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ちゃらんぽらん陰陽道  作者: わらびもちリズ
第一章 はじまり
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13 迦楼羅天

「そして、私が人の魂を喰らう物の怪だという認識も、事実とは異なる点がある」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、話せば長くなるがな。

 恐らく、さっきの陰陽師の若造達は、今からする話を知っていることだろう。

 まず、この考えは根本的にはあながち間違ってはいないのだが、私が喰らう魂は死期を迎えた人間のもののみだ。

 私が喰らった魂がその後どこに行くのかは、私にも分からぬ。修羅道か、畜生道か、地獄道か、それとも極楽か……それは、地獄の閻魔のみぞ知るところだ。死後の世界などというものが本当に存在しているのかも、全くもって怪しいところであるがな」

 

「へえ……」

 

「だが、そのような話を知る人間は、この世にごく僅かしか存在していない。

 私は太古より、人の魂を喰う邪悪な物の怪として恐れられてきた。人が死ぬのは、私が存在している為だと言われ、憎まれてきた。人の命など儚いもので、私が干渉せずとも、自然と尽きていくものだというのに。

 私は私の役目を、行き場を失った魂を正しい居場所へと導くことだと捉えている。その行先が極楽だろうが地獄だろうが、それは私の知ったことではない。

 しかし、時の権力者達は、私が消え去れば自身の命が尽きることは無いと考えた。そして、当時の時代の寵児となった名だたる陰陽師達に、私を祓うように命じたのだ」

 

「時の権力者って、天皇とか?」

 

「それだけではない。

 上皇、摂政、関白、その他大臣やら法師やら……本当に数え切れない程の人間が、私のことを殺そうと企んでいたものだ。あの時代は、(まつりごと)には陰陽道が付きものであったからな。

 そして、人魂喰らいの退治に毎回と言っていい程に頻繁に駆り出されていたのが、安倍の一門だ」

 

「それって、安倍晴明の?」

 

「ああ、その通りだ。

  ……あいつは俺の本当の役目も、何もかも全てを知っていた。しかし、帝の綸旨に逆らえば、今度は私ではなく晴明の首が飛ぶことになる。

 齢八十を越し痩せ衰えた肉体で、よくぞこの私に挑んできたものだ。物の怪という存在が、人間如きに支配出来るものではないということくらい、あいつが一番理解していた筈だというのに。

 あいつは何百人という数の従者をぞろぞろと引き連れて、私の住む嵐山にやって来たさ。

 晴明は私に様々な術をかけようと試み、従者達は無数の矢を放った。

 私が居なくなれば、これから先身体を抜け出した魂が、皆路頭に迷うことになる。私は死ぬ訳にはいかなかった。

 だから、私は戦った。

 晴明を負かせば、従者達は最早烏合の衆に過ぎない。私は晴明と勝負をつけて、それで終わりにしようと考えていた」

 

 カルラの人間らしさの垣間見える言葉に、俺はじっと耳を傾けた。

 

「しかし、不幸にも嵐山は瞬く間に火の海になり、数多の血が流れ、人間の肉が焼かれる噎せ返るような匂いが辺りを満たしていた。

 ふと我に返った時には、立っていたのは私と晴明の二人だけだった。

 互いに暫く睨み合った後に、同時に斬りかかっていった。晴明の七星剣は私の左肩を、私の刀は晴明の右肩を切り裂いた。所謂相打ちだな。

 しかし、私は物の怪だが、奴は人の子。それも齢八十をとうに越した老いぼれだ。晴明の痩せ細った身体はあっけなく焼け野原に伏した。

 一方の私はと言うと、祓われて消えることは無かったものの、左肩には大きな刀傷が残された」

 

 そして、カルラは遠い目をして左肩を抑えた。

 

「更に、晴明の置き土産はそれだけに留まらなかった。

 戦いの後、私はそこら中を彷徨っていた人魂を余すことなく喰らい尽くした。あのように沢山の人魂を喰らったのは、後にも先にもあの夜が最後であった。

 夜が明けて全てが灰になると、私は嵐山を去ろうとした。既にそこは私の居場所では無かった。

 山を下っていくと、麓の方に生えている幾つかの木に、何やら注連縄のようなものがかけられているのが認められた。

 私がその木々の傍を通り過ぎようとしたとき、左肩の刀傷が灼けるように痛んだ。皮膚を引き剥がされ、血肉を抉られ、骨を芯まで焼き尽くされるような猛烈な痛みだった。

 私の左肩には、刀傷の周りには何やら祝詞のような梵字のようなものが、刺青のようにびっしりと並べられていた。

 どうやら、晴明は剣に嫌な術をかけていたらしい。

 そこで私は初めて、晴明が捨て身で私を嵐山に封印するつもりだったことを理解した」

 

 すると、カルラはどこか諦観したような表情を一転させ、あっけらかんとした様子で口を開いた。

 

「幸いにも魂を喰う妖は私一人だけでは無かったようで、私が封印されたところで、特に大きな問題が起こることは無かった。同時に、あの戦いの意味は一体何だったのかと、虚しくもなったがな。

 その上、実の所、人に化けていれば外に出ることは可能だった。とはいえ、霊力の消費が激しい為に、日の出前に外に出た日には、日が落ちる頃には妖の姿に戻ってしまうのだがな」

 

「じゃあ、今も人に化けているのか?」

 

「いや、今の私は刀傷が付けられる以前の子供の頃の姿だからな。人に化けずとも、一日中嵐山を出て歩き回ることが出来る」

 

「あ、そっか……」

 

「話を戻すぞ。

 その後も晴明の血を引く者達が腕試しのように何度か私のもとに通ったものだが、全員こてんぱんに負かして追い返した。大体の奴は、従者が何人かやられた時点で怖気付いて、尻尾を巻いて逃げ帰ったな。

 後にも先にも、私との一騎打ちになろうとも怯えることなく立ち向かってきたのは、晴明ただ一人だけだった。晴明に敵う陰陽師を、私は未だに見た事がない。

 ……しかし、あの若造のいい加減さと無責任さだけは、晴明を遥かに超えているだろうな」

 

 太秦さんのニヤニヤと笑う顔が頭を過り、俺は苦笑いを浮かべた。

 

「私の封印が解けたという話は、そのうち多くの人間に伝わるだろう。

 そうすれば、再び私を封印しようと試みる者、私を力で従えようとする者、その他様々な敵意を持った陰陽師達が私に刃向かってくる」

 

「それって……カルラは大丈夫なのか?俺が霊力を奪ってしまって、抵抗する力も弱くなってるんじゃ……」

 

 しかし、カルラは首を横に振った。

 

「貴様、私を誰だと思っているのだ?

 私は三千年の時を生きた物の怪、迦楼羅天だ。多少霊力が削げた程度で、そこらの陰陽師に負けることなどないさ。今までも、同じように降りかかる火の粉を払っていたのだから。

 それよりも、自分の身の心配をすることだな」

 

「あ、そっか……」

 

 淡々と語ってはいるが、言葉の節々に言いようのない悲しみが滲んでいるように思えた。

 当たり前だ。 天から与えられた仕事を全うしていたにも関わらず、人間のエゴによって、千年以上にも渡って山奥に閉じ込められるだなんて、そんなの俺には到底耐えられない。

 

 俺は胸の内に何かモヤモヤとしたものが広がっていくのを感じながら、住人達の待つ我が家を目指して、ただ歩き続けるばかりであった。

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