知らなかったのは俺だけで、知らされていなかったのも俺だけだった④
ラグナの部屋。
「つかさ! 今日走っていい!?」
「いいですよ。ただし六割出力で」
「はーい!」
いつもの元気。いつもの笑顔。
走り出す前に、ラグナの影を確認した。普通の少女の影。昨日の四足の獣は見えない。
「ラグナ」
「なに?」
「お前は、自分の力のこと、どのくらい知ってる?」
唐突な質問だった。ラグナは首を傾げた。
「んー。走ったら壊れるとか、笑ったら揺れるとか。それくらい」
「それ以上のことは?」
「……なんかね、ときどき、自分の中にもう一個べつのやつがいる感じがする。ぐるぐるするやつ。あれが出てくると、あたし、あたしじゃなくなっちゃう気がする」
臨界点の前に言っていた「なかのやつ」。
「でもね、つかさ」
「ん?」
「つかさが一緒にいると、そのぐるぐるがおとなしくなるの。なんでか分かんないけど」
感情の安定。戸波さんが言っていた「人型制御は個体の精神状態と連動する」。ラグナの感情が安定していれば、内なる力も安定する。
「だからね、つかさ、ずっとここにいてね」
「……善処します」
「善処じゃなくて確約して。ノクスみたいなこと言う」
「いますよ。ここに」
「やくそく?」
「約束」
ラグナが笑った。床が少しだけ揺れた。
【破壊の結晶獣】。感情を結晶化し、万物を砕く獣。
今は、約束で笑う女の子だ。




