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終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど
第一項:死なないこと

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査察官は数字しか見ない。しかし、数字に載らないものもある⑤


 昼。


 配給品の昼食パックを開けようとしたら、いつもと違うものが入っていた。


 レトルトカレー。



「…………」


 カレーだ。ちゃんとしたカレーかは分からないが、栄養ブロックではなく、カレーが入っている。パッケージには「特別配給・月次査察実施区画向け」と印字されていた。


 査察のある区画には、特別配給でカレーが出るらしい。


 カイムの予言が当たった。


 リビングに行くと、全員がカレーのパックを手にしていた。



「つかさ! カレーだよ! カレー!」


 ラグナが跳ねている。床が揺れるが、今日は許す。カレーだから。


 セラが嬉しそうに笑っている。空間が歪んでいるが、今日は許す。カレーだから。


 メルトがノートを掲げた。



『カレー。はじめて見た。おいしいの?』


「食べてみてください」



 ノクスですら毛布から出てきた。カレーの力は偉大だ。


 全員でテーブルにつき、レトルトカレーを温めて食べた。


 味は、まあ、レトルトだ。しかし栄養ブロックしか知らない彼女たちにとっては、革命的な食事だったらしい。



「おいしい!!」


 ラグナが叫んだ。テーブルが振動した。皿がかたかた鳴った。


「おいしいね!」


 セラが笑った。スプーンが微かにたわんだ。空間歪曲でスプーンが曲がっている。


 メルトは無言で――もちろん無言で、もぐもぐと食べていた。ノートに一行だけ書いた。


『おいしい。』



 シンプルだが、メルトにしては最大級の賛辞だ。


 ノクスはカレーを三口食べて、言った。



「……チョコのほうがいい」


 この子は本当にブレないな。


 カイムは微笑みながら食べていた。


「ね、言ったでしょ? カレー、出るって」


「当たりましたね」


「査察のたびに出るなら、査察も悪くないかも」


 査察の価値をカレーで測るな。


 しかし、テーブルを囲んで同じものを食べる光景は、なんだか家族みたいだった。壊滅的に危険な家族だが。笑えば壁が割れ、声を出せば空気が凍り、不機嫌になれば記憶が消える家族。


 でも、カレーを食べて「おいしい」と言う彼女たちは、ただの女の子だった。


 榊原さんにも見せてやりたかった。数字に載らない、この子たちの価値を。



 ◇◇◇




 夕方。事務室。


 端末に業務日誌を入力した。




<業務日誌 50億2025年4月24日 灰嶋司>

<本日の業務内容:品質管理部査察対応>

<査察結果:正式評価は後日通知。閉鎖勧告の可能性あり。>

<特記事項:カイムの予言によりカレーの配給を事前に予知していたが、査察には活用できず。>

<所感:数字に載らないものを、どう守ればいいのか分からない。でも、守る。>



 自動返信。



<査察対応お疲れ様でした。なお、特別配給のカレーは査察実施区画への慰労品です。次回の配給は未定です。>



 次回未定。カレーは一期一会。


 まあいい。


 区画が閉鎖されなければ、またいつか食べられるだろう。


 閉鎖されなければ。



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