六話 天文部設立に構われる
理由は、端的に説明するとこの学校に部が多いから。無造作に増え続ける部活動を規制しようと、新たなそれの設立は禁止しているらしい。
「どうして!? 天文部は前にあった部活でしょ!? 部室も残ってるじゃん!」
「以前あったかどうか、活動内容は関係ない。それにあの部室は、他の部に譲渡する予定になっている。何を言われようが、現状の新たな部活動の設立は認めなられない」
もちろん星塚だけでなく、俺も生徒会長の結論に異議を唱えた。しかし一向に色井先輩の意見は変わらなかった。
「――まさか、天文部の設立が却下されるとはね……」
生徒会室を後にした俺達は途方に暮れていた。
「ああ、もう! これだから苦手なのよあいつ! 変に頭硬いし!」
「この学校の部活動が多いのは確かだし、それをどうにかして制御しようとしているのは分かるわ。でも、天文部が認められなかったのは意外ね。活動内容についても問題ない筈だけれど」
琴野の言う通り、問答無用で設立却下される言われは、俺達天文部にはなかった。だから生徒会長に鬱憤を溜めている星塚の気持ちは、充分に共感出来た。
「とにかく、暫く設立は無理そうね。明日また対策を考えるか、流れに身を任せるか決めましょう。私個人としては、前者を選んで欲しい所だけど」
「そうだね……今日はもうお開きにしよう」
「言っとくけど、あたしは諦めないからね。あいつのあの態度も気に食わないし」
当然納得はいかなかったが、今日は解散となった。現状どうする事も出来ないから仕方ない、そう自分達に言い聞かせて。
しかし、一人を除いてだが。
「恭也君。私はこのまま終わるのは嫌です。また明日、生徒会室に抗議しに行きましょう」
途中まで帰り道が一緒で、隣を歩いている御縁が意気込んでそう言った。
「……ああ。だな。このまま終わるのは退屈で面白くない」
「生徒会を倒して、天文部を設立させましょう」
「倒す……訳じゃないが、その意気だ」
「はい、その意気です」
やる気に満ち溢れながらサムズアップする御縁に頷き返す。
設立したいのは本心だったが、俺は何処か諦め掛けていたのかもしれない。絶望的かもしれないが、最後までダメ元で事に当たってみようと頷いた。
明日また、皆と話し合ってどうするか決めよう。そう思いながら、御縁と別れて帰路に着いた。
◇◇◇
翌日、御縁は学校に来なかった。
理由は分からない。学校にも連絡は来ていないそうだ。
気になって電話を掛けてみたが繋がらない。何かあったんだろうか。
「え? 今日あいつ休みなの?」
放課後に天文部メンバーで集まった際、もちろんその話題になった。
「ああ、電話しても繋がらないんだ」
「ちょっと心配だよね」
「高城君、機能は彼女と途中まで帰ったのよね? 変わった様子とかなかった?」
言われて思い返すが、昨日の別れ際は普通だったと思う。
「いや、特になかったと思う。絶対天文部を設立させようって意気込んでいたくらいだな」
「そう……じゃあ、ただの体調不良かしら」
まさかとは
「何れにしても、彼女抜きで今後の方針を決めるのは辞めておこう」
「うん。宮下の言う通り、天文部の総意で決めたいわね」
と言う訳で今日は解散となった。
そしてその日の夜、件の御縁から電話が掛かってきた。
「もしもし、御縁か? お前今日、学校休んでたけど大丈夫なのか?」
口頭一番にそう伝えると、少し間を置いてから声が返ってくる。
『恭也君、助けてください。死にそうです』
そう言う御縁の声色はいつものそれと変わらない様子で、思わず俺は首を傾げた。
「どう言う事だ?」
だから俺の返答はあっさりとしていた。
『とにかく助けてください』
御縁の声は、俺の問いに答える事はなかった。説明出来ない程、切羽詰まった状況なのだろうか。
『お願いします。助けてください』
「分かった分かった、助けるから。俺は何をすればいいんだ?」
『私の部屋に来てください。なるべく早く来てくれると助かります。私が冥界に連れて行かれる前に』
冗談を言う余裕はあるようだ。
『では待っています』
「お、おい。ちょっと待てって!」
電話を切ろうとする御縁を慌てて呼び止める。
「部屋って、お前の家って事だよな? 場所知らないんだけど」
途中までは一緒に帰っているから知っているが、具体的な場所は知らない。
「だから住所を送ってくれ」
『分かりました。送るので急いでください』
そう言い残して電話は今度こそ切れた。
メッセージに住所はまだ送られてきていないが、俺は部屋を出て一階へと向かう。
