思うんですけど」
遠慮がちに言うルイ。けれど、ヒューゼは「別にいいよ」と言いルイを引き止めた。ルイは恐らく、極秘の資料か何かと勘違いしているのだろうが、極秘の資料であれば、このように配文隊の青年に託したりはしない。
封を切り終わると、ヒューゼは茶封筒を逆さにして、資料を机の上に乱雑に出した。しかし、大げさに大きな茶封筒にしては、入っている資料は一枚の紙だけであった。
「これは」
ヒューゼは資料を手にとって、そしてそんな言葉を無意識的に呟き、嘆息をした。自然と眉間に皺が寄るのを感じ、胃がキリキリと痛んだ。
「……何が書いてあるんですか」
そんなヒューゼの様子を見てか、ルイは最初逡巡した様子だったけれども、結局好奇心に負けたのか、ヒューゼにそう尋ねた。
「あぁ、まぁ、これだよ」
ヒューゼは言葉とため息が混じったかのような声色で返事をして、手元にあった資料をルイの目前に翳した。
そこに書かれていたことは単純だった。
『来い』
と、大きな文字で書かれており、その下には……。
――エルフの頂点、長老の名が書かれていた。
※状況を上手く描写出来ていないと思い、大幅に内容を変更することにしました。全体的な文章の内容が変わっていたり、余りにも文字が増えたので二分割にすることにしました。
勝手ながらの変更をお許し下さい。




