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転校生の天然寡黙系な大和撫子に構われる件  作者: わふ


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二話 部活動に構われる

 

「恭也君、部活動を見て回りたいです」


 数日経った日の放課後、また相変わらず無表情な御縁の提案が飛んでくる。


「何か部活に入りたいのか?」

「はい、部活動は学校生活に欠かせないものらしいので」


 その考えには同意だ。と言いつつ、一ヶ月以上経った現在、俺もまだ入部する部を決めかねているのが現状だが。


「良いよ。俺も何処に入部しようか迷っていたから」

「それは奇遇ですね。一緒に探しましょう。そして一緒の部活動に入部しましょう」


 一緒の部活に入部するかは分からないだろう。でもこいつと部活動探しをしたら、不思議とそうなるんじゃないかと思ってしまう。

 何せ、こいつは掴み所のない奴だからな。


「何処から行きましょう。運動部からでしょうか。文化部からでしょうか」

「そうだな。まぁあそこが良いだろ」


 即答した。俺自身が入部する可能性が万が一もない部活動だ。しかし、御縁に紹介するのならばおあつらえ向きの場所だ。


「まずは文化部棟に行こう」

「本校舎の隣にある別棟ですね」

「ああ、文字通り文化部から見て回る」


 渡り廊下を通って文化部棟の二階へ向かう。お目当ての部室はそこにある。


「恭也君、聞いた事のある声がします」


 文化部棟の階段を上っている最中、二階から聞き馴染みのある声が響いてくる。


「そりゃな。あいつが居る部活だから」


 階段を上り切り、その部室の前に着いた。


『――さぁ、このウェルギリウスが、地獄において貴方を導きましょう!』


 部室の中で台本を手にしてる部員達。その中にはあの沙夜の姿もある。


「おー、今日もやってんなぁ……」

「ここは、演劇部ですか?」

「そう。沙夜が入ってる部活だ」


 沙夜は今、演技の練習中だ。と言うか部全体で通しでやっているんだろう。


「終わるまで待ってようか」


 沙夜はその青く綺麗な髪を振り乱して、一生懸命演技に没入している。それを邪魔するのは流石に気が引ける。


「七瀬ちゃん、頑張っていますね」

「ああ、ちょっとかっこいいよな」


 引き戸の小窓から、沙夜が演技している姿を遠目に見ていた。


「練習してる演目の話聞いた事あるな。確か……地獄の話だっけか」

「ダンテの神曲ですね。地獄に迷い込んだ主人公ダンテが、案内人の手で天国へと遍歴して回るお話です」


 そうだ、確かそんな話だった気がする。


「詳しいんだな。沙夜は何役とか分かるのか?」

「多分ウェルギリウスですね。さっき言った、地獄の案内人です」

「へぇ、じゃあ結構重要な役なのか」


 一年生ながら主要人物の役に抜擢されるとは流石沙夜だ。演技をしている時は人が変わったみたいになるからな、こいつ。普段のおちゃらけた雰囲気は何処にもない。


「……真剣に取り組んでますね」

「まぁそれがあいつの唯一良い所だからな」


 前に言っていた。演技にだけには嘘をつけないと。こうやって必死にやっている事で、その言葉を体現しているんだろう。


「――あれ、どうしたのよ二人共」


 御縁と話していたら部室の扉が開き、額に汗が滲んでいる沙夜が出てきた。


「御縁が部活を見て回りたいって言い出してな。俺もちょうど何処かの部に入部したいと思ってたから、こうして見て回ってたんだ」


 と言ってもここが最初何だがな。


「あんたまだ決めてなかったもんね。口を開けば退屈とか何とか言う癖に」

「今後の高校生活を左右するかもしれない部活動をそんな簡単に決めれる訳ないだろ」

「そんな事言って、中学時代は三年間帰宅部だったじゃない。単に優柔不断なだけよ」


 ……痛い所を突いてくる。やっぱり嘘は苦手だ。

 実の所、沙夜が言った事が全てだったりする。


「そ、それより演技良かったぞ。なぁ御縁?」


 違う話題に逃げたい一心で、強引だが御縁に話を振る。


「はい、かっこよかったです。私も演劇部に入りたいと思いました」

「それは辞めといた方が良いんじゃない?」


 沙夜は間髪入れずに一蹴した。


「うん、同感だ」


 そして俺もすぐに頷いた。


「そうでしょうか」


 そりゃそうだ。現在進行形で鉄仮面ぶりを発揮してる御縁が、演劇部に入って何を成せると言うのか。恐らく答えられる奴は居ない。


「とにかく御縁にはもっと合ってる部活があると思うわ」


 無責任な発言に変わりないが、彼女を二つ返事で演劇部に入部させるよりかは何倍もマシだ。


「恭也君もそう思いますか?」

「こいつが珍しくまともな事を言ってる。ここは大人しく聞いた方が良い」

「分かりました。お二人がそう言うなら」


 例の如く沙夜には睨まれているが、何はともあれ御縁が納得してくれて良かった。


「っと、ごめん二人共。そろそろ練習再開するみたいだから」


 沙夜は部室内の様子を確認しながらそう言った。


「まぁとにかく、部活探し頑張りなさいな。どうしても見つからない時はうちに入れてあげるわよ?」

「要らねぇよ」


 演技するのは苦手だ。と言うか出来ない。すぐボロが出てしまう、さっきのように。


