影の形が、少女のそれではなかった①
査察から三日後。四月二十七日。木曜日。
正式な評価はまだ届いていない。届いていないということは、即時閉鎖ではないということだ。たぶん。この組織の「後日通知」が何営業日を指すのかは不明だが、今日を生きている以上は、今日の仕事をするしかない。
朝の巡回。エネルギー値は全員安全圏。平穏だ。
しかし、一つだけ気になることがあった。
ラグナの部屋を出て廊下を歩いていた時だ。蛍光灯の下を通った瞬間、ラグナの部屋のドアに映った影が目に入った。
俺の影だ。普通の、人間の影。
しかし、その横に――ドアの隙間から漏れる光に照らされた、もう一つの影があった。
ラグナの影。
部屋の中で座っているはずのラグナの影が、ドアの下の隙間からわずかに漏れている。
それは、少女の形をしていなかった。
四つの脚。低い体勢。背中から突き出た、結晶のような突起。
一瞬だった。目を凝らした時には、影は普通の少女の輪郭に戻っていた。座って膝を抱えている、いつものラグナの影。
「……」
見間違いだろうか。蛍光灯のちらつきと、ドアの隙間の角度が作った、ただの錯覚。
端末を確認する。ラグナのエネルギー値は94%。安全圏のど真ん中。異常値はない。
見間違いだ。そういうことにしておく。
しかし、足が少しだけ早くなった。事務室に戻る足が。
午前の抽出。ノクスの番。
いつも通り、椅子に座らせ、装置を起動する。103%から安全圏の90%を目指して下げていく。
ノクスは目を閉じている。いつもの寝顔。
103%……100%……97%……。
順調だ。いつも通りだ。
しかし、ふとノクスの顔を見た時、違和感を覚えた。
目を閉じたノクスの瞳の裏――薄い瞼の上に、何かが透けて見えた気がした。金色ではない色。もっと暗い、底のない黒。深い穴を覗き込んだような、吸い込まれそうな黒。
瞬きをした。消えていた。ノクスの瞼は、薄い皮膚の下に金色の瞳があるだけの、普通の少女の顔だった。
95%……92%……90%。完了。
「終わりです」
「……ん」
ノクスが薄目を開けた。金色の瞳。いつもの色。
「チョコ」
「来月まで待ってください」
「……」
いつもの不満顔。いつものノクス。
気のせいだ。たぶん。




