返答は48時間以内。ただし、深層は待ってくれない②
午前の抽出を済ませた。NT-6200は快調。全員のエネルギー値を安全圏に収めて、昼休憩。
栄養ブロックを齧りながら端末を確認する。申し立ての進捗は「審議中」のステータス。動きなし。
メルトが昼食を一緒に食べに来た。いつもの光景。
無言で栄養ブロックを齧るメルトの横で、俺も無言で栄養ブロックを齧る。メルトの周囲は静かだ。音が減衰する空間。昼飯時のBGMがないのは味気ないが、この静けさには慣れた。むしろ心地いい。
メルトがノートに書いた。
『ねえ、つかさ。もし移管が決まったら、わたしのノート、次の管理者に引き継いでくれる? 読み取り速度のことも。』
「移管は決まってません」
『もしもの話。』
「もしもの話はしません。通します」
『……頑固だね。』
「頑固は褒め言葉です。この仕事では」
メルトが無表情のまま、ほんの少しだけ口角を上げた。笑顔と呼ぶには微かすぎるが、確かに動いた。
その時、端末が震えた。
メッセージではない。アラート。
<異常検知:深層層・封印区画D-07>
<封印強度の低下を検知。現在の封印強度:補修後+40%→+12%>
<エネルギー漏洩の再発リスクが上昇しています>
封印強度が40%から12%に低下。二週間前に氷室たちが補修したばかりなのに、もう三分の一以下に削られている。
「……」
メルトがノートを掲げた。
『どうしたの? 顔色変わった。』
「深層の封印が弱まってる。また来るかもしれない」
メルトのペンが止まった。
『前みたいなやつ?』
「分からない。でも備えたほうがいい」
栄養ブロックの残りを口に詰め込み、事務室に走った。
端末で戸波さんに連絡。
<D-07の封印強度が低下しています。+12%まで落ちてます>
返信。
<確認しました。上層部に報告します。深層対応専門部署に応援を要請しますが……>
「が?」
<前回の応援到着に2時間かかったのは、他の区画も同時対応だったからです。今回も同時に複数区画に影響が出たら、到着はもっと遅れる可能性があります>
もっと遅れる。二時間以上。前回は二時間のモグラ叩きでギリギリだった。あれ以上はきつい。
<あと、灰嶋くん。もう一つ悪い知らせが>
「何ですか」
<申し立ての審議中に漏洩が発生した場合、上層部は「やはり分散移管が必要」という結論に傾く可能性が高いです。D-07の影響で危険な状況が続いている、という事実が、分散移管を正当化する材料になる>
最悪だ。
D-07が漏洩すればするほど、分散移管の根拠が強まる。俺の申し立てが弱まる。
つまり、D-07の【虚構の設計者】にとって、今が最高のタイミングだ。漏洩を起こせば、上層部が勝手に彼女たちを引き離してくれる。引き離されれば、人型制御が不安定になる。不安定になれば、真の姿が解放されやすくなる。真の姿が解放されれば、D-07の封印を外側から破壊できる。
全部繋がっている。
あいつは、組織の意思決定プロセスまで利用している。
「戸波さん、もし今日漏洩が起きたら、俺の申し立ては却下されますか」
<……可能性は高いです>
「逆に、漏洩が起きても彼女たちを安全に管理できることを証明したら?」
<……理論的には、申し立ての補強材料になります。「分散しなくても対応できる」という実績になりますから>
やることは決まった。
漏洩が来るなら来い。来たら、また持たせる。前回は二時間持たせた。今回はNT-6200がある。前回の三倍の効率。
前回と同じことをする気はない。前回より上手くやる。




