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終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど


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33/58

平穏な日々は、だいたい次の災害の前振りである⑤


 夕方。カイムが事務室に来た。


 珍しい。カイムは普段、自分の部屋から出てくることが少ない。巡回の時に話す程度だ。



「司くん、ちょっといい?」


「どうぞ」



 カイムは向かいの椅子に座り、窓のない壁をぼんやりと見つめた。



「あのね、最近、夢を見るの」


「夢?」


「うん。わたし、普段は夢を見ないんだ。過去と未来の境界にいるから、眠ってる間も時間の隙間を漂ってるだけで。でも、最近は夢を見る」


「どんな夢ですか」


「暗い場所。すごく深くて、すごく冷たい場所。何かがいるんだけど、見えない。声だけが聞こえる」


「声?」


「うん。何て言ってるかは分からない。でも、呼んでるみたいな感じがする。わたしたちを」



 深層(アビス)



「それは、臨界点クリティカル・ポイントの前に感じたのと同じものですか」


「似てるけど、違う。臨界点クリティカル・ポイントの時は、下から押されてる感じだった。今は、引っ張られてる感じ」



 押すから引くに変わった。共鳴現象の性質が変化している。



「戸波さんに報告したほうがいいですね」


「うん。でも、もうひとつ言いたいことがあって」


 カイムの目が、俺に戻ってきた。焦点が合っている。


「わたしね、ここが好きだよ」


 真剣な話だと分かったから、俺はカイムの言葉を待った。



「この区画。ノクスも、セラも、メルトも、ラグナも。それと、司くんも。ここにいるのが、好き」


「……ありがとうございます」


「だから、壊されたくないの。下から来るものに」



 カイムの声が、少しだけ震えた。



「壊させません」


「根拠は?」


「ないです。でも、前回もなかった。なかったけど、なんとかなった」



 カイムは少し黙ってから、笑った。



「……司くんって、根拠がないのに言い切るよね」


「ノクスにも言われました」


「だろうね。でも、不思議と安心するんだよね、それ」


 カイムは立ち上がり、ドアに向かった。


「あ、そうだ。ひとつ予言」


「なんですか」


「来週の金曜日、いいことがあるよ」


「いいこと?」


「うん。何かは言わない。楽しみにしてて」



 カイムは手を振って出ていった。



 来週の金曜日。いいこと。



 カイムの予言がカレーの有無レベルの精度なのか、非常階段崩壊レベルの精度なのかは分からないが、「いいこと」の予言は初めてだ。


 少しだけ、楽しみにしておこう。



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