影の形が、少女のそれではなかった②
昼休憩。メルトと事務室で食事をしていた。
メルトが栄養ブロックを齧りながら、ノートに何か書いている。いつもの光景。
ふと、メルトの手元を見た。
ノートに書かれた文字の下に、影が落ちている。メルトの手の影。ペンを持つ細い指の影。
その影が、一瞬だけ、凍った。
影そのものが凍ったのではない。影の輪郭が、微かに結晶化したように見えた。メルトの指の影の縁に、うっすらと霜が降りたような白い線が走った。
目を凝らす。消えている。普通の影だ。
「メルト」
メルトが顔を上げた。
「今、何か感じましたか」
メルトはしばらく俺の顔を見てから、ノートに書いた。
『何も。どうしたの?』
「いえ、何でもないです」
何でもないはずだ。影が凍るわけがない。メルトの能力は音を凍結させるもので、影には関係ない。
しかし。
メルトが書いたノートの文字を見て、俺は気づいた。
メルトが書いた「何も」の文字の周囲に、インクが微かに滲んでいた。滲みというより、文字から放射状に細い線が広がっている。まるで、文字そのものが凍結して、ひびが入ったような。
メルトは気づいていない。あるいは、気づいているが言わないのか。
ページをめくった。新しいページに、新しい文字を書き始める。今度は普通だった。インクの滲みもない。
……俺は最近、見間違いが多い。臨界点の疲れがまだ残っているのかもしれない。




