平穏は前借り。利息は割増で請求される⑥
深夜。自室。
眠れなかった。
臨界点前夜と同じ感覚。何かが近づいている、という肌感覚。
端末を開き、過去の深層漏洩記録を改めて読み返す。閲覧可能な範囲だけだが、それでも傾向は見えた。
D-07の漏洩は、過去三回。
一回目:50億2018年(七年前)
二回目:50億2024年11月(五ヶ月前)
三回目:50億2025年4月21日(一週間前)
間隔が短くなっている。七年、五ヶ月、一週間。
次の漏洩は、もしかしたら、来週どころではないかもしれない。
カイムは「来週、たぶん、また何かある」と言った。
たぶん、というのが引っかかる。カイムの「たぶん」は、確実に何かが起きる、という意味だ。曖昧な精度ではなく、起きる時刻にゆらぎがあるだけだ。
来週。月曜から日曜のどこか。
それまでに、できる準備はしておく。
抽出装置は月曜から予備機。性能低下。
ガムテープは三本ストック。新品の防護スーツも一着支給済み。
チョコは月初に三個。来月分はまだ届いていない。今は在庫ゼロ。
メルトのノートは九冊。
ラグナの抽出ペースは現状維持。
準備、というほどのものではない。これでもう、できる範囲は終わっている。
あとは、いつも通りやるだけだ。
第十二項。
いつも通りやること。下から何が来ても。
目を閉じた。
眠ろうとした。眠れなかった。
しかし、目を閉じている間にも、明日は来る。
明日が来れば、次の抽出がある。
ノクスがチョコを要求する。
セラがつまらない話を求める。
メルトがノートを差し出す。
ラグナが走る。
カイムが微笑む。
それが俺の日常で、それが俺の戦場だ。
50億2025年。太陽の死から100年後の地球。
地下117階のブラック企業で、5人の変位個体と暮らす日常。
今夜は眠れない。
でも、明日になれば、また走る。




