平穏は前借り。利息は割増で請求される②
午前の抽出。今日はノクスから始める。
抽出室。ノクスは椅子に座っている。今日も毛布を持ち込んでいる。
「ノクス、始めますよ」
「……ん」
装置を起動する。エネルギー値は104%。安全圏まで下げる、いつもの作業。
104%……101%……98%……。
順調に下がる。ノクスは目を閉じている。
「ノクス」
「……なに」
「来月のチョコ、月初に三個まとめて渡しますか? それとも分割?」
「……まとめて」
「分割のほうが長く楽しめますよ」
「あたしを子供扱いしないで」
大きい子供の発言だが、置いておく。
「分かりました。月初にまとめて」
「……ありがと」
94%……91%……88%。安全圏。
「終わりです」
ノクスは目を閉じたまま。
しかし、毛布の中で何かがもぞもぞと動いた。
「……ね」
「はい」
「あんた、最近よくあたしの顔を見るね」
「……」
ばれていた。気づかないふりをしているつもりだったが、無駄だった。【忘却の魔王】の観察力を舐めていた。
「正直に言いますか?」
「うん」
「ノクスの瞼の裏に、一瞬だけ別の色が見えた気がしました。少し前に」
「……ふーん」
「気のせいかもしれません」
「気のせいじゃないと思うよ」
ノクスが薄目を開けた。金色の瞳。今は、いつもの色。
「あたしの中、ときどき揺れるの。下から呼ばれてるみたいに。そういう時、たぶん、外にも漏れてる」
「ノクスは、自分の本来の姿を知ってるんですか」
「知ってる」
「……」
「べつに、隠してたわけじゃないよ。訊かれなかったから言わなかっただけ」
訊かれなかったから言わなかった。それは、確かに、隠していたわけではない。
「ノクスは、自分のことが怖いですか」
「怖くない。あたしだから」
「俺は、ノクスのこと、怖いです」
「うん。知ってる」
「でも、ノクスの管理者は続けます」
「うん。それも知ってる」
ノクスは目を閉じた。
「……あんたが怖がりながらここにいるの、悪くない」
悪くない、というノクスの最大級の褒め言葉だ。たぶん。




