第9話【背中合わせの仲直り】
……何でこんなことになったのかしら?
「あの……優花さん」
「こっち向かない!」
「は、はい!」
私がそう言うと、百合は命じられた子犬みたいに返事をして「後ろを向いています!」と言わんばかりに背中をくっつけて来た。
うぅ~、正直、私だって女同士で風呂に……ましてや一緒の浴槽に入るなんて思っても無かったんだから……
こんなのどこを見たらいいかも分からないし、背中合わせにしてお互いの体を見ないようにした方がいいじゃない。
「あと、名前! 優花呼びに戻っているわよ」
「やっぱり……名前で呼ばれるの嫌いですか」
「え……」
この子ったら……何でこんな所はさといのかしら?
「別に……逆に、何で百合は私のことをそんなに名前で呼びたがるのよ」
「えっと、それは……じ、実は、わたし、優花しゃんに憧れていたんです!」
「……はぁ?」
え、何……?
「やっぱり、貴方ってそう言う……趣味……」
「ち、違います! わたしは百合ですが、決してそういう意味ではないです!」
そう言うと、自称百合は恥ずかしそうに湯船の中で指をぱちゃぱちゃさせながら、こう続きを述べた。
「わたし……前から、黒川さんみたいに綺麗で、勉強もできて、クラス委員長もできる完璧な女性に憧れていたんです……そのぉ……自分がドジだから……そういう風になんでもできる女の人に憧れていたと言うか……ですね」
あぁ~、まぁ、何となく百合がドジな性格でそういうのに憧れていたって言うのは分かるわね。
「だから、黒川さんみたいな人と一緒に暮らすことになって……憧れの人と一緒にいるのが嬉しいと言いますか……」
「つまり、どういうことよ?」
なんとなく煮え切らない百合に、私が結論を急かすと、彼女はばしゃーん! と水しぶきを上げながら、私の方を振り向いてこう言った。
「だ、だから……もっと仲良くなりたいんです!」
……丸見えだ。何がとは言わないがいろんなところが丸見えだった。
この百合女、わざと私に見せて来ているんじゃないでしょうね……?
「でも、仲良くなりたいか……」
なんか、自分が恥ずかしいわね……。
呼び方一つで周りからどう見られるとか、お父さん達がどう思うかだけを考えて……結局、私は彼女《百合》とどうなりたいかを考えていなかった。
そうよね。もう、家族なんだもんね……。
「優花」
「……え」
「呼び方、優花でいいわ」
「でも、学校では……」
「学校でも『優花』でいいわよ。そのくらい……完璧な女性の私が上手く誤魔化してあげるわ」
「ゆ、優花さん……」
なーに、そんな嬉しそうな顔しているのよ。
たかが名前くらいで……本当にバカな義姉なんだから……。
だから、私は最後にこう言ってやったのだ。
「仲良く……したいんでしょう?」
「優花しゃん!」
すると、百合は狭い浴槽の中でおもむろに正面を向いて私に抱き着いて来た。
こ、こらぁ!? アンタ、こんな狭い場所でくっ付いたら、胸とか見ちゃいけないモノがいろいろ密着して……
「だ、抱き着くなぁぁああああああああああああ!?」
本当にこれ……明日から大丈夫かしら?