「そう答えると思ってたわ。じゃあね」


 沙夜は慌てた様子で扉を閉めて、練習へと戻った。

 それを機に俺達は部活回りを再開した。まずは文化部、そして運動部まで全て回った。

 うちの高校――私立翠玲(すいれい)高等学校は、無駄に部活数が多い。メジャーなものからマイナーなもの、良く分からないものまで様々。

 だから、御縁が気になる部活動が一つくらいあると思っていたが――。


「全滅かよ」


 部活動が多いと言う事は、見て回るのにかなりの時間を要す。

 疲れていた俺達は、オレンジ色に染まった空の下で中庭のベンチに座る。


「入りたい部活はなかったか……」

「はい。ふわーってくる部活動がなかったです」


 どんな擬音だよそれ。普通『ピーン』とかだろ。


「そうだよな、数は多くても訳の分からない部活が多いし。それに運動部全般がNGだったのが痛かったな……」


 本人曰く、運動は苦手だから出来れば文化部が良いとの事だった。一応運動部も回ったが、案の定と言った所だ。


「恭也君も入りたい部活動、見つかりませんでしたか?」

「見つからなかったな」

「私と一緒ですね」


 この際俺の入部するそれが決まらないのは良いとして、御縁本人は見つからないままじゃ嫌だろう。

 なのにその発言は如何なものか。またこいつの抜けてる部分が出てる。


「なので恭也君、私から提案があります」


 ああこれ、多分また抜けた事を言ってくる感じだ。


「何だ」


 だからベンチに深く座ってオレンジ色の空を仰ぎ、文字通り上の空で適当に返事をした。


「私と部活動を作りましょう」

「そうだな……」


 そして、また適当に――ん、今何を言ったんだこいつ。


「決まりですね」


 決まり。何が決まりなんだ。


「悪い御縁。ちゃんと聞いていなかった。もう一度言ってくれ」


 姿勢を直して、素直に聞き返す。


「私と部活動を作りましょう」

「――は?」


 部活動を作るだと。それはつまり、この学校にない新たな部活動を作ると言う事か。


「――その手があったか」


 そうだ。ないなら作れば良いんじゃないか。


「そうだよな、無ければ作れば良いんだよ。御縁にしては良い提案だ」

「はい、ありがとうございます」


 それに中々退屈し無さそうな提案じゃないか。新たに部活動を作るとなると、部員、顧問、そして部室を全て一から確保する必要がある。

 ……これは中々面白くなってきた。


「それで、作る部活動は何にするんだ?」

「……あ、まだ決めていませんでした」


 じゃあ何でそれを提案したんだよ……。


「どうやって決めれば良いんでしょうか」

「そんなのやりたい事で良いだろ」

「やりたい事……」

「そう。やりたい事だ。何かないのか?」


 御縁は下を向いて考え込んでいるようだ。

 さっきも言ったが、この学校は良く分からない部活動が多いから大抵は許可される。今から天然な御縁が提案する部活動も多分通るだろう。


「……星を見たいです」


 暫く考えて出した、彼女のやりたい事はそれだった。


「星? 天文部って事か?」


 思ったより普通なのが来た。てっきり、もっと素っ頓狂な、大食い部とかが出てくるかと思った。

 いや、大食い部はもう既にあったか。


「はい、天文部が良いです。それにしたいです……したいですが……」

「ん? どうしたんだ?」


 歯切れの悪い回答と、無表情な視線が飛んでくる。


「私のやりたい事はそれです。ですがそれは、恭也君のやりたい事ではない可能性があります。本当に私の案で良いんでしょうか?」


 御縁にしては真っ当な疑問だ。彼女からしたら、身勝手な要望を俺に押し付けているように感じているのかもしれない。

 ここは茶化す場面ではないよな。


「まぁ、ぶっちゃけると星にはあまり興味はない。でも、それがやりたくない理由にならないと思ってる。だからお前の提案で良い」

「ですが、あんなに恭也君は真剣に決めていたのに、こんな簡単に決めても大丈夫なんですか?」

「あー、あれは別にやりたいやりたくないで決めていた訳じゃない。退屈するかしないかで決めていた」


 そうだ。俺が部活に入ってなかったのは、単に優柔不断なだけ。いざ入部して退屈だったらどうしようと考えてしまう。

 要は思い切りが足りなかったんだ。


「興味がなくても、俺の中では退屈しない事=やりたい事なんだ。御縁の提案は退屈し無さそうだから乗る。それだけだ」


 そう言ったが、俺一人では敢えて天文部を選ぶ事はなかっただろう。部を立ち上げる事そのものに惹かれたのか、それとも……。


「そうですか。では私は、恭也君と星が見たいです。一緒に部活動を作ってください」

「ああ、作ろう。天文部を」


 こうして俺達は、新たな部活動を設立する事になった。


「でも、本格的なスタートは明日からだな」


 オレンジ色の空が暗くなってきている。


「はい、明日から作りましょう」


 そう言って、御縁はサムズアップする。


「それ、たまにやるけどハマってるのか?」

「はい、ハマってます。卵サンドの次くらいに好きです」


 毎日購買で買いに行かされてるから、かなり好きなんだろうな……。


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