知らなかったのは俺だけで、知らされていなかったのも俺だけだった⑤
カイムの部屋。
「おはよう、司くん。今日、戸波さんに色々聞いたでしょ」
もう知っている。未来を見ているのか、それとも単に察しがいいのか。
「聞きました」
「そっか。どうだった?」
「怖かったです」
「だろうね」
カイムは微笑んだ。いつもの穏やかな微笑み。
「わたしのことも聞いた?」
「はい。カイムとノクスは、本来は深層級だと」
「うん。そうだよ」
あっさり認めた。
「わたしの本当の姿はね、全部の時間に同時にいるの。過去も未来も、今も。全部重なってる。人型制御が、わたしを『今』だけに固定してくれてる。だから、こうして司くんと話せる」
「固定されていないと?」
「司くんの昨日と今日と明日が全部同時に見えて、わたし自身の昨日と今日と明日も全部同時に存在して、区別がつかなくなる。時間って、順番に流れてるから意味があるんだよ。順番がなくなったら、何もかも意味がなくなる」
因果律の崩壊。原因と結果が区別できなくなる。
「……怖い話ですね」
「でしょ? だから、わたし、ここが好きなの。人型制御があるから、わたしは『今この瞬間』に司くんと話せる。明日の司くんじゃなくて、今の司くんと。それって、すごいことだと思わない?」
「すごいかどうかは分かりませんが、ありがたいことだとは思います」
「ありがたい?」
「カイムが今ここにいてくれるのは、ありがたいです。未来を教えてくれるし、カレーの予言も当たるし」
「あはは。わたしの価値、カレーの予言なんだ」
「カレーの予言は大事です。配給品の栄養ブロック生活の中では」
カイムが笑った。穏やかに、今この瞬間だけを見て笑った。
「ねえ、司くん」
「はい」
「今日、いいことがあるって言ったの覚えてる?」
「覚えてます。カイムが言ったんですから」
「うん。もうすぐだよ」
「何ですか?」
「んー。言っちゃうとつまんないんだけど……」
カイムが人差し指を立てた。
「司くんに届くものがあるよ。端末に。もう少ししたら」




