午前九時、地下117階の管理棟に、地獄が出勤してきた③
優先順位を考える。
五人のエネルギー値は全員上昇中。しかし、上昇速度には差がある。
ラグナが最速。118%で、まだ上がり続けている。放っておけば一時間で150%の危険域に入る可能性がある。
次にノクスの112%。普段の蓄積速度は遅いはずだが、今は共鳴現象で加速している。
セラが109%。メルトが105%。カイムが103%。
ラグナを最優先で抽出し、次にノクス、その後セラ。メルトとカイムは比較的余裕がある。
しかし、抽出装置が一台しかない。予備機のNT-3500。一人を抽出している間、残りの四人のエネルギーは上がり続ける。
前回の臨界点ではラグナ一人を集中的に対処すればよかった。今回は五人全員が同時に上がっている。一人を下げている間に、別の誰かが危険域に入るかもしれない。
回転率で勝負するしかない。
「みんな、聞いてくれ」
五人の視線が集まる。怯えた目、不安な目、無表情の目、震える目、穏やかな目。五種類の感情が、俺を見ている。
「深層から、でかいのが来てる。そのせいで全員のエネルギーが上がってる。今から順番に抽出をする。一人あたり短時間で切り上げて、ローテーションで回す。全員の数値を危険域に入れさせないように、少しずつ下げていく」
「……めんどい」
ノクスが毛布の中から言った。
「めんどくても命に関わるので」
「あたしの命?」
「俺の命です」
「……ふーん。じゃ、しょうがないね」
俺の命のためにしょうがなく協力する【忘却の魔王】。動機はともかく、協力は得られた。
「セラ」
「うん」
「抽出室まで行けるか?」
「行ける。でも――」
セラが腕を解いた。その瞬間、壁の波打ちが強くなった。
「ごめん。抑えてるんだけど、ちょっとしんどい。あたしが歩くと、たぶん廊下がぐにゃってなる」
「ぐにゃってなるくらいなら大丈夫です。ひっくり返らなければ」
「ひっくり返りはしない、たぶん」
「たぶん」が怖いが、選択肢はない。
「メルト」
テーブルの下から、ノートが差し出された。
『大丈夫。動ける。でも、周りの空気がちょっと凍ってるから、わたしのそばに来ると寒いかも。』
「寒いのは我慢します。……ラグナ」
ラグナは膝を抱えたまま、俺を見上げた。
「……つかさ、またぐるぐるする」
「分かってる。だから、お前が最初だ。走ろう」
「走るの?」
「走る。前と同じだ」
ラグナの目に、恐怖と希望が同居している。前回の臨界点を一緒に走り抜けた記憶が、まだ残っている。
「……うん」
「カイム」
「はいはい」
「全体の状況を見ていてくれ。誰かのエネルギーが急上昇したら、すぐ教えて」
「了解。三秒後の未来しか見えないけど、三秒あれば叫べるから」
三秒の未来予知。最強の早期警戒システムだ。精度がカレーの有無レベルでないことを祈る。




