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終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど


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32/58

平穏な日々は、だいたい次の災害の前振りである④


 午後。セラの抽出(ドレイン)中。


 今日のセラのエネルギー値は106%。安全圏まで下げるだけの軽い抽出(ドレイン)。つまらない話をしながら進める、いつもの作業だ。



「今日のつまらない話はなんですか」と訊かれたので、「月次報告の修繕費について」を選んだ。


「セラが笑って壊したものの修繕費が、先月31万ポイントでした」


「さんじゅういちまん!?」



 驚いた。空間歪曲率が跳ねた。装置が警告を出す。



「セラ、落ち着いて」


「ご、ごめん!」



 深呼吸。数値が戻る。



「あたし、そんなに壊してた……?」


「ドアフレーム三個、構造物のひび割れ二十三件、時計一個」


「時計?」


「空間歪曲で内部機構が狂いました」


「……ごめん」



 セラがしゅんとした。エネルギー値が下がる。落ち込むと空間制御が安定するらしい。皮肉な性質だ。



「謝らなくていいです。壊れたら直す。それが俺の仕事なので」


「でも、31万ポイント……」


「修繕費の請求書は俺が書きます。セラは笑ってていいです」


「……笑ったら壊れるのに?」


「笑わないセラのほうが怖いです」



 セラが少し笑った。壁に微かなひびが入った。



 修繕費31万1件目。しかし、このひびの代わりにセラが笑ったなら、安いものだ。



 106%……100%……95%……89%。安全圏。完了。



「おつかれさま、つかさ!」


「おつかれさまです」


「……ねえ、つかさ」


「はい」


「あたしね、ここに来る前のこと、あんまり覚えてないんだ」



 唐突は告白だった。セラの表情もいつもと違う。笑顔じゃなく……少し遠い目だ。



「【現実裂きの勇者(リアルブレイカー)】って呼ばれてるけど、勇者だった頃のこと、ぼんやりとしか覚えてない。誰かを愛してたこと。その人を失ったこと。悲しくて、空間が裂けたこと。それだけ」



「……辛いですね」


「ううん。辛くないよ。だって覚えてないから。でもね、ときどき胸がぎゅってなる。理由は分かんないけど。たぶん、忘れた何かが、まだここにあるんだと思う」



 セラが胸に手を当てた。その瞬間、部屋の空間がわずかに揺らいだ。



「セラ」


「ん?」


「ここでの記憶は、俺が覚えておきます」


「……え?」


「ここでの記憶は、忘れないようにします。俺が」



 セラの目が見開かれた。



「――うん」


 頷いた。それから、いつもの笑顔に戻った。今度は空間が歪まなかった。


「つかさって、たまにすごいこと言うよね」


「言ったつもりはないですけど」


「言ったつもりがないのがすごいんだよ」



 よく分からないが、セラが笑顔で、空間が歪んでいないなら、それでいい。



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