返答は48時間以内。ただし、深層は待ってくれない⑤
二時間。
前回と同じ二時間。しかし、内容はまったく違った。
前回は俺一人のモグラ叩きだった。今回は六人の共同作業だった。
ノクスが干渉信号を消し、セラがエネルギーを外に逃がし、メルトが波を減速させ、ラグナが全力で走ってエネルギーを放出し、カイムが次の波のタイミングを教え、俺がNT-6200で抽出を回した。
波は計七回来た。一回目が最大で、以降は徐々に弱くなった。六回目以降は、ノクスの忘却だけでほぼ無力化できるレベルまで落ちた。
D-07の【虚構の設計者】が、諦めたのか、それとも温存に切り替えたのかは分からない。しかし、二時間後には圧力が完全に消えた。
最終的なエネルギー値。
<ノクス:103%(蓄積域・安定)>
<セラ:101%(蓄積域・安定)>
<メルト:96%(安全圏)>
<ラグナ:89%(安全圏)>
<カイム:99%(安全圏・ぎりぎり)>
前回は全員が蓄積域に留まるのがやっとだった。今回は三人が安全圏に入っている。ラグナに至っては89%。全力で走り続けた結果、過去最低値を更新した。
「ラグナ、止まっていいぞ」
通路の端で、ラグナが膝に手をつき、肩で息をしている。
「あたし……の……かち……」
「ラグナの勝ちです。89%。新記録」
「やった……あはは……」
笑った。床は揺れたが、微震程度。エネルギーが下がりすぎて、破壊力も落ちている。ラグナが安全な状態で笑っている。珍しい光景だ。
リビングに戻った。
ノクスがソファに座っていた。毛布はソファの横に丸められている。まだ被っていない。疲れているのか、立ったままの方が楽なのか。
「ノクス、大丈夫ですか」
「……つかれた。あんなに頭使ったの、たぶん初めて」
「忘却の波、すごかったです」
「すごくない。あたしの力のほんの一部。でも、下のやつの信号を消すのは、記憶を消すのとは違う。あいつのエネルギーは、あたしの忘却を『覚え直そう』とするから。消しても消しても書き直してくる。しつこい」
【虚構の設計者】の力は、ルールの書き換え。ノクスが忘却させても、書き換えて復元してくる。いたちごっこだが、ノクスのほうが一枚上手だった。
「……毛布」
「はい」
毛布を拾い上げ、ノクスに渡した。ノクスは毛布を被り、ソファに丸くなった。
「……チョコ」
「在庫ゼロです」
「……」
「来月まで待ってください」
「……いま、すぐ、ほしい」
在庫がないものは出せない。しかし、ノクスの声が今までになく弱い。干渉信号の消去が、相当な負担だったのだろう。
「……戸波さんに緊急配給を掛け合ってみます」
「……ん」
メルトがテーブルに座っていた。ノートを掲げた。
『声、出しすぎた。喉が氷みたいに冷たい。でも大丈夫。明日には治る。たぶん。』
「無理しないでください」
『無理はした。でも、今日は無理してよかった。みんなで戦えたから。』
セラが壁際で深呼吸していた。
「つかさ……空間の裂け目、全部閉じたよ。隣の区画には、ちょっとだけエネルギーが漏れたけど……」
「隣の区画の管理者さんに謝罪メッセージ送っておきます」
「ごめんねー……」
カイムがソファの端で微笑んでいた。両目とも紫。安定している。
「司くん。二時間、お疲れ様」
「お疲れ様です。カイムの早期警戒がなかったら、最初の波で全員やられてた」
「三秒しか見えなかったけどね」
「三秒あれば十分です」
「じゃあ、あと三秒分の予言。端末に何か届くよ」
端末が鳴った。




