臨界点の翌日は、修繕依頼と反省会と、少しだけ穏やかな午後②
午後。
修繕依頼の書類を片付けていると、端末に戸波さんからのメッセージが入った。
<灰嶋くん、今日の午後、時間ありますか。反省会というか、振り返りをしたいのですが。会議室で。>
反省会。この組織にそんな文化があったのか。
会議室に行くと、戸波さんがお茶を淹れていた。配給品のほうじ茶。味は薄いが、温かい。
「お疲れ様でした。改めて、昨日の対応について」
「はい」
「まず、結果として第一段階での鎮圧に成功しました。これは高く評価されるべきことです。上にも報告済みです」
「ありがとうございます」
「で、反省点」
「はい」
「ラグナちゃんのエネルギー蓄積速度の異常上昇を、もっと早い段階で検知すべきでした。これは僕のほうの責任でもあります。モニタリングの閾値設定が古いまま更新されていなかった。灰嶋くんが気づいて対応してくれなければ、第二段階以降に突入していた可能性がある」
戸波さんが自分の非を認めている。この人が反省しているところを初めて見た。
「深層の共鳴現象についても、もっと早く上に報告すべきでした。7~10営業日なんて悠長なこと言ってる場合じゃなかった」
「戸波さん」
「はい」
「この組織の対応速度を変えるのは、一朝一夕では無理だと思います。でも、この区画の中でやれることを、俺は全部やります。だから、戸波さんには上との交渉を、引き続きお願いしたい」
戸波さんは少し驚いたような顔をして、それから微笑んだ。いつもの微笑みとは少し違う、もう少し人間味のある笑顔だった。
「……20年やってて、こういうことを言われたのは初めてですよ」
「そうですか」
「前の管理者たちは、みんな自分が生き延びることで精一杯で。組織を変えようとか、上と交渉してくれとか、そういう発想がなかった」
「俺も生き延びるので精一杯です。でも精一杯の中に、もう少しやれることがあるなら、やったほうがいい。でないと、次の臨界点で死にます」
「それもそうだ」
戸波さんはほうじ茶を啜った。
「灰嶋くん」
「はい」
「この仕事、向いてるかもしれませんよ」
「やめてください。そういうのが一番怖いです」
「あはは」
戸波さんが声を上げて笑った。20年ぶりかもしれない。




