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光のタクト  作者: セカンド
世界を変える大雨
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【 平和への誓い 】




櫓会場の櫓内部へと着いた3人は一階に車を置き、階段を登ってスピーチをする場所である 広場を一望できる櫓上部へとやってきた。



「凄い熱気だな。太陽よりも下の人達からの熱の方が熱く感じるくらいだ。これはいいっ!やっぱり人は楽しそうに笑っているのが1番だ!はっはっはっ、なんだか俺も踊りたくなってきたぞ!サラ、一緒に踊ろうっ」



「お断りします。それと大衆の面前で恥ずかしい事はしないようにお願いします。正義の象徴とも言える貴方を、人々の前で吊るし首にはしたくありませんので」




サラ達のいる櫓上部は垂れ幕のような物で覆われている為 下の人達からはまだ存在を気付かれていないようだが、隣にいるジャスティンが垂れ幕を少しずらして 覗き見するように広場を見ながら興奮していた。



垂れ幕の内側にはサラ達の他にも数名の祭運営委員とMCを務める猫耳を着けたコスプレ女性がおり、全員リードイスト達へと挨拶をした後は忙しそうに準備をしていた。



「そういえば歌姫達は陛下の挨拶の後にすぐミニライブをやるんだろ?姿が見えないようだが、どこにいるのだ?あの2人はいつも人々を楽しませてくれているからな。一度会って感謝を伝えたかったのだが…」



「あのお二人は出番が来るまで別の場所に待機して頂いてます。シオンさんの力は大きく、無意識裏に力が出てしまう事がありますので」




残念そうな顔をするジャスティンであったが、歌姫の能力が多数の人に影響を与える事はなんとなく理解しているので 仕方ないと諦めた。




「そんな事より陛下、挨拶は考えてあるのですか?急な要望で来られたのはソガラム様の事なので仕方ないにしても、朝からセントクルスの祭でもスピーチして 地震騒ぎまでありましたから時間なんてなかったですよね?」



「ああ、だが問題はないだろう。ソガラムの奴も挨拶は簡単に済ませと言っていたからな。お前も何か話すつもりなら、あまり堅くなり過ぎないようにな」



「いえいえ、今回 俺はただの付き人ですから話す事はしませんので大丈夫ですよ。おっ、そろそろみたいですね!陛下、行きましょう」






猫耳MCの後ろをリードイストが歩き、そのすぐ後ろにサラとジャスティンが横並びでついて行く。



櫓のステージへ出ると、大きな歓声と拍手がリードイスト達を歓迎した。



人々の視線が集まる中、進行役の猫耳MCが拡声魔法陣を展開し 広場へ向けて元気な声を上げた。



『カカカ祭りにお越しの皆様ぁー、楽しんでますかぁー!?大変長らくお待たせ致しましたっ。本日、セントクルスよりリードイスト王が直々にお越し下さり皆様にご挨拶をしてくださるとの事ですっ。それではリードイスト・セントクルス王、宜しくお願い致します。皆様、盛大な拍手でお出迎えくださーい』




場をしっかり温めて役目を終えた猫耳MCは拡声魔法陣の前から少し横にずれ、リードイストへと場所を譲った。



人前に立つ事を日常的に行なっているリードイストは慣れた足取りで拡声魔法陣の前に立ち 穏やかだがキリッとした 世界の王と言われる男の顔を携えて 広場に集まる民衆を見下ろした。



昼間でも色鮮やかに空を飾る花火より 少し低い位置にいるリードイストからは、下の民衆の顔がよく見える。


その表情は大半が笑顔でリードイストを仰ぎ見ており、ソガラムの言った通り 先程の地震で恐怖に震えるような人は見当たらなかった。



「ふっ・・・」



逞しい民達を見たリードイストは、小さく笑った。


その顔は穏やかなもので、下では多くの女性が卒倒しかけるほどであった。




『暑い中 集まってくれた諸君にまずは感謝を』



リードイストが声を発すると、それまではキャーキャーと歓声を上げていた人々が皆、若き世界の王の声を聞く為に静かになった。



『今年も学園島で夏花火祭りが盛大に行われている事、大変嬉しく思う。皆はこの祭りが好きか?』



リードイストの問い掛けに人々は大きな声で肯定した。



『そうか、私も同じだ。私はこの祭りが好きというより 祭りを楽しむ君達が好きだ。いつでも いつまでも楽しそうに笑っていて欲しいと、切に願っている。その願いが叶っているのだと自分の目でしっかりと見る事が出来るこの祭りが 私は好きだ』



夏の暑さを忘れさせるくらい 温かい想いが、民衆に広がっていく。



『この学園島は世界的に大変重要な役割を持つことは諸君も知っての通りだ。それはもちろんソガラム学園長や英雄サラなどの尽力が大きいのは言うまでもない事だが、本当の功労者は諸君である事は自覚しているだろうか?』



今度の問い掛けには、民衆は返答に困ってしまった。


自分達はソガラムや英雄達が作り上げてくれた平和の上で、好きなオカズが入っていない弁当に腹を立てたり 毎週放送される連ドラに一喜一憂したりしているだけで、功労者と呼ばれるにふさわしい事など何一つしていない自覚があるからだ。




『世界の変革に流されて 地獄の様な生活を強いられていたら、いつの間にか英雄達が全てを救ってくれていて今がある。自分はただその救いに乗っかっているだけで何もしていない。 と、諸君は恐らくこう思っているのだろう』



