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光のタクト  作者: セカンド
世界を変える大雨
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【 客間の戯れ 】


地震騒動が落ち着き、軍への指示を済ませたリードイスト達3人は サラがリードイストを迎える為に乗って来ていた外交用の高級転移車に乗り 学園島へと向かった。



辿り着いた先は祭会場ではなく、アルバティル学園の地下に作られた隔離された部屋。


この部屋はリードイストのような重要な客人を迎え入れる為に作られた特別な部屋で、外とは完全に孤立している為 MSSレベル3であったとしても、外からの声は聞こえる事はなく もちろん中の音も外に漏れる事はない。



この部屋はソガラムが作った物で、歌姫シオンが現在住んでいる家も同じ作りになっている。




「着きました。こちらへどうぞ」



運転席を降りたサラが後部座席のドアを開け、リードイスト達を車外へと出し 客間へと案内をした。



この隔離された空間には、数十台の高級転移車が置かれている車庫と客間しかない。



扉も 車庫と客間を繋ぐ一つしかなく、外に出る時にはシオンの家と同じ様に転移で出る以外に方法はない。



シオンの家の場合は魔印の入った物を持っていないと出入り出来ないが、ここの客間はソガラム以外は車庫にある転移車でしか出入り出来ない様になっている。







「お待ちちておりまちた。ようこと学園島へ」


隔離された部屋に唯一ある 車庫と客間を繋ぐ扉の前に立つと、自動的に扉が開き 目の前には綺麗な執事服に身を包んだ小さな人物が 丁寧なお辞儀と舌ったらずな挨拶でリードイスト達を出迎えた。





「おぉ、ウラルちゃん久しぶりだな!相変わらずウラルちゃんは何もかも相変わらずだな!はっはっはっ、ダイソンは元気にしているか?」



「おひたちぶりでつ ラブヒートたま。ダイ君も相変わらずでございまつよ。では みなたま、こちらへどうぞ」



ウラルと呼ばれる小さな執事少女に促されて客間へと入ったリードイスト達。



「それにしてもやっぱりすごいな、この客室は。MSSが広まり出してからもう10年以上経つが 未だに音を遮断する方法どころか感染の仕組みすらわかっていないのに ここまで完璧に遮断できるとはな。ソガラム様もこの技術を皆に公開してくれればいいのに… まぁあのお方の事だからきっと公開しない理由があるのだろうけど」



ジャスティンが 客間と呼ぶには広すぎる部屋を見回しながら、感心する様に感想を呟いた。


それもそのはず。

個人の能力で音を遮断する事が出来る人はいるが 建物や場所で結界を張らずに永続的に音を遮断する技術はまだ世界にはないからだ。


個人で遮断する場合も結界を張る場合も、どちらの場合も基本的には常に人が魔力を供給するのが一般的。


音を遮断する結界に魔力を常に供給する為の魔具を設置する事は可能であるが、アイデンやジースではない普通の結界は 元になる結界を張った本人が近くにいなければ効果がないので、この客間やシオンの家のように 作った本人であるソガラムがその場を離れても音を遮断し続ける技術は今の人の世にはない技術なのだ。



この技術があれば 聞こえすぎる心の声に苦しむ感染者や、聞かれる事に精神を擦り減らしている非感染者達を少しでも救う事が出来ると思ったジャスティンは この仕組みを皆に公表するように以前ソガラムに頼んだ事があるのだが、即答で断られてしまった。



昔ほどではないにしろ 今でもMSSに苦しむ人がいて、それを軽減出来る技術を持った人物が目の前にいるのに手に入らなかったジャスティンは悔しい思いはしていたが、悲観はしなかった。



断った人物がソガラムだったからだ。


ジャスティンはソガラムを尊敬しており、自分と同じくらい人の事が好きだと認識していた。


その為 自分より知識も経験もあるソガラムの拒否に対し 自分では計り知れないだけで、人々の為になるはずだと思い 受け入れたのだ。



「そういえばウラルちゃんって今年で何歳になるんだったかな?12年前に初めて会った時は確か11…いや12歳だったか?なら今はもう24歳か!見た目も話し方も何一つ変わってないように見えるが、何か変わった事や困っている事はないか?恋の悩みでもダイソンへの不満でもなんでも聞くぞ」



「いえ、特に変わりありまてんよ。とれに わたくちは今も12たいでつ。ラブヒートたまこと どうなんでつか?まだ諦めずにムチ姉たまを口説かれているのでつか?」




小さな執事少女ウラルへ親しげに話し掛けるジャスティン。



それとは対照的に、リードイストは少しだけ不愉快そうな顔をしていた。



その理由は単純明快なものであった。



ウラルは綺麗な執事服を着ているが、その服は成人男性用の物である為 中等部のマキナ達よりさらに少し小さめな自称12歳のウラルの身体にはサイズが全く合っておらず、手足がすっぽり隠れてしまっている。


