返答は48時間以内。ただし、深層は待ってくれない①
申し立てを送信してから、十二時間。
返答はまだない。48時間以内と言われたので、残り36時間。一日半。待つしかない。
待つしかないのだが、待っている間にも日常は回る。抽出は毎日やらなきゃいけないし、エネルギー値のモニタリングも、巡回も、日報も、全部いつも通りだ。
退職届を出す時は臨界点三回生き残れと言うくせに、組織の決定には黙って従えと言う。都合のいい話だ。
朝の巡回。
ノクスの部屋。
「ノクス、生存確認です」
「……いきてる。ここにいたい」
生存確認に感情が乗るようになった。昨日の通達が効いている。
「まだ何も決まってません。俺が止めます」
「……うん」
返事が素直だ。普段なら「べつに」が先に来るのに。ノクスなりに不安なのだろう。チョコを渡す。今月分の一個。ノクスは銀紙を丁寧に剥き、チョコを口に入れ、銀紙の裏に何かを書いた。
覚えていたいものリスト。今日の日付と、たぶん、俺の名前。
セラの部屋。
「つかさ、おはよ。……進展あった?」
「まだです。48時間以内に返答が来ます」
「48時間って、二日?」
「二日です」
「長い……」
「長いですけど、待つしかないです」
「あたしにできることは?」
「壁にひびを入れないでいてくれると助かります。修繕費が増えると、分散移管の口実が増えるので」
「がんばる! 今日はひび入れない!」
セラの目が燃えている。ひびを入れない決意が固い。しかし、笑顔で固く決意する行為自体が、空間を歪ませる原因になり得る。笑顔の自己矛盾。セラの日常だ。
メルトの部屋。ノートが出てきた。
『おはよう。申し立て、出したんだね。検索ログで見た。』
またログを見ている。メルトの情報収集能力は管理者を上回っている。
「出しました」
『通るといいね。でも、通らなかったとしても、わたしはつかさの管理者がいい。他の人だとノートを読むのが遅いかもしれない。』
「ノートの読み取り速度が管理者の評価基準なんですか」
『わたしにとっては、そう。声がないから。読んでくれる速さが、聞いてくれる速さだから。』
返す言葉が見つからなかった。代わりに、ノートの残り冊数を確認した。七冊。当面は大丈夫だ。
ラグナの部屋。
「つかさ! 今日走れる日?」
「三日前に走ったので、今日は休み」
「えー! 走りたい!」
「明日走りましょう」
「やくそく?」
「約束」
「あと、バラバラになるやつ、なくなった?」
「まだです。止めてる最中」
「止まる?」
「止めます」
「やくそく?」
「約束」
約束が二つ。明日走ることと、バラバラにならないこと。重さが全然違う約束を同じ「やくそく?」で訊いてくるのが、ラグナだ。
カイムの部屋。
「おはよう、司くん」
「カイム、何か見えてますか」
「今日は何も見えない。時間が一本道」
「申し立ての結果は?」
「それも見えない。見えないのは、まだ決まってないからだと思う。未来が確定してないと、わたしの目には映らないの」
「つまり、まだ変えられるということですか」
「うん。たぶん」
まだ変えられる。希望と言うには頼りないが、絶望と言うには明るすぎる。




