臨界点の翌日は、修繕依頼と反省会と、少しだけ穏やかな午後③
夕方、メルトに新しいノートを渡した。10冊、まとめて。
メルトは10冊のノートを両手で受け取り、しばらくじっと見つめてから、ノートに書いた。
『1000日分の声。ありがとう。』
「いえ。次は切れる前に申請します」
『つかさ。』
「はい」
『わたしの声は凍るから、誰にも届かない。でも、ノートに書いた言葉は届く。だから、ノートはわたしの声なの。声をくれてありがとう。』
メルトの無表情が、ほんの少しだけ緩んだ。笑顔、と呼ぶには微か過ぎるが、目の奥に温度があった。
「ただの業務用品の補充ですよ」
『ただの業務用品が、わたしの全部なんだよ。』
返す言葉がなかった。
管理者マニュアル(灰嶋版)に、新しい項目を追加した。
第四項:メルトのノートは絶対に切らさないこと。
第五項:ラグナが怖がっていたら、一緒に走ること。
第六項:セラの力は壊すだけじゃない。
第七項:ノクスの銀紙は捨てないこと。
第八項:カイムの予言は、信じたほうがいい時もある。
少しずつ、マニュアルが埋まっていく。
83年間、誰も書けなかった共生の方法が、一行ずつ、形になっていく。
表紙しかなかったPDFファイルの中身を、俺が書く。
50億2025年。太陽が死んだ世界の地下117階で、怪物の少女たちと一緒に生きる方法を。