「あれ、兄貴。こんな時間にどこ行くの」
玄関で靴を履いていると、ちょうどリビングから出て来た妹、凪砂と鉢合わせた。
「ん、いやちょっとな」
「もしかして彼女?」
「そうかもな」
適当に返事をして家を出ると、普段通学には使っていない自転車に跨る。
メッセージに送られてきた住所を頼りに、御縁の家へと向かった。
そう遠くはなく、十分程度で着いた。ここまでは良かった。
着いた事をメッセージで知らせると。
『入って来てください』
そんな短い返信を見た俺は困惑していた。
「……どうやって入れって言うんだよ……」
御縁の家はマンション、それもオートロック式のものだ。教えられた部屋のインターホンを鳴らしてみるが、応答はない。
仕方なく再び御縁に電話を掛けると、一分程経って繋がった。
「このマンション、オートロックだろ。開けてくれ」
『忘れてました。少し待ってください』
また暫く経って。
『鳴らしてください』
今度は割と長かった気がする。インターホンを鳴らすと扉が開いて中に入る。
『恭也君、私はもう駄目みたいです』
マンションのロビーに入ったと同時に、スマホのスピーカーからそう聞こえた。
「え? 御縁?」
通話は切れた。
「……とりあえず、向かうか」
何が何だか分からないままエレベーターに乗って上の階へ。そして、御縁の部屋の前に到着した。
「この部屋だよな……」
入って来て良いらしいので、ドアノブに手を伸ばす。オートロックの件があって鍵が閉まってるかと思ったが、心配は杞憂だった。
「御縁、入るぞ」
一応一声掛けて玄関に足を踏み入れる。中は電気がついておらず真っ暗だった。
「おーい、御縁。居るんだろー?」
とりあえず御縁の姿と、照明のスイッチを探しながら壁伝いに進む。
一向に返事が返ってこないまま、廊下を歩いていると――。
「――うおっ!」
顔面に痛みが走る。何かにぶつかったみたいだ。
「何だこれ……」
あまり痛みはなく、それを手で触ると柔らかい物だった。少し凸凹している。
「……あった」
照明のスイッチをもう片方の手で見つけた。オンにして明かりをつけると、目の前にあった物が露になる。
それは高く積まれたダンボールの山だった。ここに引っ越して来て、手を付けていないみたいだ。
ダンボールの脇を通り抜けて何とか、廊下突き当たりの扉に辿り着く。恐らくリビングだろう。
扉を開けて中に入ると、また暗い部屋。しかし、廊下と違い、人影があった。
「――御縁!?」
制服姿の御縁。だが、ただそこに居ただけでなく、床に突っ伏していた。
「御縁!? おい! 大丈夫か!?」
リビングの電気をつけて、彼女の元へ駆け寄る。
「――あ、恭也君……来てくれたんですね」
「お前、何があったんだ?」
薄らと目を開ける御縁の体を抱き起こすと、違和感を感じた。
「お前……もしかして……」
彼女の赤く火照っている額に手を当てると、信じられないくらい熱かった。
「熱、あるのか?」
「……はい……朝起きたら……それで……動けなくて……」
「丸一日か?」
「……はい……」
吐息混じりの声、全身から吹き出る汗。恐らく普通の風邪じゃない。
「熱は? 測ったのか?」
「測りました……三十九度……でした……」
「何か薬は飲んだのか?」
「いえ……なかったので……それに……こっちでは一人暮らしで……どうしようも……出来ず……」
だから俺に連絡した訳か。
「とりあえず、こんな所で寝てたらもっと悪化する。一人立てそう……ではないか」
「ベッドまで……運んで貰えれば……隣の部屋に……」
立つ事すらも辛そうな御縁を抱えながら、リビングのから隣の部屋に移る。こっちはどうやら寝室らしい。
リビングもそうだったが、この部屋も最低限の物しか置いてなかった。それとまだ荷物が入っているダンボールが、中途半端に開封された状態で散乱していた。
「下ろすぞ」
御縁は意外にも軽かったから苦労せずにベッドへ運び込めた。彼女の体から手を離すと、倒れ込むかのように横になった。
とりあえずベッドに寝かせたが、このままじゃ駄目だ。
まずは薬を買ってこよう。この時間だったらまだ薬局は開いているだろう。
それと飯。この様子では、何も口にしていないだろう。
「御縁、ちょっと出掛けてくる。鍵、借りるぞ」
寝室の平テーブル上にあった、恐らくこの部屋とマンションのオートロックの鍵を持って、買い出しに行こうとする。
「分かりました……気を付けて……車に轢かれないように……死なないでください……」
それが今、死にそうな奴が言う台詞じゃないだろう。
