平穏は前借り。利息は割増で請求される③
午後。セラの抽出。
106%から始まる。いつものペース。
「今日のつまらない話は何ですか」
「査察ボーナスが50ポイントだった話」
「やったじゃん!」
「労働の対価としては安すぎますが」
「でも50ポイントもらえたんでしょ? すごいよ!」
基準が低すぎる。配給ポイント生活が長いと、50ポイントが大金に見えるらしい。
102%……98%……。
「セラ」
「ん?」
「先日、夢の話をしましたよね。草原と、裂け目の」
「うん」
「あの夢、また見ましたか」
「ううん。最近は見てない。査察の日からあとは、見てないかも」
深層からの干渉が、一時的に弱まっている。先日の重力異常から十日近く、目立った漏洩は起きていない。封印は再び安定したのかもしれない――というのが、戸波さんの見立てだった。
たぶん、楽観的すぎる見立てだ。
「セラ」
「ん?」
「セラ自身は、自分の力のこと、どこまで知っていますか」
94%……。
セラの表情が、少しだけ静かになった。
「……あたしは、ぜんぶ覚えてるわけじゃないよ。ここに来る前のことも、本当の力のことも。でも、なんとなくは知ってる」
「なんとなく?」
「あたしの本当の力は、空間にひびを入れることじゃなくて、空間そのものを『裂く』ことだって。本当の意味で。あと、わたしが裂いたものは、たぶん、戻らない」
戻らない。
「だから、ここでひびを入れるくらいでちょうど良いの。直せるから。本当の力で裂いたら、直す人もいなくなっちゃうから」
91%。安全圏。
「セラ」
「ん?」
「ここではひびを入れてもいいです。何枚でも、修繕依頼書きます」
「……つかさは、本当に、修繕依頼が好きだね」
「好きじゃないです。書類は嫌いです」
「でも、書いてくれる」
「書きます」
セラが笑った。
壁に微かなひびが入った。修繕依頼32万1件目、というカウンターが頭の中に立った。




