表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど
第一項:死なないこと

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/169

午前九時、地下117階の管理棟に、地獄が出勤してきた⑧


 四巡目。五巡目。六巡目。


 回し続けた。



 ラグナ→ノクス→セラ→メルト→カイム。三分ずつ。一巡18分。回すたびに全員のエネルギーを数ポイントずつ削り、共鳴現象の上昇分と相殺する。



 モグラ叩き。終わらないモグラ叩き。ハンマーはゴム製で、モグラは加速し続けている。


 しかし、叩き続けた。


 六巡目が終わった時点で、経過時間は一時間五十分。


 全員のエネルギー値。



<ノクス:109%(蓄積域)>


<セラ:106%(蓄積域)>


<メルト:100%(安全圏上限)>


<ラグナ:112%(蓄積域)>


<カイム:105%(蓄積域)>



 安全圏には入っていない。しかし、誰も危険域には入っていない。120%の警戒域にすら達していない。


 ギリギリだが、抑えている。


 腕が痺れていた。抽出(ドレイン)装置の操作パネルを叩き続けた指が、感覚を失いかけている。防護スーツの中は汗だくで、非常灯の薄緑色の光の中を走り回った足が棒のようだ。



 あと、たぶん十分。カイムが言った四十分の残りが、あと十分。


 端末が鳴った。


 戸波さんから。



<灰嶋くん、応援部隊が到着しました。今からそちらに向かいます。>



 来た。


 来てくれた。


「…………」


 力が抜けた。文字通り、膝から崩れそうになった。抽出(ドレイン)室の壁に手をついて、身体を支える。


 二時間。


 二時間の間、一人で五人の変位個体(ディスプレイスド)のエネルギーを回し続けた。40年物の骨董品の装置で。ゴム製のハンマーで。


 カイムがリビングから声を出した。



「司くん! おつかれさま!」


 セラが走ってきた。廊下の壁がたわんだが、誰も気にしなかった。


「つかさ! 大丈夫!? 顔色悪いよ!」


「大丈夫です。ちょっと疲れただけです」


 メルトがノートを掲げた。



『つかさ、座って。水、持ってくる。』


 ラグナが走ってきた。床が揺れた。


「つかさ! つかれた!? あたしがマッサージしてあげる!」


「ラグナのマッサージは骨が折れる可能性があるのでやめてください」


「えー!」


 ノクスが毛布の中から声を出した。


「……つかさ、おつかれ」


 五人の声が、非常灯の薄緑色の光の中に響いた。


 世界を消す魔王と、現実を裂く勇者と、沈黙の魔女と、破壊の獣と、時間の境界の魔法少女。


 おぞましい力の持ち主たち。人型制御ヒューマンフォーム・プロトコルの檻の中で、少女の姿を保っている存在たち。



 でも今、俺の前にいるのは、ただの五人の女の子だ。


 疲れた管理者(マネージャー)を心配して、水を持ってきてくれる子たちだ。



 隔壁扉の向こうから、足音が聞こえた。応援部隊が到着する。


 端末に業務日誌を入力した。



<業務日誌 50億2025年5月2日 灰嶋司>


<本日の業務内容:深層(アビス)大規模漏洩に伴う緊急抽出(ドレイン)対応>


<対応内容:全5体の変位個体(ディスプレイスド)に対し、予備装置NT-3500を用いた巡回式抽出(ドレイン)を6巡実施。全個体のエネルギー値を蓄積域内に維持し、危険域への突入を阻止。>


<応援部隊到着まで2時間、単独で対応。>


<被害:通路照明1個破損、床ひび割れ3箇所、壁タイルずれ3枚、ドア認証パネル故障(停電に伴うもの)、チョコレート先行支給2個(来月分より前借り)>


<所感:モグラ叩きの才能があるかもしれない>


 自動返信。



<お疲れ様でした。退職届の提出に必要な臨界点クリティカル・ポイント生存実績は1/3のままです(本件は臨界点未到達のため加算されません)。>



 臨界点クリティカル・ポイントに到達してないから実績にならないのか。



 二時間の地獄を生き延びたのに、実績加算なし。


 人類最後のブラック企業は、今日も通常運転だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