「お前こそ、安静にしてろよ?」
「分かり……ました……」
俺はマンションの外に出て、自転車に乗って薬局とスーパーに向かう。
それから薬と食材を買って戻って来たのは、約三十分後だった。
すっからかんの冷蔵庫に買ってきた食材を入れ、寝室へ向かう。
「御縁、戻ったけど大丈夫――」
俺はその光景に思わず絶句した。
「御縁――お前……!」
寝室には脱ぎ散らかした制服。そして、下着姿の御縁が床に倒れていた。
状況は分かる。傍には替えの寝間着が置いてあり、汗をかいているから着替えようとして、そこで倒れた。そう言う事だ、納得は出来る。
だが、問題は彼女が――。
「――あ……恭也君……帰って来てくれたんですね……」
まずい。御縁が気が付いた。この状況は非常に――。
「すみません……安静にしていろって言われたのに……勝手に起きてしまって……ですが、制服がベタついていたので………」
しかし、御縁は俺がその場に居るのにも関わず、冷静に体を起こして、寝間着へと着替え始めた。
「…………」
俺はその状況に、再度絶句していた。普通、出て行けとか言われるものだろう。しかし、俺の姿には目もくれず、着替えを続けている。
「…………何かあったら呼んでくれ」
どうすればいいか分からなくなり、そっと寝室を後にした。
……とにかくリビングに戻った俺は、キッチンを借りて、買ってきた食材で食べれそうなおかずと、卵を溶いたお粥をこしらえた。
それらを持って寝室に居る御縁の元へ向かう。
「御縁、入るぞ」
今度はちゃんとノックをした。返事は返ってこなかったが、物音はしなかったから寝ているんだろう。
意を決して入ると案の定だった。
「御縁、起きれるか?」
体を軽く揺らすと、すぐに目を開いた。
「……いい匂いがします」
食べ物の匂いと、真っ先に目に映ったのがそれだったんだろう。
「食べれそうか?」
「はい……食べれます」
そう言って、大きく口を開けた。
……食べさせろって事か。
「ほら」
スプーンで掬ったお粥を口に運んでやる。
「……美味しいです。もっとください」
まるで雛鳥のように、再度口を開ける。
「分かった分かった」
見た目よりも食欲があったから、割とすぐに完食した。
餌付け――もとい食事が終わったら次は薬だ。
効くか分からないが、薬局で買った風邪薬と解熱剤を飲ませる。
薬が効いたのかやがて、先程までの辛そうな呼吸は落ち着き、横になって静かに寝息を立てていた。
「寝たか」
御縁が寝たのを見計らって、キッチンに使った食器等を持って行き、後片付けをした。
その後はもう大丈夫だろうと思いつつも、心配で再度寝室に戻って様子を見ていた。
「…………」
それから二時間後くらいだろうか。部屋の掃除等をしていると、彼女が目を覚ました。
「おはようございます。恭也君」
「おはよう――と言うか、もう夜だけどな」
顔色は幾分かマシに見えた。荒い呼吸も元に戻っている。
熱を測ると平熱ではなかったが、三十七度五分程度までには下がっていた。
「後は安静にしていれば大丈夫だろ。念の為に明日は学校を休め」
「はい、そうします。ありがとうございました。恭也君。私の救世主です。ご飯も作ってくださったので飯屋の救世主です」
さっさと寝ろ。
「……改めて、すみませんでした。恭也君」
「いいって。そりゃあいきなり『助けてください』なんて言われた時は驚いたけど、御縁に元気になってよかった」
「いえ、その事では――いえ、その事も含めてですけど。その、今日学校に行けなくて」
「え?」
何故、それを俺に謝るんだ。
「昨日、もう一度生徒会に抗議しようって言ったのに、行けなくて。行きたかったのですが、体が動かなかったです」
ああ、そう言えば昨日約束したっけ。
「……もしかして、制服を着たまま倒れていたのは……」
「はい。着替えたまではよかったんですが、意識が朦朧としてしまって」
「……御縁……」
三十九度の熱だ。恐らく今朝の時点でもかなり辛い状況だっただろう。それなのに、こいつは天文部の設立を優先しようとしたのか。
「それで、天文部はどうなりましたか?」
「いや、お前が休んだから生徒会室には行ってない」
「すみません、私のせいで」
再び頭を下げる御縁の姿を、俺はなるべく見たくないと思った。
「いやいや! 決してお前のせいじゃない! これは俺達の意思なんだ。これからどうするかは天文部全員、御縁が居る時に決めたいからって」
「そうなんですか……だったら、私の気持ちは変わりません。なので、明日。私は行けませんが、もう一度生徒会に行って、今度こそ天文部を設立してください」
