五話 五人目に構われる
しかし、そう簡単にはいかなかった。
「――ああ、もう! 後一人なのに全然集まらないじゃん!」
中庭のベンチで星塚が思い切り嘆く。
「うーん、意外に集まらないものだね」
「一人くらいなら強引に入部してもバレないかもしれません。拉致りましょう、四人で」
「やめとけ」
彼女だけでなく、俺達三人も各々に現状に対して嘆いていた。
宮下を勧誘してから数日間、後一人勧誘出来ればと言う所で躓いている。週を跨ぎつつも、同じ方法で部員を探してきたが、こうも収穫なしじゃあ流石にやり方を変えた方がいいかもしれない。
「宮下、お前の知り合いに誰かいないのか?」
俺は友達が多くて、顔が広いであろう宮下に聞く。この四人のつてを辿って、部員をゲットする作戦だ。
「あんた友達多いんでしょ? 誰か連れて来てよ」
「多いけど、殆どがもう何かしら部に入部してるんだよね……頼りにされるのは嬉しいけど力になれそうにないかな」
星塚の問に対し、天文部のルールに倣い始めていた宮下がそう答える。
「そう言う二人はどうなの?」
「俺も宮下と同じだな……」
知人は全員漏れなく部活動に所属していた。ありえない事だが、もしもあいつ無所属だったら、問答無用で勧誘していたんだがな。
「星塚は?」
「あ、あたしは……そもそも友達少ないし……」
まぁ、教室で下ネタを大声で叫ぶような奴に友達が出来るのが珍しいか。
「そ、それに。あたし含めて皆三年生で、進路やら何やらで忙しい時期だから、無所属だとしても今から入部する奴は居ないと思う」
忘れていたが星塚は三年生か。望みは薄そうだ。
「その三年生の君は、こうして勧誘に応じているけれど?」
「え、ああ……多分あたしは大丈夫だから」
大丈夫とはどう言う意味だろうか。楽観視から来るそれではない事を祈るばかりだ。
「ん?」
二人と話していると、俺の隣に座る御縁が、左手の袖を引っ張ってくる。
「恭也君、私にも聞いてください」
どうやら先程の問いを御縁にも投げてほしいようだ。
「……一応聞くが、御縁は誰か居るか?」
「居ません」
やっぱり居なかった。転校して来たばかりだからそりゃあ居ないだろう。
態々自分から話に入って来たから、てっきり誰か居るのかと思ったが、ただ聞いて欲しかっただけらしい。
「はぁ……こうして居ても仕方ないし、また門の前で部員探しするわよ」
そう言ってベンチから立ち上がる星塚に俺達も続く。
そうして校門へと向かう道中の本校舎の廊下。
「やっほー、夏希ちゃん」
反対方向に向かって歩いていた、女子生徒が星塚に話し掛けてくる。
「六花じゃない。今から部活?」
「うん、夏希ちゃんの方は今日も部員探し?」
「まぁね。多分今日も集まらなそうだけど」
「あらら。うーん、私が何処にも入ってなかったら、そっちに入ってあげたんだけど、ごめんねー」
このふわっとした口調で話す女子生徒は、星塚と親しげに話している。友達なんだろうか。
「夏希ちゃん、その子達は?」
不思議そうに二人を見ていた俺達に気付いたのかそう聞く。
「この前話した三人。天文部の」
「へー、この子達が。私は夏希ちゃんと同じクラスで友達の琴野六花だよー、よろしくねー」
口調と同じく柔らかな笑みを、琴野先輩は向ける。
「この人が星塚ちゃんが言っていた数少ない友達ですか」
「……そうよ」
むっとした表情で星塚が頷く。
「天文部設立……じゃなかった。復活までに確か後一人なんだよね? まだ見つかってないんだね」
「そうなの、中々見つからないのよこれが。六花、あんたの方で誰か居ない? 部活をやってなくて入ってくれそうな奴」
「んー、友達は皆三年だしー、今から入部してくれるとは思わないなー」
琴野先輩は星塚と同じような事を言う。
「あ、でもー。友達じゃないけど、入ってくれそうな子は居るよー?」
「え、本当? 誰!?」
思ってもみなかった言葉に、星塚が声を大きくして食いつく。
「夏希ちゃんも知ってる子だよー、ほら私の妹」
「妹……? そう言えば、今年から高校生だっけ、あいつ」
「うん。確かまだ何処にも入部してなかった筈だから、もしかしたら勧誘出来るんじゃないかなー? 大体放課後は図書室に居ると思うけど……」
「あいつか……あんまり気乗りはしないけど、分かった。行ってみる」
「うん、じゃあ私はもう行くね。じゃあねー」
そう言って、琴野先輩は部室棟の方へと歩いて行った。
「と言う訳で図書室に行くわよ」
「星塚ちゃんの数少ない友達さんからの紹介ですか。これは行くしかないですね」
「一々、数少ない数少ないって言わんでいい!」
星塚の数少ない友達である琴野先輩からの紹介で、俺達は図書室に向かった。
「あ、居た」
図書室に入室したや否や、星塚が部屋の隅に座って本を読んでいる女子生徒を指さす。
そして、俺達を連れてその生徒の傍まで向かった。