世界の王の言葉は多くの民衆の心中を見事に捉えたものだった。


自覚はしていたが 言葉にされた事で自覚が深まってしまった民衆は、困惑と罪悪感などが混ざった複雑な感情が渦巻いてしまい、何も言えずに次の言葉を待つ事しか出来なかった。



『正解だ。だがそれは、今の諸君のように暗い表情で落ち込む事ではない。なぜなら それこそ私が諸君を功労者と言った理由だからだ。様々な困難が降り注ぐ中、普通に生きる事が如何に難しいかを知っている諸君が 生きることを諦めずに今日この日の祭りを精一杯楽しんでくれる事こそが最大の功績だと私は思っている』



自分達が今 平和に暮らせているのは自分達のおかげではない。


英雄達がフレイク魔教団の脅威を消してくれた。


ソガラムがMSSでバラバラになるはずだった人々を繋ぐ環境を与えてくれた。


リードイストが弱い者達を救い、導いてくれた。


自分達は、それらに感謝をしながら ただ生きていた。



『今までに沢山の人が絶望の中 生きる事を諦めた。それは私の責任だ。だが諸君はそんな私を責めることもせずにこうやって温かく迎えてくれている。笑顔を見せてくれている。本当に 感謝の言葉だけでは伝えきれない想いだよ』



世界の王は何を言っているのだろうか。


選別の大雨で壊れた世界 その中で勝手に生きるのを諦めたのは民衆だ。


雨が降ったのは王のせいではない、起きてしまった変革に耐え切れず 命を絶った人がいたのも王のせいではない。


あの変革の中、真っ先に民達の為に動いたのはリードイストだ。



MSS専門の研究施設を作り、いち早く解決する為に動いたのもそう。


人との接触を恐れた民衆、その隙を狙って悪事を働こうとしていた者達を取り締まる為に警備網を張ったのもそう。


MSSの能力が判明してからは、すぐにその能力を利用してフレイク魔教団を壊滅させる為にジャスティンに指示を出したのもそう。


リードイストが王になってからは起こっていないが、それまでには日常的に起きていた戦争の被害者達や孤児の為に施設を作り、物資や食料 それに家や土地まで与えたのもリードイストだ。



そんな人物が何もしていない自分達に感謝を口にするのは間違っていると民衆は心底思っている。




『私やソガラム学園長や英雄達が作り上げ、今後も作っていくものは道だ。その道は 諸君が何も考えず 安心して歩く事が出来る道。諸君が平和を感じてくれる事こそが私が命を懸けるに価するものである事は覚えておいて欲しい』



人の上に立つリードイストは、人の前を歩き 誰もが安心して進む事が出来る道を作ると言う。


そして、何も価値などないはずの自分達の事を 命を懸ける価値があると言っている。




『これからも色々な事が起こるだろう。だが、諸君に真の平和を贈る事を約束しよう。諸君の為に平和への道を作るのが私の責務。そして諸君の責務は平和な世界で幸せに過ごす事だ』



幸せに過ごす事が責務。




民達は思う。


リードイストが王である今の世で暮らせている事が、すでに幸せな事なのだと。


だが、世界の王は言った。


真の平和を贈ると。


戦争もなく、貧困も少なくなり、MSS問題でも人が死ぬほどの事はもうほとんど無くなった今の世界より平和な物などあるのだろうか。


民達にはわからなかったが、敬愛する世界の王がそれを贈ると言っているのだ。



なら自分達は、王からの贈り物を 感謝を込めて受け取れる日が来るのを待つだけだ。




『真の平和はもうすでに産声を上げている。諸君は今のこの平和と 近い未来に訪れる真の平和を存分に堪能してくれたまえ。さあ、堅苦しい話しは終わりにして祭りを楽しもう。楽しみ、笑う事が諸君の責務。しっかりと責務を果たしてくれ』



リードイストが笑顔を見せ、大きな声でそう告げると 一際大きな花火が上がり、軽快な音楽が響き渡った。




楽しむ事が責務。

凄く簡単で、誰にでも出来る事。

そして誰もが望む事。


冗談のような言葉を放つ世界の王からは、冗談ではなく本気で言っているのだと全員に伝わってきていた。



リードイスト王が民達の為に心血を注いで様々な事をしてくれているのを、民達は知っている。



天災があればどこよりも早く軍を派遣し、貧富の差が激しくなりそうな地域には貧民が増えすぎる前に働ける環境を作り、魔獣が現れれば王が直接討伐に行く事もある。


それもセントクルスだけではなく、他国も含めて全ての民に対してであり 世界の王と言われる由縁も、単に世界一広い国の王様だからという訳ではなく 世界中の民の事を常に考えて行動してくれているからである。


そのリードイスト王が自分達の仕事は平和に楽しく過ごす事だと言い、しっかりとその責務を果たせと言っている。



異を唱える者など いるはずがない。


リードイストは口にした事は必ずやり遂げる人物だと、今までの結果や成果で知っている人々。



そんな人々が出す結論は決まっていた。



〝おおぉぉぉぉ!!!遊ぶぞぉぉぉぉぉ!!〟


〝王様見てて下さい、全力で楽しんで責務を全うしますぅぅぅ〟




自分達の平和を願う王に感謝を伝える為にも、精一杯楽しむ事を選んだ民達は 声を大にしてリードイストへと楽しむ宣言をした。




広場に響き渡る音楽と歓声。


綺麗で止む事のない花火と盛大な拍手。


その全てを受け取ったリードイストは、右手に拳を作り 左胸の前へと持ち上げて綺麗な立ち姿を民衆に見せ、その場を後にした。





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