表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど
第一項:死なないこと

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/169

午前九時、地下117階の管理棟に、地獄が出勤してきた⑦


 ラグナを抽出(ドレイン)室に連れて行き、椅子に座らせた。NT-3500を起動する。


 117%……114%……111%……108%……。


 今回は三分ではなく、五分かけた。ラグナの数値が108%まで下がったところで、装置を止める。安全圏には届かないが、危険域からは遠ざかった。



「ラグナ、あとでまた走ろう。今は休んでてくれ」


「うん」



 ラグナの影を確認する。少女の形だ。紋様も消えている。第二形態の兆候は収まった。


 メルトからテキスト。



<ノクス、113%。セラ、110%。上がり方が早くなってる。>



 共鳴現象が加速している。深層(アビス)からの圧力が、時間と共に強まっている。モグラ叩きのモグラが、だんだん速くなるやつだ。ゲームセンターの難易度が上がっていくのと同じだが、こっちのコインは命だ。



 三巡目の続き。ノクスから。



 抽出(ドレイン)室に入ると、ノクスは既に椅子に座っていた。毛布を被ったまま。



「来ると思った」


「分かってたなら、座っててくれて助かります」


「……あたしの影、見た?」


「見ました」


「あたしの影、あたしの形じゃなかったでしょ」


「はい」


「怖かった?」


「怖かったです」


「……でも来た」


「来ました」



 ノクスは毛布の中で何か小さく呟いた。聞き取れなかった。聞き返そうとしたが、装置を起動するほうが先だ。



 113%……110%……107%。三分、6ポイント。



 次、セラ。110%……107%……104%。三分、6ポイント。



「つかさ」


「はい」


「あたしの影、さっきからときどき裂け目の形になるの。自分でも見えてる。怖い……けど、大丈夫。つかさがいるから」


「いますよ。ずっと」



 セラが小さく笑った。壁にはひびが入らなかった。笑顔の質が変わっている。安心の笑顔だ。空間を歪ませるのは興奮の笑顔で、安心の笑顔は歪みを生まない。



 次、メルト。101%……99%……97%。安全圏。メルトは安定している。


 メルトがノートを掲げた。



『カイム、さっきからずっと目を閉じてる。大丈夫?』



「確認する。――カイム!」



 リビングのカイムに声をかける。


 カイムが目を開けた。


 瞳の色が違った。


 普段の紫ではなく、右目が紫で、左目が銀色だった。



「「……あ、司くん。ごめん、ちょっと、時間が」」


 声が二重に聞こえた。今のカイムの声と、三秒前のカイムの声が重なっている。



「カイム、大丈夫か」


「「大丈夫……っていうのは、たぶん嘘。今、わたし、ちょっとだけ二人いる」」


「二人?」


「「今のわたしと、五分後のわたし。五分後のわたしが、今のわたしの中に入ってきてる。二つの時間が重なってるの」」



 人型制御ヒューマンフォーム・プロトコルの綻び。カイムの能力は時間に関わるものだ。制御が揺らげば、時間の境界が曖昧になる。



抽出(ドレイン)する。座ってくれ」


「「うん。でも、五分後のわたしが言ってるの。『抽出の途中で、装置がおかしくなる』って」」


「おかしくなる?」


「「分からない。五分後のわたしは、もうそれが起きた後だから。でも、装置は壊れない。たぶん。壊れてたら五分後のわたしが泣いてるはずだけど、泣いてないから」」



 五分後の自分が泣いてないからたぶん大丈夫、という推論。カイム独自の安全確認法だ。正直、根拠としてはかなり不安だが、他に判断材料がない。



 カイムを椅子に座らせ、装置を起動する。


 108%……106%……104%――


 装置がガタッと揺れた。


 画面にエラーが表示される。



<NT-3500 エラー:時間軸同期異常>

抽出(ドレイン)対象のエネルギーに時間的揺らぎを検知>

<再校正中……>



 カイムのエネルギーが「時間的に揺らいでいる」ため、装置が正確に抽出(ドレイン)できていない。今のエネルギーと三秒前のエネルギーが混在している。



 五秒後、再校正完了。抽出(ドレイン)再開。


 104%……102%……100%。ぎりぎり安全圏上限。



「カイム、大丈夫?」


「うん。五分後のわたしが消えた。今は一人」


 瞳の色を確認する。両目とも紫。戻っている。


「司くん」


「はい」


「あと四十分くらいだよ」


「応援?」


「うん。あと四十分で、誰かが来る。それまで持たせて」


 四十分。


 戸波さんは二時間と言っていた。既に一時間二十分が経過している。残り四十分。


 四十分間、五人のエネルギーを危険域に入れさせなければ、助けが来る。



「持たせます」


「知ってる。持たせられるよ、司くんなら」


 予言ではなく、信頼の声だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