そのため歩く時には裾を踏みながら引きずってしまっていて とても歩きにくそうに見えるだけでなく、その姿を見た感想としても 良く言えば可愛らしいと言う人もいるかもしれないが 多くの人はだらしないと思うだろう。



だが リードイストの不愉快の理由はだらしない服の着こなしでも サ行が上手く言えない滑舌の悪さでもなく、ウラルの顔の右半分を隠している仮面である。



ソガラムと同じ仮面を縦半分に綺麗に割り、まるで自分の身体の一部であるかの様に当たり前に着けているウラルの事が リードイストはお気に召さないようだ。



さらに言うと、先程名前が挙がったダイソンという人物もウラルと同じ様に半分だけソガラムの仮面を着けているので こちらもリードイストは好ましく思っていない。



ーーーーー



ーーー





「ウラルさん、学園長はどちらへ?」



客間の中央に設置されている長テーブルへと案内された3人はそれぞれ椅子に腰をかけ、ウラルが全員へ飲み物を配り終えると、ウラルも交えた4人で暫く談笑して時間を潰していた。


しかし約束の時間になっても現れない最高責任者の事が気になったサラがウラルへ所在を聞いた。



「パパたまは歌姫たま達を迎えに行った後から ずっとテーブルのちたに隠れてまつよ」



ガタッ! ガタッ!


ウラルがそう告げた途端、サラとリードイストは即座に椅子から立ち上がりテーブルから距離を取った。



「・・・・」


「・・・・」



テーブルから少し離れた2人は無言のままお互いの視線を合わせた後、警戒を解くこと無く同時にゆっくりとテーブルの下を覗き込んだ。



「はっずれー!上でしたぁー!」



サラとリードイストが下に気を取られていると、テーブルの真上の高い天井に 逆さまに立つソガラムが嬉しそうに声を上げた。



全員の視線がソガラムに集まると、トウッと言いながら天井から飛び降り 着地音を鳴らすこと無く舞い降りた。



「ウラル君バラしちゃダメだよー。秘密だよって言ったのにっ。まったく君はいつでも素直で正直で良い子なんだからっ。・・・あれ?褒めちゃったっ!まぁそのおかげで王子君をびっくりさせられたからオッケーかっ」



「はっはっはっ、ソガラム様お久しぶりです。ソガラム様も相変わらずですな!それはそうと、先程セントクルスではまた地震が起きたのですが こちらは大丈夫だったでしょうか?島民達に怪我などされた方はおられませんか?もし被害が出ているのなら私も手伝いますので今すぐにでも・・」



「だぁーいじょーぶっ!君こそ相変わらず人間大好き全開だねっ ジャスティン君。安心していいよっ!なんてったって ここは学園島だよっ?小さい島に有能な若者達がギュッと集まってるからねっ!ほらほら、ジャスティン君もよく知ってるクローツ君だっているしっ。みんなもう地震なんか気にせずにお祭り騒ぎしちゃってるよっ。いーなー、ぼくも遊びたいなー。だからさっ、堅っ苦しい挨拶はサクッと終わらせちゃってねっ 王子君っ」


ジャスティンとの馴れ合いの様なやり取りの最後に、あまりにも挑発的な揶揄い口調でリードイストに話を振るソガラム。


その安い挑発に 我慢のがの字も見せること無く、リードイストはソガラムを睨みつけた。



「貴様が呼びつけておいて その言い草はないだろう。今から貴様のその不愉快な仮面を叩き割る遊びに興じてやってもいいのだぞ、ソガラム」



「王子君はすーぐ怒るっ。やーい やーい 怒りん坊っー。おしりペンぺっーーーー!・・・サラ・く、ん。ごべんっ、く 苦しっーーーガクッ」




「リードイスト王、大変失礼致しました。学園長には後でたっぷりとお灸を据えておきます。こちらの醜態のすぐ後で申し上げにくいのですが、そろそろ予定の時間になりますので祭会場に向かわせていただいてよろしいでしょうか?学園長はここで首を吊っておいてもらいますので、リードイスト王には私がこのままご一緒させて頂きます」




「あぁ、わかった」




「ではウラルさん、後はよろしくお願いします」



「はい。いってらったいまて」





ウラルのお辞儀に見送られた3人は、イタズラをし過ぎてサラに首を鞭で締め上げられ シャンデリアに吊るされたソガラムを置いて客間を出ると、そのまま転移車に乗り 櫓会場へと向かった。





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