上が決めて、下が壊れる。いつものことだが、今回は壊させない⑥
リビングスペースに全員を集めた。
ノクスがソファ。セラが壁際。メルトがテーブル。ラグナがNT-6200の椅子から離れたくないと言い張ったので引きずってきた。カイムがソファの端。
五人の視線が俺に集まる。
「話があります」
空気が変わった。俺の声のトーンで、全員が何か重大なことだと察したらしい。ノクスの毛布が止まり、セラの笑顔が消え、メルトのペンが止まり、ラグナが黙り、カイムの目が今だけを見た。
「上層部から通達が来ました。五人を、この区画から別々の区画に移すことが決まりました」
シーンと、重たい沈黙が流れた。
「移管先は第一区画と第二区画。深層の影響範囲外。移管日は六日後の月曜日。俺は再配置で、この区画は閉鎖されます」
沈黙が続いた。
最初に口を開いたのは、ノクスだった。
「……別々って、あたしたちがバラバラになるってこと?」
「はい」
「つかさは?」
「俺も、たぶん、違う場所に異動になります」
「……」
ノクスが毛布を握りしめた。
「やだ」
小さな声だった。
「やだ。ここがいい。ここに、つかさがいるのがいい」
セラが一歩前に出た。
「つかさ、それ、止められないの?」
「止めるために動きます。緊急異議申し立てという制度があります。今日中に提出します」
「通るの?」
「分かりません。でも、やらないよりはましです」
メルトがノートを掲げた。
『つかさ。わたしたちにできることは?』
「今まで通りにしていてください。エネルギーを安定させて、日常を維持してくれれば、それが一番の根拠になります」
ラグナが俺の手を掴んだ。
「つかさ、あたしたちバラバラにならないよね?」
「ならないようにします」
「やくそく?」
約束。根拠のない約束。前にもした。ラグナが泣いている時に「なんとかするから」と言った。あの時も根拠はなかった。でも、なんとかなった。
「約束」
ラグナが頷いた。目が潤んでいるが、泣いてはいない。泣いたら地割れが起きるから我慢しているのか、それとも俺の約束を信じているから泣かないのか。
カイムが静かに言った。
「司くん」
「はい」
「この未来、わたしには見えてたよ」
「……知ってました」
「知ってたの?」
「カイムが『そんなに遠くない未来で、司くんがすごく真剣な顔をしてる』と言ったのは、これのことだったんだろうなと」
「うん。でもね、その先の未来も見えてる」
「それは……何が見える?」
「司くんが、端末に何かを打ってる。すごく長い文章。たぶん、申立書」
「それで?」
「それで、送信ボタンを押す。押した後の司くんの顔は――」
カイムが微笑んだ。
「笑ってた」
笑っている未来。送信した後に笑っている。それが、結果がどうであれ司が納得しているということなのか、それとも申し立てが通ったということなのかは分からない。
でも、笑っている未来があるなら、それでいい。
「書きます。今から」




