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終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど
第一項:死なないこと

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返答は48時間以内。ただし、深層は待ってくれない④


 戦闘、と呼ぶのが正しいのか分からない。管理業務の延長なのか、生存行動なのか、それとも初めての「反撃」なのか。



 しかし、彼女たちは動いた。


 メルトが口を開いた。声が凍り、結晶が空中に散る。しかし今回は散りっぱなしにしない。凍結した声の結晶が、区画の空気全体に広がり、薄い氷の幕を形成していく。空気の粘度が上がる。エネルギーの流れが遅くなる。


 深層(アビス)から上がってくるエネルギーの波が、メルトの氷幕に触れて減速した。完全には止められない。しかし、到達速度が落ちた。



 セラが両手を広げた。壁が歪むのではなく、空間そのものが動く。区画の境界面に、薄い裂け目を開く。裂け目は攻撃ではなく、排気口だ。D-07から漏れてくるエネルギーの一部が、裂け目を通じて区画の外に逃がされる。



「ごめん、隣の区画にちょっと漏れるかも!」


「隣の区画の管理者(マネージャー)さんには後で謝ります!」


「ほんとに謝ってね!」



 謝罪案件を量産しながらの緊急対応。しかし、セラの排気が機能している。区画内のエネルギー密度が下がっている。


 ノクスが目を閉じた。金色の光が、彼女の周囲に広がる。



【忘却の波】――。



 記憶を消す力。しかし、今ノクスが消しているのは人間の記憶ではない。D-07からの干渉信号。エネルギーの波に含まれる「人型制御ヒューマンフォーム・プロトコルを揺らがせる情報」を、忘却の力で消去している。



 エネルギーそのものは消せない。しかし、エネルギーに乗っている「命令」は消せる。D-07の【虚構の設計者(アーキテクト)】が送ってくる「制御を崩せ」という指令を、ノクスが片っ端から忘却させている。



 指令のないエネルギーは、ただのエネルギーだ。人型制御ヒューマンフォーム・プロトコルを揺るがす力はない。蓄積はするが、制御は崩れない。



 蓄積したエネルギーは、俺が抽出(ドレイン)で吸う。



 ラグナが通路に飛び出した。全力疾走。六割制限なんて言っていられない。十割。通路の床が一歩ごとに砕ける。壁が振動し、天井が割れる。NT-6200の回収センサーが、ラグナの放出エネルギーを吸い上げていく。



 131%……125%……118%……。


 下がっている。速い。NT-6200の威力だ。ラグナの全力放出に追随できている。


 カイムが叫んだ。



「次の波、三秒後! 前のより大きい!」


「ノクス!」


「分かってる!」


 ノクスの忘却の波が強まった。金色の光が脈動する。


 波が来た。


 建物全体がぐわんと揺れた。空気が重くなる。壁が軋む。端末の数値が一斉に跳ねる――はずだった。


 跳ねなかった。


 ノクスの忘却が、波に含まれる干渉信号を消していた。セラの裂け目が、余剰エネルギーを外に逃がしていた。メルトの氷幕が、波の速度を落としていた。


 エネルギー値は微増した。しかし、前回のような一瞬で30ポイント跳ね上がるような暴力的な上昇はなかった。




<ノクス:118%→121%(+3)>

<セラ:115%→118%(+3)>

<メルト:109%→112%(+3)>

<ラグナ:118%→115%(放出中・下降)>

<カイム:112%→114%(+2)>




 +3。前回の波では+25以上食らっていた。それが+3に抑えられている。



「効いてる!」


「当然。あたしたちを舐めんな!」



 ノクスが目を開けた。金色の瞳が、床の下――深層(アビス)の方向を睨んでいる。



「聞こえてんでしょ、下のやつ。あたしたちは、あんたの好きなようにはならないよ」



 床の下から、何も返ってこなかった。しかし、空気の圧力が微かに変化した。押されていた圧力が、一瞬だけ緩んだ。


 驚いた――のかもしれない。D-07の【虚構の設計者(アーキテクト)】が、予想外の抵抗に。



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