設立出来るかは分からない。でも、心身共に弱っていた彼女を元気付ける為に強く頷いた。
「分かった。もう一度生徒会に抗議して、皆で――俺が天文部を設立させてやる。だから、今は休め」
御縁は設立が一日でも遅れた事を、恰も全部自分のせいのように自負しているだろう。真面目な奴だから、全てを真正面から受け止めてしまう。
「明日、天文部を設立させるから」
安心して休んで、一刻も早く元気になって欲しくて、何の自信も、根拠もない言葉を吐いた。
「お願いします。恭也君なら出来ます。出来の悪い私と違って」
「そう自分を卑下するなって。病は気からって言うだろ? ほら、安心してもう休めって」
半ば無理矢理ベッドに寝かせ、布団を被せる。
「はい。恭也君がそう言ってくれたら安心出来ます」
声調はいつもと変わらないが、珍しく表情が変わった。あの時屋上で見た微笑みだ。
「よし。じゃあ俺はもう帰るぞ。明日一杯は安静にしとけよ?」
「はい」
寝室を出ようとした時、ふと思い出した事があった。
「……そうだ。さっきは悪い」
「? 何がですか?」
「いや……その……」
改めて口に出すとなると恥ずかしいな……。
「その……だな……お前の、着替えを見た事……だ」
「ああ、そんな事ですか」
相変わらず、謝った俺が馬鹿みたいと思う程に、あっさりとした反応。
「気にしないでください。私が恭也君の言いつけを破って、安静にしていなかったのがいけなかったので」
腑に落ちないが、本当に怒っていないらしく安堵する。
「――それに……」
それに……何だ? 声が小さくて聞き取れない。
「――恭也君」
聞き取ろうと必死になっていると、横になったまま手を振ってくる。
「また明日――ではなくて、また学校で」
「……ああ、またな。おやすみ」
「おやすみなさい」
――明日の対策を考えつつ、家に帰宅した。
生徒会に付け入る隙はある。でもやっぱり、結果はその時になってみないと分からない。認められるかどうか……。
◇◇◇
翌日の放課後。御縁を除いた四人で生徒会室に向かった。
「――単刀直入に言います。やっぱり天文部が部として認められないのは、はっきり言っておかしいです」
「おかしい……とは? 部活動の数が多いから規制する。何も間違ってないと思うが」
色井先輩の答えは、一昨日と同じで変わっていなかった。でも、その理論は明らかにおかしい。
「ううん、こいつの言う通り色井、あんたの言い分はおかしいわ」
「そうです、生徒会長。それじゃあ納得出来ない」
すかさず、星塚と宮下が同意してくれる。
「確かにこの学校には部活動が多い。規制する理由も分かる。部室の取り合い、部費の運用、それに伴った部活動同士のトラブル。もはや、生徒会の手には負えない状況になっている」
「そうだ。ならば、私達の言い分は筋が通っているだろう」
「いいえ。生徒会の言い分には理解し難いポイントが一つある」
琴野の後を継ぐように、俺ははっきりと言う。
「それは、何故その規制対象に、天文部が入っているかです」
「……言っただろう。新しい部活動の設立は当面禁止すると」
「それがおかしいと言っているんです。天文部を――新しい部活動を問答無用で認めない事を。もっと、規制の対象にすべき部活動があります」
それは――。
「この学校に部活動が多いのは確かです。でも、そのほとんどが意味の分からない活動内容を掲げている部活動ばかり。例えば大食い部とか。噂によると、部費を浪費して暴飲暴食を繰り返すだけの部活ではないですか」
そんな部活動を泳がせて、活動内容をちゃんと示している天文部の設立を認めないのは腑に落ちない。
「活動内容だけじゃない。規定部員数を幽霊部員だけで補っている部もある。それらが廃部にならなくて、どうして天文部が認められないんですか!?」
俺が考えた生徒会に付け入る作戦は、ろくに活動もしてない部費を浪費し続ける部活動に目を向けさせる事。
そして、その上で生徒会長に間違いを認めさせる事。
「生徒会長。昨年貴方は、実力と人望だけでその席に登り詰めた生徒だと伺っています」
因みにそれは星塚曰くの話。
「そんな優秀な貴方が、それに気付かない筈がない。色井会長もそう思っているんですよね? 気付ている上で、俺達天文部を認めないって言うんなら、それ相応のがあるんですよね? 活動内容があやふやな部を差し置いて、ちゃんとそれを掲げている俺達天文部が認められない、それ相応の理由。色井会長、答えてください」
