2休み目 「机の中」
キーンコーンカーンコーン
2時限目が終わり、チャイムが鳴り響く。
「次の授業なに?」
涼太は俺に問いかける。
「保健だったと思う」
「思うってなんだよ」
「じゃあお前が自分で確認しろよ。教えてやってるのに文句言うな」
「はいはい、保健ね。風斗を信頼しまーす」
なんだこいつ。涼太のこういう所がイヤ。
「感謝しろよ」
「ありがとうございまーす」
「"ます"を伸ばすなよ」
「まーすを伸ばしまーす」
涼太は大きく口を開けてバカみたいな顔をする。
「いいから準備しろ」
「相田先生、質問したら『それくらい自分で調べろ』って言うけど、あれズルくない?今までの保健の先生でワーストだわ」
涼太はいつものように小言を言いながら教科書と教科書準拠のワークを机の中から出した。
「えっ、お前保健の一式机の中に入れてんの?」
「うん。よく使う5教科の一式は全部机に入れてるよ」
「保健なんてガッツリ副教科じゃねーか」
「俺ん中では5教科にくい込んでる」
「くい込んでるってなんだよ」
「五角形のグラフがあったとして、そこにくい込んでるってこと」
「より分からなくなったわ。他に机ん中なに入ってんの?」
「だから5教科一式だよ」
そう言いながら涼太は机の中をゴソッと出した。
「家庭科も入ってんの?」
「家庭科もくい込んでるね」
「家庭科なんて週2しかないじゃん」
「頻度じゃないんだよ。その教科に対する熱量なんだよ。」
「そうなんだ」
「土日だって週2しかないけど、毎週待ち望むだろ?」
「どういうこと?」
「だから頻度じゃなくて熱量だって話」
「つまりどういうこと?」
「だから頻度じゃなくて熱量ってこと!もうつまってる!これ以上つまれない!」
つまれない?
「だから家庭科で言うとワークライフバランスみたいなこと!」
涼太は必死に主張するが、ますます分からなくなる。
「なんで家庭科にからめたんだよ。これ何のプリント?」
雑多な教科書たちの中にある謎の紙が目に入り、涼太に聞く。
「わかんない。なにこれ?」
二つ折りされた紙には「涼太君へ」と書いてあった。
「え!? これラブレターじゃね!?」
なぜか涼太が興奮している。
「なんでお前が興奮してんだよ。お前がもらったやつだろ?」
「いや俺こんな紙貰ってねーぞ。ラブレターかな。なんで今まで気づかなかったんだろ。」
涼太は目を輝かせながら紙を開く。
「えっと、なになに?『涼太君へ。』」
「え?」
急に涼太が朗読し始めたものだから驚いてしまった。
「はい。涼太ですよ。」
「なんで返事してるんだよ。」
「『涼太君、突然のお手紙ごめんなさい。』全然いいよ。気にしないで。」
「いちいち反応するの?」
「『実はずっとだ』──」
調子よく朗読していた涼太がいきなり口をあんぐりと開ける。
「なに?実はずっとだ?どういう意味?」
「違う。まだ文の続きだから。ゔゔん」
涼太は咳払いをして、続きを読んだ。
「『実はずっと』『だ』『い』『す』『き』」
一文字ずつ読むごとに涼太の息が荒くなる。
「『な』『ひ』『と』『が』『よ』『ん』『く』
『み』『に』」
今度は一文字ずつ読むごとに涼太は困惑していく。
「四組?俺、一組だけど。」
涼太は自分宛のラブレターではないと気づき、手紙を最初から改めて読んだ。
「『涼太君へ。涼太君、突然のお手紙ごめんなさい。実はずっと大好きな人が四組にいます。その人は深澤龍斗君なんですけど、なかなか勇気が出なくって...
だから龍斗君と仲良い涼太君に私の思いを伝えてほしいです。 3組 ゆいか』」
涼太の目線は何度も読み直すように上から下へと動いている。
「俺じゃないんかい!」
涼太は紙と言葉を強く机に叩きつけた。続けて、
「深澤君ともそれほど仲良くない!!小学校が一緒だっただけ!」
何回興奮するんだよ。
まさかドキドキの興奮と怒りの興奮を数分の間に見れるとは。
これほど本能に忠実な男は今どきいないだろう。
俺はあることが気になった。
「ていうかそれ、深澤君に渡し行かなくていいの?」
「いつ貰ったかも覚えてないのに今更渡すわけに行かないだろ!お前冷静すぎるんだよ!」
だから何回興奮するんだよ。




