第3話「放課後スーパーマーケッターズ」
「おーい!涼太!」
俺は程遠くはない距離にいる涼太を必要以上の大声で呼び止めた。
「何?」
涼太は訝しげな顔をしつつも、こっちに来てくれる。
「涼太もう帰んの?」
「駐輪場でリュック背負って自転車の解錠してる時点で分からない?」
「もー。嫌味なこと言うー。この後暇?」
「まあ、暇だけど」
「おっけ。じゃあスーパー行こ」
「俺は暇かどうか聞かれただけで、スーパー行くとは言ってないよ?」
「いいじゃーん暇ならさー」
そう言いながら涼太に擦り寄る。
「お前それはないわ。トラップじゃん。ハニートラップじゃん」
「ハニー要素どこだよ。とにかく行くっしょ?」
「...うん」
涼太は渋りながらも頷く。
「ほら。行けるならごちゃごちゃ言いなさんな」
「暇=行けるっていう認識なのがムカつくわ」
「またなんかごちゃごちゃ言ってるよーもうー」
俺は涼太の肩に手を回してだる絡みをする。
「スーパー行こ。スーパー」
「なんでスーパーなん?コンビニすぐそこにあるじゃん」
また涼太はごちゃごちゃ言ってるけど、なんだかんだスーパーへの道のりを共に進んでくれている。
「だってスーパーの方が俺は行き慣れてるもん。俺ってスーパーマーケッターじゃん?」
「知らないよ。そういう肩書き?」
「肩書きというより職業だね。スーパーマーケッターっていう職業」
「それで飯食ってるの?主な業務内容はなに?」
「品出し、レジ打ち」
「店員だよそれ」
「いや、スーパーマーケッター」
「横文字にしたとしても店員だよ」
「とにかく俺はスーパーマーケッターだから」
「お前って店員なの?今までバイトしたことないって
言ってただろ」
「まあ要するにスーパーマーケッターっていうのはスーパーに行く人のことだな」
「じゃあ主婦の大部分はスーパーマーケッターってこと?あと、要せてないよ」
自分でも何を言っているか分からなくなってきた。
友達との会話なんて空っぽでなんぼのものなのだからオールオッケーだ。
「今日は涼太もいるからスーパーマーケッターズだね」
「勝手に俺をよく分からない組織に属させないでくれ」
「俺たち、スーパーマーケッターズ!」
と言い切る前に涼太が遮った。
「着いたよ」
「あっ本当だ」
スーパーマーケッターになると周りが見えなくなる。
「着いてから言うのもあれだけどさ、何でスーパーなん?」
「さっき言ったじゃん。行き慣れてるから」
俺は涼太に突っ込まれないことをいいことに、行き慣れているからというはっきりしない理由を正当化する。
「それだけ?」
「それもあるし、アイス買おうと思って」
「じゃあ、あそこのコンビニでよかったじゃねえか!」
涼太は今日イチの大声で吐き捨てた。
「だから品揃えが違うのよ。コンビニとは比べ物にならないから。特にアイスの品揃えは!」
「アイスの品揃えなんかたかが知れてるだろ。アイスの品揃えなんて。アイスの品揃えってなんだよ」
店内に入ると冷房がよく効いていて、すこし肌寒いくらいだった。
「うわ、マジで品揃えすごいじゃん」
涼太は驚いた顔でしばらく店内を見渡したのち、ついに口を開いた。
「まさか、店の三分の二がアイスコーナーとは」
「だから言っただろ?アイスの品揃え良いって」
「もうここまで来たら大型アイスショップだろ。スーパーの体裁を保つ理由はなんだよ。最近のゲオみたいなことか」
「どれがいいかなー」
俺は大量のアイスを目の前にしてはしゃがずにはいられない。
俺は目当てのアイスであるジャイアントコーンの青を手に取る。
「俺もう選んだけど、涼太は?」
「俺アイスには厳しいから。ちょっと黙ってて」
「なんだよ。あんなに文句言っておいて、来たら来たでアイスを厳選するとか」
「せっかくこんな凄まじいとこ来たんだから選りすぐらせてくれよ」
それから涼太は30分くらい悩んだ。
俺は溶けそうなジャイアントコーンの青を冷凍ケースに戻した。
