査察官は数字しか見ない。しかし、数字に載らないものもある①
四月二十四日。月曜日。
査察当日。
朝から掃除をした。
事務室の書類を整理し、デスクの上を片付け、前任者のマグカップを棚にしまった。壁に貼ったメモ(『ラグナには近づくな』のやつ)も剥がそうかと思ったが、管理者として先人の教訓を廃棄するのもどうかと思い、引き出しに入れた。
収容エリアも確認した。リビングスペースのテーブルを拭き、ソファのクッションを並べ直し、キッチンの流しを洗った。
「つかさ、なんか今日きれいにしてるね」
セラが不思議そうに言った。
「今日、偉い人が来るんです」
「えらいひと?」
「査察官。この区画がちゃんと運営されているか、チェックしに来る人」
「チェック? あたしたち、テストされるの?」
「テストされるのは俺のほうです。セラたちは普通にしてくれれば大丈夫です」
「普通?」
「普通です。いつも通りで」
セラはにこっと笑った。
壁に微かなひびが入った。
……いつも通りで大丈夫だろうか。
メルトにもノートで事情を伝えた。
『査察? わたしたちの扱いが悪いから調べに来るの?』
「違います。予算の話です」
『予算が削られたら、ノートの補充は?』
「死守します」
『わかった。じゃあ普通にしてる。』
メルトの「普通」は本当に普通なので助かる。
ラグナには「今日はお客さんが来るから、走るのは控えめにして」と伝えた。
「えー! なんでー!」
「建物が揺れると印象が悪いんです」
「じゃあ歩く!」
「歩いてください」
ラグナが歩いた。普通に歩いた。床にひびは入らなかった。できるのか、この子。
「ラグナ、普通に歩けるなら普段からそうしてくれませんか」
「走ったほうが楽しいから!」
楽しさと建物の耐久性は両立しない。
ノクスはいつも通り寝ている。査察官が来ようが地球が滅ぼうが寝ている。ある意味、最も安定した対応だ。
カイムは朝から微笑んでいた。
「司くん、今日、面白いことになるよ」
「面白い?」
「うん。査察の人、すっごい怖い人だよ。でも、面白い」
怖いのに面白い。カイムの感性は時間軸と同様に常人には理解しがたい。