言いたい事は全て言った。さぁどう出る、生徒会長。
「……ふふ、充分だ。認めよう」
「――え?」
色井会長は小さく笑いながら席を立ち、俺が呆気にとられている間に、持っていた申請書を奪い取った。
「ま、待ってください! そんなあっさり……」
「何だ、嬉しくないのか?」
嬉しいに決まってる。でも、生徒会長の変わり身の早さに動揺を隠せない。
「細かい事は抜きにして、お前から受け取った申請書に私が判子を押して、正式に部として設立――いや、復活とする」
受け取った、と言うか奪い取っただろ……。
「……なるほど。私達を試したのね」
琴野の声が、判子を押そうとする色井会長の手を掴む。
「会長さん。貴方は私達が部を設立するに相応しいか試した。ちゃんと意志を持ち、活動をしようとしているか。貴方の目的は無造作に作られていく部活動の精査。そして、学校の部活動の改変。そうでしょう?」
「――そうだ。これは言うなれば、私なりの部の設立に伴ったテストだ」
会長は判子を置き、語り始める。
「どうやら、先代までの生徒会長は少々お人好しが過ぎていたようだ。何でもかんでも設立を許可して、学校の部活動は無法地帯と化した。この三年間、生徒会に席を置いた私は、ずっとこの現状を打破したいと思っていな」
そこで思い付いたのが、この設立テスト。
「中途半端な覚悟の生徒達は、一度設立出来ないと分かればすぐに諦める。だがたまにお前達のような、認めないと言われても再び異議を唱え、私の言葉をよく分析し、粗を見抜いて指摘する生徒が現れる。お前達にとってそれが、ただの部活動ではない証拠だ――だから私は、お前達天文部の設立を許可すると言ったんだ」
先輩も、生徒会長なりに色々考えていたのか。だったら、言わなくちゃいけない事がある。
「……そう言う事なら、会長。申し訳ないですが、俺達は設立を取り下げようと思います」
「ん? 何故だ?」
生徒会長だけでなく、背後にいた皆もきっと驚いているだろう。でも、真面目なあいつなら絶対にこうやって断るだろう。この場に居ないあいつなら。
「実は天文部を設立、と言うか復活しようと思った理由って多分、他のそれと変わらないんですよね」
「変わらない?」
「はい。部活動を作ろうって思い立った理由が、御縁の『星を見たいから』って発言があったからで……それに星塚を除いた三人も単に『面白そう』だからってだけで集まったので。先輩が求めていた覚悟の欠けらもないんです。だから、設立の申請は取り消します」
皆には悪い事をする。
特に星塚。彼女は元天文部部員で、思い入れがあって復活させようとしているんだろう。でも、御縁はきっとこう言う。だから――。
「――何を勘違いしているんだ?」
「え?」
生徒会長の手にはいつの間にか判子が握られていた。
「私が問いたかったのは『理由』じゃない。『覚悟』だ。何があっても部を設立すると言う覚悟。理由はどうであれ、お前達は私のテストを合格した」
「で、でも……俺達は……」
「理由なんてどうでもいいだろう。きっかけはきっかけに過ぎない。私なんて、生徒会に入ったの『内申点が欲しかったから』って、私欲にまみれた理由だっだぞ? だが今はこうして生徒会長まで成り上がった。だがら私はこう思う、大事なのはその後。何を成すか、だと」
何を成すか……。
「それに、元部員の星塚が望んでいた部の復活。あまり水をさしてやるな」
「あ、あたしは別に……二人が勝手に始めた事だから、やるも辞めるも自由だし……」
「なるほど、この申請書を見る限り、その言葉は気休めでも何でもないようだな。優しいじゃないか」
「そ、それは、あたしは今年で卒業だし、色々とめんどくさいからあいつに譲っただけよ……」
会長に優しいと言われた星塚は照れているのかそっぽを向く。
「とにかく、設立の取り下げは認めない。天文部の設立は決まった事だ。諦めるんだな」
「……色井会長がそう言うなら。それに」
やっぱりここで辞退したら星塚には申し訳ない。
「あ、あたしの事は気にすんなって言ってるでしょ!? これはあんた達が始めた事なんだから!」
「悪かった、星塚」
「だ、だからぁ!」
口ではこう言っているが、先程一瞬だけ不安そうな顔をしたのを俺は忘れていない。
「こほん。では改めて、天文部の設立を許可する!」
申請書に、色井会長の判子が強く押される。
「部室はあの教室を使うといい。すまないが、片付けはそちらに任せる事になるがな」
「はい、ありがとうございます!」
こうして、翠玲高校に天文部が認められて復活した。