「もうなんでもいいだろ。これでいいじゃん」
俺は適当に手に取った明治エッセルスーパーカップのバニラを見せる。
「それはラクトアイスだからいらない」
「なに?ラクトアイスって」
「簡単にいうと植物油脂の割合が多いアイスってこと」
「『簡単にいうと』ってのが鼻につくわ。もっと詳しく話せますけど今日のところは分かりやすいように簡単に説明しますってか?」
「俺的には『ってか?』の方が鼻につくけどな」
そんな涼太の言葉を最後にお互い黙りながらしばらく冷凍ケースを眺める。
「涼太、これは?これうまいらしいよ」
俺は森永製菓の板チョコアイスを手に取った。
「これは準チョコだからいらない」
涼太は一瞬俺の手元の板チョコアイスを見て、すぐに視線は冷凍ケースに戻った。
「準チョコ?」
「そう。それはチョコレートコーチングが施されていて、それを売りにしているんだけど、そのチョコレートコーチングってのは純粋なチョコレートじゃないんだよね」
「そうなんだ。あと、『施されている』で合ってるの?」
「一番いいのは、種類別がアイスクリームかつ純チョコレートのアイスなんだよな」
「別になんでもいいだろ」
「なんでも良かったら今ごろ泥食ってるわ」
「食ってないだろ」
「そんなにこだわりひけらかしてるってことは、それらの味の違い分かるってこと?」
「わかんない。わかんないけど、気持ち的に偽物食べてるって考えるとイヤになってくる」
「偽物でもなんでもいいから早く選んでくんない?お前が悩みすぎるから一回ジャイアントコーンの青を冷凍ケースに戻したんだけど」
「ジャイアントコーンの青?うまいの?」
「俺これしかアイス食わない。そんくらいうまい」
「どれ?これ?」
涼太はジャイアントコーンの青を手に取り、成分表示を見る。
「あー惜しい!」
「何が惜しいの」
「ジャイアントコーンの青、準チョコじゃないけどアイスクリームじゃなくてアイスミルクだわ」
「もううるさい。本当になんでもいいから早く選んで。スーパーマーケッターズの顔に泥塗るような事しないで」
「また出たよ。スーパーマーケッターズ。つくづく何それ」
「いいから早く選んでよ」
涼太には着いてきてもらって申し訳ないのだが、なかなかアイスを選ばないので少々イラついてきた。
「うっさいなー。じゃあ風斗とおんなじ青にする」
「ジャイアントコーンのね」
アイスをレジに通したのち、スーパーの外で食べることにした。
「ねぇ風斗」
「なに?」
「俺たちアイスしか買わなかったけど大丈夫かな?」
涼太はジャイアントコーンのパッケージをペリペリと剥がしながら不安げな表情を浮かべる。
「なにが?」
「いやガムなりなんなり買った方が良かったかなって思ってさ」
「コンビニのトイレ借りた時以外そんなこと考えなくていいよ」
涼太がジャイアントコーンの上部を食べるのを確認して俺も食らいつく。
「そうなんだ。店で何か一つだけしか買わない時、申し訳ないからブラックブラック買ってたけど、別に買わなくていいんだね」
「なんでよりによってブラックブラックなんだよ。申し訳ないと思ってるやつが買うガムじゃないだろ」
「うまっ!!!!」
涼太はジャイアントコーンのコーンにかぶりついた瞬間、叫んだ。
「びっくりした!なんだよ急に」
俺は急な爆音に鼓膜を震わされた。
「いや、風斗。これうまいわ。マジで。アイスミルクとかどうでもいいくらいうまい」
「だろ? ってかさ、お前さっきアイスのこと語っておいてジャイアントコーンの青知らなかったん?」
「純チョコとアイスクリームしか興味無いから。お前逆になんでジャイアントコーンの青知ってたん?」
「スーパーマーケッターだから。俺たちスーパーマーケッターズなんだからスーパーのアイスぐらい把握しとけよ」
「だから俺を入れるなよ。どっちかというと俺は純チョコアイスクリーマーだから」
「うはっ」
純チョコアイスクリーマーなんて言われたら『うはっ』以外言えないよ。