「久しぶり、朱音」
「あら、珍しい。貴方から私を訪ねてくるなんて」
朱音と呼ばれた生徒は、綺麗な黒髪を撫でながら、その真紅色の目をこちらに向けてくる。
「貴方にしては大所帯ね。友達の少ない貴方にしては」
「あんたも言う程多くないでしょ……天文部の後輩よ。まぁ、まだ部じゃないけど」
「なるほど、それで私の所に。部員を探してるのね」
「相変わらず察しのいい事」
「それが私の唯一の取り柄だから」
その女子生徒の落ち着いた話し方や仕草は、とても俺達と同じ一年生とは思えない程大人びいていた。容姿と相まって可憐さとミステリアスさを感じた。
さっき会った琴野先輩と妹らしいが、こっちが姉だと言われても信じるくらいだ。
そして、その先輩と彼女は、姉妹と言うにはあまり似ていなかった。容姿においても、話し方や言動においても。
「さっき会った人の妹さんらしいですが、全然似ていませんね」
そう俺の心情を代弁したのは御縁だった。
「さっき? もしかして姉の事? そうね、自分でもそう思うわ。容姿もそうだけど、火と水のように性格も対比しているから」
そう言いながら柔らかに微笑む。その笑顔は姉に似ているような気がした。
「自己紹介がまだだったわね。琴野朱音。よろしくね」
その女子生徒――琴野に応えるように俺達も自己紹介をした。
「三人共同じ一年生なのね。よかったら仲良くしてくれると嬉しいわ」
「こちらこそ。それで、天文部の件だけど……」
「入部してもいいわよ」
話を本題に戻すと、あっさりと首を縦に振った。
「え、いいのか?」
「何を驚いているの? 貴方達が誘ったんでしょう?」
「いや、だからってそんな簡単に決めていいのか?」
「まぁ、姉の友人からの頼みだからね」
そう言って、星塚に視線を見る。
「そんな事言って、単に暇だからじゃないの?」
「あら、バレた? 面白そうって思って。後、ちょうど入部する部を探していたから」
退屈……面白そう……。
「採用だ。ようこそ天文部へ」
「ええ、よろしく」
俺は琴野を歓迎する。そう言う理由で入部する奴は大歓迎だ。
「……あたしはもう何も言わないわよ。あんた達がいいなら別に」
「よろしくお願いします。琴野ちゃん」
「……そのキャラで、ちゃん付けなのね」
また何処かで聞いた事のあるツッコミだ。
「何はともあれ、これで部員の方は揃ったね。後は顧問の先生だけだ」
そうだ。顧問についてすっかり忘れていた。
「それについて問題なし。もう言質は取ってあるから」
「え?」
困惑していた俺達を、星塚が職員室へと連れて行った。
そして今、一人の先生の前に居る。
「ほ、本当に集めて来たんですか……星塚さん……」
「はい。規定部員数を集めて来たら顧問を引き受けてくれる話、覚えてますよね?」
「え、ええ……覚えてますし、引き受けるつもりなんですけど……まさか本当に集められたなんて……」
俺達の前で、おどおどしている先生の名前は、新美若菜と言い、新任の先生で星塚のクラス担任らしい。
星塚はどうやら数日前から、彼女に天文部の件を相談していた。そうしたら、部員を集められたら顧問をしてもいいと言ってくれたとの事。
だからこうして職員室に来ている訳だ。
「じゃあ引き受けるって事で、お願いします」
「は、はい……約束ですので……」
もう俺達の名前は記入済みの部活動設立申請書を渡し、新美先生のサインを貰う。
「……あの、引き受けたからにはちゃんとやるので、新任ですけど何かあったら顧問として頼ってくださいね……?」
「はい。ありがとうございます」
先生に礼を言って職員室を後にする。初対面だがいい先生だ。これなら顧問を任せられるってものだ。
「後はこれを生徒会に持っていくだけですね」
「いよいよか……」
いよいよ、天文部を正式な部として設立出来る。
「あの、皆さん。私の思い付きの為に集まってくれてありがとうございます。これで、天文部が作れそうです」
「御縁……」
静かに頭を下げる御縁に、俺は目を丸くする。
「あんたの為だけじゃないって。あたし自身も天文部を復活させたかったし」
「気にしないでいいよ。俺は自分の意思で入部するって決めたんだから」
「ふふ、そこまで感謝されるなんて、入部して正解だったわ」
各々が御縁に声を掛ける。そして俺も――。
言いたい事は他の三人が言ってくれた。
「行こうぜ、生徒会室。正式に天文部を立ち上げる為に」
だから俺は、御縁の手を引いてやる。
「……はい、行きましょう。天文部を立ち上げましょう」
天文部の立ち上げる為に、生徒会室に向かった。これでやっと正式な部に――。
――そうはならなかった。
「――却下する」
オレンジの光が差し込む生徒会室で、天文部の設立申請書を眺めてそう言ったのはとある女子生徒。
他でもない生徒会長、色井編先輩だ。




